「んー……この辺りでいいかな?」
僕の腰と同じくらいの浅瀬までやって来た。
上半身が海水から出ている状態なら、銛で魚をつくのも簡単だろう。
最初からこうすれば良かったな。
「さて、獲物は……って、全然わからん」
光の加減で水中がかなり見辛いぞ。
仕方ない、顔を海面につけるか。
「すぅーーー……っ!」
息を大きく吸い込んで顔を海につける。
そして苦しくなったら顔を上げて、息を整えてからまた海面に顔をつける。
それを3回ほど繰り返して気付いた。
「ぜぇーぜぇー……」
この方法は長く続けられない。
というか、上半身が出ているとはいえ息が出来ない点では素潜りとそう変わらない。
それじゃあ浅瀬に来た意味が全くない……なんとかして、水中を見る方法を考えなければ。
理想としては、やっぱりシュノーケルだよな。
海の中に顔をつけても息が出来るし。
竹があれば節を抜いて筒状にすればいいんだけど……今のところ、この無人島では竹を見ていない。
そもそも竹って、この異世界にあるのだろうか。
あれば無人島生活でかなり役立つんだけどな。
戻ったらアリサに聞いていよっと。
「あ、そうだ」
透明なビンを使って水中メガネ代わりにする方法があるんだった。
僕は陸にあがり、持って来たビンの水を飲みほしてからもう一度海へと入って行った。
ビンを横にして半分ぐらい水面につければ……お、水中メガネよりぼやけているけど海の中が見やすくなったぞ。
この状態でじっとしていれば魚が傍まで泳いでくるはずだ。
後は、そこを一気に突く!
「イメージはばっちり。よし、いつでも来い!」
※
……。
待てど暮らせど大きな魚は全く寄ってこない。
寄って来ているのは、銛でつけないほどの小魚ばかりで僕の足をずっとつついている。
くそ……網があれば一網打尽なんだけどな。
「……寒くなって来た……」
温かい海とはいえ下半身はずっと水の中。
徐々に体が冷えてきたし、これ以上は辛いな。
一度アリサの所に戻って体を温めた方がいいか。
ボウズで戻るのは気が引けるけど、こればかりは仕方ない。
僕は透明な海藻を握りしめてアリサの元へ戻った。
「フン~フン~フフ~ン~」
アリサの元へ戻ると、鼻歌を歌いながら何かを作っていた。
「あっおかえり~。どうだった? 収穫……は無かった、みたいね」
「……え? あ、いや――」
アリサは透明の海藻を持っている事に気が付かなかったらしい。
収穫が無いわけじゃない事を否定しようとすると。
「ねぇねぇ、見て見て。簡単だけど、待っている間に、作ったんだ」
アリサが茶色で丸い物を拾い上げて僕に渡して来た。
「……こ、これって籠?」
「そっ。そこの木の皮を、少し剥いで編んだの」
入れ物に関したら、ビンの入っていた木の箱と土器しか頭になかった。
だから籠を編んで作るという事を完全に失念していた。
籠があれば実の収穫、浜に流れ着いた物の回収で楽になるし、作り方次第では魚を捕まえられるトラップにもなる。
何で今まで思いつかなかったかな。
この調子で本当に生き抜けるのだろうか、僕は……。
「ちょっとその辺りを見たら、ミースルがいたから、これに入れようと思って」
「ミースル?」
なんじゃそれ。
「通称、分裂貝っていうの」
分裂貝……貝の名前か。
ん? 貝となると……。
「そ、それって食べられるの?」
「うん、生でも美味しいわよ」
やっぱり! 良かった、海藻以外にも食べられるぞ。
あっでも、有毒なプランクトンを食べて貝毒になっている可能性もあるからちょっと怖いな。
貝毒は火にを通しても毒は消えないし、味もしないから確かめようがない。
運次第になるけど、背に腹は代えられないか。
「ほらほら、ここ」
アリサが大きめの石をひっくり返すと、裏には巻貝がたくさんくっ付いていた。
「これが、ミースル?」
見た感じはタニシに近いな。
いや、イソギンチャクの様な触手が巻貝の入り口から出ているからタニシじゃないか。
本当に食べられるのか疑問だ。
「そう。こうすれば……ほら、身が出た」
アリサは細い枝をミースルの入り口に差し込み、つるんと中身を出した。
イソギンチャクの様な触手が付いているサザエみたいだ。
「いただきま~……」
「わー! 待った待った!」
アリサがそのまま食べようとして、僕は慌ててそれを止めた。
「えっ? このまま、食べられるよ?」
「そ、そうだけど……やっぱり生は怖いから、火を通しておきたいなと」
「火ね……でも、どうやって焼くの?」
そこなんだよな。
タニシサイズだと焚き火であぶるのは難しい。
鉄板で焼くか茹でるしかない。
けど、土器はまだ出来ていないから茹でるのは無理。
鉄板もこの無人島にあるわけがない。
さて、どうしたものか……。
「…………あ、そうだ」
この辺り一面に落ちている石を焼いて、その上で貝を焼けばいいんだ。
「ぼ、僕は石を加工から、アリサ……さんはその間にミースルを集めてくれないかな?」
「石……? ああ、なるほど。わかったわ、たっくさん集めておくね!」
大き目で平たい石もあるけど、どうしても凸凹がある状態だ。
これだと当然うまく焼けない。
だから、手ごろな大きさの石で側面を叩いて削って出来るだけ平らにする。
平らの石が出来たら焚き火の上に乗せれるようにしないといけない。
高さが同じくらいで幅のある石を焚き火の両端に置く。
で、その上に平たく削った大きな石を乗っける。
「これで良し」
後はこの石が焼けるのを待つだけだ。
けど、焼けるのに時間が掛かるし僕もミースルを捕るとしよう。
「よっ……ん?」
ミースルがありそうな大き目の石をどけると、小さくて動くモノが出て来た。
両手がハサミになっていて横歩き……これってカニか!
「やった! カニ発……って! なんじゃこれ!?」
サワガニの様だけど、僕の知っているサワガニじゃない。
何故なら甲羅が人の顔みたいになっているからだ。
僕の世界にも甲羅が人の顔みたいに見えるカニは存在する。
けど……このカニはレベルが全然違う。
キリっとした眉毛、今にも目を空けそうな目蓋、鼻の穴がある高い鼻、柔らかそうな唇。
超絶リアルなんですけど。
「どうしたの? 大声を、上げて」
僕の声にアリサが傍に寄って来た。
「あ、コガオガニもいたんだ」
小顔って……確かに人の顔でちっちゃいけど。
「……ちなみに……このカニって……」
「食べれるから、これも捕まえましょ」
そうですか、食べられるのですか。
生の貝を食べるより勇気がいるぞ、これ……。
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