「遅えぞシュムック! モタモタしないでついてこい! ったくホント使えねえなお前は」
「しゃあねえよ『宝石使い』なんだからよぉ。『人足』は雇うと高いから仕方なく使ってやってるだけでもありがたく思えよなぁ?」
「ハァ……ハァ……」
雇い主である勇者パーティの最後尾を僕は鈍い足取りで歩いていた。
「宝石使い」
それが僕、シュムックの職業だ。
宝石使いって言うからには「宝石を使って何かする」職業だろう。自分の職業で「だろう」が付くなんておかしくないか? と思うかもしれない。
なにせ僕はこの時まで宝石に触れたことも無いし、ましてや所有したことも無いからだ。
パーティリーダーの勇者がお守りとして持っていた「幸運のダイヤモンド」を見る機会があるだけ、とんでもなくラッキーな方だ。
何故なら宝石は王侯貴族のものとして完全に独占され、市場には一切出回らない。庶民に出回るのは質の悪い混ぜものだらけの金や銀などの貴金属がせいぜいだ。
貴族や王族では無い平民が宝石を持つことは「神から世界の統治の命を受けた王侯貴族に真っ向から背く」重罪で発見次第有無を言わさず死刑となる。
なので「宝石使い」という職業は希少でこそあれ歓迎される職業ではない。
何故なら宝石を見たことすらない宝石使いなんて「回復魔法を使えない僧侶」や「字の読めない学者」みたいなもので、端的に言えば「最弱職」であり「呪われた職業」だ。
一応は「荷物持ち」として働いているが「人足」の職業に就いている人間の方がはるかに良く働いてくれる。
そんな不遇職で誰からも疎まれ、役立たずの烙印を押され、生きることに向いてないとさえ言える職業。それが「宝石使い」という職業だった。
「!! お、おい! ミノタウロスがいるぞ!」
ダンジョンの最深部。そこにはフロアの主とでも言える屈強なミノタウロスがいた。パーティメンバーは戦おうとするが……
「ぐえっ!」
大斧で鉄の鎧ごと叩き斬られてメンバーの戦士が倒れる。
「オ、オイ! しっかりしろ!」
「マズい、重傷だ。いったん撤退しよう!」
その強さに圧倒され、逃げ出す。僕も彼らのついていこうとするが僕のみぞおちに一撃を入れる。
「シュムック! 俺たちが逃げるまでの時間を稼げ! 役立たずのクズが最後の最期で役に立てるんだぞ! ありがたく思え!」
「!! ま、待ってよ!」
勇者アルヌルフ率いるパーティでは落ちこぼれで、サンドバッグにされ、ゴミクズのように扱われた挙句、
今回パーティがダンジョン深部でミノタウロス相手に惨敗して撤退する際「捨て石」にされたのだ。僕の一生はここで終わると思っていた。
……勇者アルヌルフが落としたのだろう、祖国の姫君からお守りとして渡された「幸運のダイヤモンド」に触るまでは。
直感だった。あの時は直感でダイヤモンドに触らないと、と思った。
そして触れた瞬間、しなびた植物の芽が雨でうるおされみずみずしさを取り戻すかのように、本能に刻まれた宝石使いの能力が開花したのだ。
「具現化!!」
僕が本能の赴くままに使ったその技で、勇者が落としたのであろうダイヤモンドを核に宝石が光の粒子をまとい現れた少女が、
ミノタウロスの樹齢数百年はあろうかという木の幹のような胴体を一刀両断した。
何が起こったんだろう……? 気が付くと僕の前には少女が1人立っていた。
10歳前後に見えるほどの「若い」というよりは「幼い」といたほうが正しい銀の瞳が特徴の童顔に、それを飾る混じりけのない純白の長いストレートロングの髪。
その顔の割にはスラリと伸びた背に大きくたわわに実った胸。
胸が出ている分余計に目立つのであろう、大理石の彫刻みたいに見事なまでくびれたウエスト。
たるみが一切ない上がったヒップ。
水晶のような透明な素材で出来た彼女の細い腕の力からしたら両手ですら持てるかどうか怪しい程の大型の剣と盾。
その身体を覆う服は純白の布で出来ており、やたら肌の露出が多い。
そんな貴族でも平民でもない妙な恰好をした少女は口を開けるやいなやこう言った。
「マスター、お怪我はありませんか?」と
【次回予告】
なぜ王侯貴族は平民から宝石を取り上げたのか? なぜ宝石使いがそこまでの脅威になりうるのか? 全ては宝石本人から教えてもらいました。
第2話 「ダイヤモンドは純潔」
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