僕、シュムックとダイヤモンドにとっての「初夜」が明けた朝。彼女が僕に提案を出してきた。
「マスター、仲間を探しに行きましょう」
「仲間探しって……宝石集めって事? それは出来ないよ。僕みたいな平民が宝石を持つことは即座に死刑になる重罪だよ? 今だって君を持ってることがばれたらどんな目に遭うか……」
「ご安心を。合法的に宝石が手に入る可能性が極めて高い作戦です……ドラゴンの巣をあさりましょう」
「ド、ドラゴンの巣を!? 危なくない!?」
ドラゴン……この地上で最も強い魔物。と同時に極めて強欲な性格で知られ、巣は金銀財宝で飾られているという。もちろんそのコレクションの中には宝石もあるだろう。
倒せれば莫大な報酬が転がり込んでくることになるが、あくまで「倒せたら」の話。実際には返り討ちに遭ってチリ1つ残らず焼却処分されるのがオチだ。
「集まった戦力次第ではドラゴンを倒せる可能性は十分にあります。それに今のマスターは貴族ではないのでおっしゃる通り私がいることで生命の危険があります。
ドラゴンの財宝さえあれば貴族の地位を買うこともできますのでどうか作戦の許可をお願いできますか?」
「うーん……分かった。行こうか」
僕は許可を出した。彼女とは1晩寝たのもあってか愛情を感じていた。彼女の作戦をむやみに却下するわけにはいかなかった。
歩き続けること3時間……
巣の主は狩りにでも出かけているのか誰もいなかった。
「ちょうどいいですね。宝石が無いか探しましょう。巣の主が帰ってくる前に何とかしないと」
噂ではドラゴンは自分の財宝に魔力でマーキングしているという。このため誰かが持ち去ったらすぐわかるし、盗んだ者は地の果てまででも追いかけて殺しに行くといわれている。
何故ドラゴンの巣の主がいない間に空き巣をして潜り込む奴がいないのか? その理由がこれだ。
ほどなくして……宝物庫だと思われる部屋を発見した。金貨や銀貨が100枚ほどありその中には宝石もあった。
「マスター、見つけました。サファイアとルビーとエメラルドです」
出てきたのは握りこぶしほどもある大きさの赤いルビー、青いサファイア、緑のエメラルド。それの持つ力を『宝石使い』の能力で開放する。
「ボクはサファイア! 誠実と忠誠をつかさどる宝石です! マスター! よろしくお願いします!」
スカイブルーの短髪に男の子のように見える顔つきや衣装だが、胸はありウエストもくびれているから女であることは間違いない。あとやっぱりダイヤモンドみたいに肌の露出度が高い。
手には刀身が青い水晶のような色と輝きを持つレイピアが握られており、おそらくスピード重視なんだろう。
「私はルビー。情熱と愛をつかさどる宝石です。あなたにこの身をささげましょう」
次いで現れたルビーはどことなくサファイアによく似た顔と格好、それでいて紅く胸まである長い髪に先端が紅い水晶のような色と輝きを持つ十字槍を持った女だ。
髪の毛は肩まで伸びていたのがサファイアとの大きな違いだ。
「あら~、あなたがマスターちゃん? 私はエメラルド。幸運と希望の宝石です」
最後に出てきたエメラルドは腰まで届くウェーブがかかった緑色の髪をして、胸が4人の中で一番大きくどこか母性溢れる雰囲気をまとっていた。
持っていた武器は先端が緑色の水晶のような物体で出来た杖だった。
「……うん。この4人ならドラゴンでも倒せるくらいの戦力にはなりそうね。じゃあ金貨を持ち逃げしましょうか」
4人は手分けして財宝である金貨を盗み始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 宝石だけならまだしもドラゴンの財宝を盗むなんて危なくないか!?」
「いやぁ、この際だからお金も盗んだ方が良いかなって。どうせボク達を持ち出すってことはドラゴンの財宝を盗むことに変わりないんだから、じゃあ少しでも多く盗もうかなって。
それにドラゴンを倒せば財宝は全部ボクらの物になるし」
「はは……もう倒したつもりでいるのか」
彼女らの割り切りの良さに僕は言葉も出なかった。
窃盗団が財宝を失敬して巣から立ち去って、少し。巣の主が狩りから戻ってきた。
……誰だ!! オレの財宝を盗んだのは!?
財宝を全部持ち去られたことに凄まじい怒りがこみあげてくる。鼻をフゴフゴと動かし「マーキング」した魔力をかぎ取るとすぐその辺にいる事が分かった。
……許せん!!
ドラゴンは近くの小動物が聞いただけで失神しそうな程の雄たけびをあげて巣を離れた。
【次回予告】
オ、オレはキレた……!!
巣にあった財宝をほぼ全部盗まれたドラゴンは心底激怒し、盗人に死という制裁を加えるために窃盗団一行を襲撃する。
第5話 「ドラゴン殺し」
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