ボイドが「神界へと続く迷宮」の攻略を開始して、3ヵ月が経った。
「……ここが最深部か」
ボイドは「神界へと続く迷宮」の最下層、地下10階の一番奥の部屋にたどり着いた。
「……神界には通じてなさそうだな。名前に偽りアリだね」
「偽りか、まぁそう言われても仕方あるまい。実際ギウ=ミューシャにも言われたからな。だが元をたどれば神界の財宝……正確に言えばその完璧な複製品があるのは確かだぞ」
「ふーん。コピー品ね」
そう言ってボイドは最深部に眠る財宝を手に取る。どこかドラゴンを連想させる鋭いフォルムをした大剣だった。
「!! こ、これは!」
ボイドの手で持ち込まれた商品に鑑定歴30年を優に超える店で1番の古株が反応する。これはとてつもない代物だと彼の直感が告げていた。
「あ、あの! これはいったいどこから見つけたのですか!?」
驚きで多少声が裏返っている店員が客に問う。
「へぇ、そこまで驚く位ならよほど希少なものなんだろうな。持ち帰ったんだよ「神界へと続く迷宮」の最深部からな」
「最深部!? ってことはまさか!」
「ああそうさ踏破したんだよ。「神界へと続く迷宮」をね」
「……!!」
客の発言に店員一同がざわつく。
「……かしこまりました。では査定に入らせていただきます」
とはいえ彼らの仕事はあくまで持ち込まれた財宝の鑑定。本業をおろそかにすることはせずに査定に入ることにした。
「おい大丈夫かあいつ? いくら常連で相当な実力者だとしても狂言なんじゃねえの?」
「シッ。バカ、聞こえたらどうするつもりだ?」
店舗のバックヤードで店員たちが話をしている。世界最難関の迷宮「神界へと続く迷宮」を踏破した。と言われても、すぐに「はいそうですか」とは言えない。
「……!! こ、これは! 間違いない!」
店1番のベテランが鑑定した結果が出た。
「こいつは……ドラゴンスレイヤーだぞ! 間違いない! 本物だ!」
「!! ドラゴンスレイヤー!? あのギウ=ミューシャが持ち帰った伝説の武器ですか!?」
ドラゴンスレイヤー……「竜を屠る者」の名が示す通り、所有者に竜すら倒せるほどの力を与える霊剣である。
同じものを人工的に作れないかと30年近く研究は続けられているがいまだ不完全なものしか作れず、本物はギウ=ミューシャから帝国家が買ったものが伝わるだけである。
ボイドなる冒険者が「神界へと続く迷宮」を踏破した。という噂はあっという間に国中に広がり、ついには帝国の皇帝一族にまで広がる。
彼は皇帝に呼ばれ城へと呼び出された。
「ボイドとか言ったな。確か「神界へと続く迷宮」を踏破したそうだな。で、神界の様子はどうだった?」
「結論から申し上げますと、最深部でも神界へは続いていませんでした。
ただ、神界の財宝の複製品ならあるとのことなので、そこから神界へと続いているという噂話が立ったのでしょう。言っておきますけど狂言かもしれませんよ?」
「ふーむ。神界には通じてなかった、か」
「皇帝陛下、私の話を信じるんですか?」
「ああそうだ。信じるに値するとは思っているさ。実をいうと祖父がギウ=ミューシャに聞いたところ、同じように「直接神界へは通じてはいない」と言っていたんだ。
ところでボイド、お前はドラゴンスレイヤーを持っているそうだな? 我が帝国家にぜひとも欲しいのだがどうだ? もちろん代金は払うとも。どうする?」
「そ、そうですか……わかりました。お譲りしましょう」
こうしてボイドは「一生遊んで暮らせるほど」の財を手に入れた。
冒険者ボイド。彼はギウ=ミューシャに続いて「神界へと続く迷宮」を踏破した人類史上2人目の冒険者の事から「2番目のギウ」と呼ばれ歴史にその名を刻むことになった。
【次回予告】
「宝石使い」……おそらく宝石を使って何かをするのであろう職業。それがシュムックの職業だった。
「平民はあらゆる種類の宝石を持つことを禁止し、従わないものはその理由問わず極刑を科す」という法律が世界各地に施行されている世界では、もはや宝石使いが本来どんな職業なのかさえ分からなくなっていた。
そんな中、シュムックは「宝石使い」の真の力に目覚め、救国の英雄となるまでの物語。
「無能ジョブ「宝石使い」が実は最強ジョブでした ~強くてかわいい宝石娘に囲まれて幸せです~」
第1話 「僕が童顔で巨乳な美少女のマスターだって!?」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!