「バリボリバリ……あれ? リョー、食べないの?」
「はっ!」
アリサのとんでもない食べっぷりに固まってしまっていた。
カゴカサの身が焦げない内に僕も食ベないと。
このままだと食べにくいから、細い枝を箸の様にして持ってっと……。
「はむ……もぐもぐ……」
ふむ、見た目と違って白身魚に近い淡泊な味だな。
個人的には脂がのっている青魚系の方が好みなんだけど、これはこれで十分うまい。
けど……これだと煮つけが食べたくなってくる。
どうにかして醤油を作れないかなー。
この無人島にも大豆、穀物系があれば……あっそうだ! 魚で作る魚醤油っていうのもあった。
魚を塩漬けにして熟成発酵させれば出来る……って、僕は馬鹿か。
今すぐほしいのに、約1年ほどかかる物を作ろうとしてどうするんだよ。
まぁいつまでこの無人島にいなきゃいけないのかわからないから、仕込んでおくのもありといえばありか……。
とりあえず魚醤油は置いておいて、今は目先の事を考えよう。
まず、このカゴカサが保存食の干物や燻製に出来るかどうかだ。
その為には出来る限り沢山のカゴカサを獲らないといけない。
今確実なのは、ミースルをまき餌にしてカゴカサおびき寄せてアリサが捕まえる事。
ただ捕まえられるのは1匹2匹くらいが限界だろうし、何より何度も飛び込むとアリサの体の負担も大きいのは目に見えている。
僕が同じ事をやっても……絶対に獲れない自信しかない。
アリサの飛び込み漁は、もう本当に手が無くなった時の最後の手段として置いておこう。
飛び込みは無理、釣りも無理、網も無理、素潜りも……いつかはうまくなりたいという思いがあるだけで今は無理。
となれば、確実に捕れるとは言えないけど思いついた罠を設置してみることにしよう。
思いついた罠は2つ。
1つ目は魚垣。
遠浅の海岸に大い石と小さなの石を積み上げていって、U字型もしくは半円形の堤防を作る。
満潮時に海水が堤防を越えて海の中に沈む、その時魚達も入って来る。
そして、干潮時に海水が引くと堤防の中に魚が取り残されるわけだ。
2つ目はもんどり。
籠の中に餌を入れて魚をおびき寄せ、餌につられて中に入った魚が外に出られないようにする道具だ。
サバイバル動画では、持参したり、流れ着いたペットボトルで作っていた。
まぁペットボトルはこの島に流れ着いていない……もしくは存在しないだろうから葉っぱや蔦を編んで作作るしかない。
そうやって作った動画を出していた人たちもいたし、できるだろう……多分。
「ア、アリサ……さん、食べながらでいいから聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
「……バリボリ……ん? なに?」
まだ頭の部分を食べてるし。
よく顎が疲れないな。
「え、えと、今が満潮なのか干潮なのか、大体でもいいからわかるかな?」
堤防の高さが重要だからな。
それに僕の世界だと、満潮と干潮は毎日約50分ずつ遅れているらしいから、この世界も同じなのかも把握しておかないと。
「マンチョウ? カンチョウ? 何、それ?」
僕の言葉にアリサは首を傾げた。
「へっ?」
冗談……だよな。
満潮と干潮がわからない事なんてあるのか?
「か、海水の高さが変わる現象の事だよ。満潮だと高くなって、干潮だと低くなる……」
「……海水の、高さが……変わる?」
僕の説明が悪いというより、本当にわからないという感じだ。
もしかして、この世界って満潮と干潮が無いの? マジで?
「……え? えっ? リョーの世界の海って、そんな事が出来るの!?」
アリサが頭を投げ捨て、目を輝かせながら僕の傍へとにじり寄って来た。
「えっ! いや、出来るというか……なるというか……」
この反応。
本当に満潮と干潮が無いみたいだな。
っていうか近いって!
「ねぇねぇ、それはどんな魔法なの? それとも、すごい技術で起こしているの?」
「げ、現象だよ……確か、月の引力で海水が引っ張られて……」
……ぐらいしか覚えてないぞ。
他にも要因があったような……。
「インリョク? 何、それ!?」
ニュートンの話になって来たし!
駄目だ、これ以上話していると話がどんどんズレていく。
強引にも戻さないと。
「とっとにかく! 僕達の世界だと月の不思議な力によって、そういう事が起きているわけ! で、この世界だと海水の高さは変わらないって事でいいの!?」
「ふ~ん……よくわからないけど、わかった。なるほどねぇ……流石、異世界だわ」
それはこっちが言いたいセリフだよ。
「あっ海だけど、そんな高さが変わるのなんて、見た事ないし聞いた事も無いわ」
「そ、そっか……」
この世界には満潮と干潮が無いのか。
紅い月と蒼い月の2つの月が関係しているのかな。
だとすると、この世界の自然は……いや、そんな事を深く考えても仕方ないか。
僕にとって重要なのは、満潮と干潮が無いという事実のみだ。
んー潮の高さが変わらないとなると、魚垣の形は別の物にするか。
石を運んでの魚垣作りは僕がやって、もんどりはアリサに作ってもらうのが理想だよな。
ペットボトルだと比較的に簡単に出来て、説明もしやすいんだけど……編むとなるとどうなんだろう。
まぁこれはアリサに説明して判断しよう。
「あ、後アリサ……さんに今から説明するのを作ってほしい物があるんだけど、聞いてくれる?」
「どういうの、かな?」
僕はペットボトルを蔦の籠と置き換えて説明する事にした。
ペットボトルの上の部分を切り落として作る部分を、先の部分が無い状態の円錐の籠として。
残ったペットボトル本体を、細長い籠とした。
それをペットボトルと同じに上の部分を逆さまにして、本体に突っ込み固定させる。
後は、水が出入りするように下の部分に小さな穴を何個か開けて……って、蔦の籠だから隙間は必ず出て来るからこれは心配ないか。
「……で、その中に重りになる石と餌を入れて完成……なんだけど、出来るかな」
地面に絵を描きつつ、一通りの作り方を説明をし終えた。
アリサは見ていた絵から目線を外し、うーんと少し考えたのち。
「うまく、作れるかわからないけど、やってみるね」
と答えてくれた。
そして食べ終えた後各自、作業を開始しする事にした。
※
「よいしょっと……ふぅーこれは腰に来るな……」
僕は磯の一部の石を退かしたり、積み上げたりを繰り返して小規模なため池を作っていた。
疑っていたわけじゃないけど、作業中潮の高さが一切変わる事は全く無かった。
おかげで、ため池の高さが簡単に決まり調整もしないで済むから作業は比較的楽だ。
ため池タイプは入り口を開け、その中に餌を巻く。
その餌につられて魚が入って来たところを見計らって、入り口をふさいで閉じ込める。
そうすれば手づかみでも魚を捕れるという訳だ。
……最初からこうすれば良かった。
「さて、ミースルをため池の中に入れて……待機だ」
さぁー来い! 今度こそ自力で捕まえてやる。
意気揚々と僕はカゴカサが来るのをずっと待ち続けた。
アリサが飛び込んだ時に立てた大きな音で、カゴカサや他の魚が遠くの方へ逃げていた事も気付かずに……。
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