「!! この魔素は!! まさか!!」
「こ、これは!! 本当に実在するなんて!!」
「お、おい君! もう一度スキャンをやってくれ! 万が一の間違いだと言う事もありうるからな。慎重にな」
ピオッジャが初めて王立の研究所を臨時職員という立場で出勤することしばし。彼の身体を、特に魔力に関しての測定した結果に一同はどよめきだつ。
「? 何があったんですか?」
そのどよめきに「何かとんでもない事が起こっている」のは察することは出来たが、今一つピンと来ないのかピオッジャは何が起こっているのか分からない顔で職員に話かける。
「ピオッジャ殿。まぁいいでしょう、話しましょう。我が国では古来より『雨を起こす研究』が行われていたんですが、その際に「雨を呼ぶ魔素」が核となる位置にあるのが分かったんですよ。
だがその魔素は非常に希少で、特異体質とでもいうべき人間からしか採れない特殊なものとされていたんですよ」
「は、はぁ。ではその特殊な『まそ』とか言いましたか? それが……」
「お察しの通りです。その特殊な魔素をあなたの身体から採取することに成功できたんです。王国初の快挙ですよ」
「……何かとんでもない事を起こしてしまったような気がするんですが」
「いや、構いません。ここから先は我々研究員の仕事ですから。今日のところは十分です。とりあえずお帰りいただいて結構です」
明らかに年上で威厳すら漂ってくる風格の男から丁寧な言葉でそう言われ、ピオッジャは研究所を後にした。
翌日……一応は研究所の臨時職員という身分ゆえに、彼はまだ慣れない研究所へと出勤してきた。通路ですれ違う職員を見ると大抵の者は目の下にクマがあるのだが、みんないい顔をしている……気がする。
「そのクマ……もしかして徹夜でもしたんですか?」
「ええまぁ。理論上でしか存在しなかった魔素が見つかったとなったら研究したくて研究したくておちおち寝てなんていられませんよ」
彼の声はワクワクを抑えきれない様子が素人目にもうかがえる。
10年間務めただけあって外交官としてはそれなりに様になってはいるが、いかんせん学屋や研究とは無縁の人生を歩んできたためいまいちピンとは来ないのだが。
昨日と同じようにベッドで横になり、いかがわしい装置で計測および魔素の採取を行う。
「しかしベッドで横になってるだけでいいなんて何か怪しくないですか? これで外交官をやってた頃並みの給料が出るなんて何か裏でもありそうな気がするんですが……」
「いやいやそんなことありませんぞ。あなたの身体が持つ特殊な魔素は今まで実物が無かっただけに研究は机上の空論で、あくまで仮説の域を出なかったものなんですが、
ついに実物が発見されて寝る暇さえ惜しいほど研究が加速しているんですぞ? というかここの職員はあなたの到着以来徹夜が当たり前になってますぞ」
「へぇ、そうなんですか」
「ピオッジャ殿は呑気ですなぁ。こちらは魔法研究の歴史に新たなページが書き加えられるかもしれないという一大事だというのに……」
建前上は上司という事になっているが、彼の事は大事なお客様として接している年上の職員はピオッジャと丁寧語で会話をする。
「さて、研究が忙しいので今日のところはこのくらいで結構です。お帰りいただいて構いませんぞ」
「そうですか。じゃあまた明日になりますね」
3ヵ月後……
ピオッジャが砂漠の国デラッザに雇われてから、3ヶ月が経った。
この間、彼は仕事らしい仕事はしていなかった。やることと言えば王国の研究所で見たことも無い器具による身体検査を1日15分もかからない時間の間する事だけ。
たったこれだけで月に50000サールもの大金が転がり込んでくる。しかも週休3日が保障されていて、週によってはそれ以上の休みがもらえることもある。
最初こそ「実験材料か……」と不満ではあったが、あまりにも「破格」な待遇にある程度は満たされてはいた。
「ハイ、終わりです。ご協力感謝しますぞピオッジャ殿」
彼はいつものようにベッドで横になり、何やらゴテゴテした怪しい計測装置による検査を受けていた。研究員の合図で装置は止まり、今回の測定は終わりらしい。
「ではまた研究に必要とあらばお声をおかけしますのでその際はご協力をお願いいたしますぞ」
「分かりました。じゃあその時は何なりとお声をおかけくださいね」
ピオッジャは今回の「研究への協力」は終わり帰路につくことにした。今回の仕事も15分以内に終わる、彼からしたら「ベッドで横になりじっとしているだけ」というものだったが。
外に出ると空は彼にとってはいつも通りの曇り空。
砂漠の国にとっては建国史上初めての大事件で、ここ3ヶ月ほど曇り空が続いているどころか日によってはまとまった雨も降る。というのは「異常気象」と言ってもいい位だった。
(……そういえばここに来てからも曇り空で太陽を見た事なんて1回も無いな。薄くなった雲越しに見たことは何回かあったんだが)
古巣であるソル王国のセレーノ王や砂漠の国デラッザの王が自分の事を雨男だと呼んだのを思い出す。最初はバカバカしいと一蹴していたがここまで砂漠に曇をもたらし雨まで降らせ、
王立研究所が大騒ぎする程の大発見をもたらした、となるとただ事ではなさそうだ。彼は人生で初めて自分の体質について真剣に考えるようになったという。
【次回予告】
雨男ピオッジャを追い出して3ヶ月が経った。ソル王国では快晴……いや「ひでり」が続いていた。
第6話 「ひでりの日が続くソル王国」
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