フォルトゥーナの兄は、産まれつき人一倍独占欲が強かった。
父親や母親の愛が弟に奪われるのが何より嫌で、彼らが弟の世話をしだしたら途端に大泣きする始末だった。
成長してもその癖は直らないどころか悪化する一方で、弟が自分にない錬金術師としての才能を発揮するようになると「居場所が奪われる」と思って
あらゆる手段を用いてでも周りが自分に注目してくれるよう弟を叩いた結果が、パーティの空中分解であった。
彼は自分が常にスポットライトを浴びてないと死の恐怖が頭をよぎる、という位「承認欲求のお化け」であった。
「いやぁー、よく俺のパーティに入ってくれて本当にありがとう」
勇者であるフォルトゥーナの兄は冒険者ギルドでパーティメンバーを募集し、それに応じた戦士、女僧侶、そして賢者の3人に満足げな顔をしていた。
「俺なんかで本当にいいんですか? A級パーティなんて不釣り合いだというのに……」
「いやいや履歴書を読ませてもらったが俺のパーティに入るには文句の言いようがないほどの実力だぞ? 自信を持ってもいいぞ」
「は、はぁそうですか」
「で、これからどうするの?」
戦士と勇者との会話に割り込む形で女僧侶が声をかけてくる。
「そうだな。一応はパーティを組んだっていうけどまだ他人みたいな関係だろ? しばらくは格下の相手で肩慣らしでもしようかなと思うんだが。
とりあえず近くに住んでいるオーガの討伐でもしようかと思うんだがいいか?」
「賛成ー」
「俺もそれでいいと思う。一応は実力を見たいし見せたいからな」
「分かったわ。それで行きましょうか」
「よし、じゃあ行こうぜ」
パーティメンバーの意見は全員一致した。一行はオーガの寝床であるほら穴までやってくる。
「オーガか。デーモンよりはだいぶ弱いがそれでも油断するなよ……行くぞ!」
勇者と戦士がパーティの前に立ち、ねぐらから出てきたオーガと対峙する。先手を取るべく駆けだした戦士、だが……
ガッ!
「!?」
戦士は石につまづいて派手に転んだ。脱ぎ着しやすいよう緩く装着しているだけの帽子に近い兜も脱げてしまい、頭部があらわになる。
それを見てオーガは持っていた大斧を戦士の脳天目がけて振り下ろすが、勇者パーティも黙ってみているわけではない。賢者が魔法を詠唱する。
「イグ・カルマール・エンフォリア・カゴみゅ!?」
賢者は呪文の詠唱の最中に思いっきり舌を噛んでしまい、呪文が消えてしまう。
また、勇者であるフォルトゥーナの兄も彼を助けようと駆けだすが……
ガッ!
「!?」
彼も石につまづいて転んでしまう。
その直後、戦士の脳天にオーガの大斧の一撃が無慈悲に振り下ろされる。文字通り頭をカチ割られ断面から鮮血と中身が流れ出す……無論即死だ。
あっけない。あまりにも、ただひたすらに呆気なさ過ぎる、戦士の最期だった。
ニヤニヤと笑うオーガ相手に、勇者はキレる。
「テメェ! よくも!」
怒りを乗せた彼の斬撃は筋肉の塊であるオーガの身体をたやすく両断する程の切れ味だった。本来ならこんな感じであっさりと片付く相手なのに、仲間になったばかりの戦士が死んでしまった。
「嘘だろ……こうもあっさり死ぬなんて……」
戦士の身体を見ると完全に頭が割れていて、中身が見えている。
「ブリトニー……一応聞くが回復できるか?」
「ごめん、完全に死んでるから私にもどうしようもないわ」
女僧侶のブリトニーも残念そうに言う。
「それにしてもおかしくないか? 2人とも転ぶなんて余程の事が無ければ起きえない事だろ? 俺もあのタイミングで舌をかんだのは初めてだぜ?
『運が悪かった』の一言で片づけるにはちょっと不幸が重なり過ぎてるぜ?」
「わからん……正直、俺もここまで不運が続くのは初めてだ。俺にも分からん。とりあえず葬式だな」
勇者であるフォルトゥーナの兄は遺体を抱えて町へと向かった。これが彼の持つ「超凶運」スキルの効果なのだが、本人たちは気づいていない。
【次回予告】
兄と別れて単独行動を取っていたフォルトゥーナ。首尾よく依頼を見つけたのだが……。
第3話 「風邪を治しただけで英雄扱い」
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