「お前を切り捨ててから、笑っちまうくらいに坂を転げ落ちていったのさ。まずダイヤモンドを失くしたのを誤魔化すために嘘をついて国王を怒らせて支援を打ち切られたんだ。
それでも凋落は止まらなかったんだ」
アルヌルフはそう僕らに語りだした。まずはダイヤモンドを失くしたことで王からの支援を打ち切られたことの詳細と、その続きだ。
◇◇◇
「……遅いな。あいつ、何してる?」
休みの日の翌朝、朝になってもパーティーメンバーの1人が帰ってこない。朝帰りか? と思ったその時、衛兵たちが部屋へとやってきた。
「アルヌルフだな。お前の仲間が捕まったんだ」
「!? つ、捕まった!? 何があったんだ!?」
「どうか冷静になって聞いてほしい。実は……」
勇者パーティのリーダー、アルヌルフは捕まった仲間を見ると、襟元をつかんで今にも殴りかかろうとする程の勢いで問いかける。
「テメェ! 麻薬の売人のマネ事をするなんて正気か!? 気でも狂ってんのか!?」
「だってしょうがねえだろ! メシはマズい! ベッドも寝心地が最悪! 酒も女も買えないしバクチも出来ない! そんな貧しい生活にもう耐えられないんだ!
だから手っ取り早くカネを稼げるこんな方法にすがらなきゃいけないんだよ! 仕方がなかったんだ!」
「お前……!!」
あまりにも身勝手な理由で殴る気力も失せた。
人は贅沢を知るとそう簡単には引き返せない。いい思いをするとそれが「普通」になってしまって無くなってしまうことが「マイナス」になってしまう。
地球においては宝くじに当たって贅沢三昧をした結果、元の生活に戻れなくて借金を重ねたうえで自己破産。最悪元の生活という「地獄のように苦しい生活」に戻るのを拒否して自殺する。
なんていう話はその辺にいくらでも転がっている。それはアルヌルフの世界においても一切変わらない。
彼の祖国の国王による資金や物資の援助を受けて活動していたアルヌルフのパーティは端的に言えばかなり贅沢な暮らしができた。
だが国王から見捨てられた事で支援を打ち切られたパーティメンバーは、すでに援助が前提の暮らしが「普通」になっており、それが無くなることに耐えられなかったのだ。
その日、クエストを受けようとギルドに顔を出すが……。
「アルヌルフさんですね? 話は聞いています。パーティメンバーが麻薬の密売をやっていたそうで……間違いありませんね?」
「あ、ああ。間違いない」
「ギルドとしては国によっては即座に死刑判決が出される極めて重い罪を見逃すわけにはいきません。
今日付けであなたのパーティは強制的に解散、並びに全メンバーのギルドへの再登録を禁止する永久追放処分を行います」
「そんな……! 何とかならんのか!?」
「私たちはギルド本部からの通達に従っているまでです。今回の処分に文句や不満があるのでしたら、私のような支部の受付嬢ではなく本部へ直接お願いします……出て行ってください。
ゴネるのなら衛兵を呼びますよ?」
冒険者ギルドというのは庭掃除と言った雑用から戦争の兵士調達まで幅広い仕事の引受先であり、そこから追い出されるというのは冒険者や傭兵稼業は引退以外にない。それほどの致命的なダメージとなる。
それはアルヌルフのようなS級冒険者パーティとて例外では無い。永久追放された汚名はどこまでも追いかけて来て決して逃げられないのだ。現職を続けるのはもちろん、再就職できる場所などどこにもない。
「……俺たち、これからどうするんだ? 女なら身体を売る位しか生き残る道は無いぜ? 俺たちは男だからそれすらできないけどな」
「……お前たちは故郷へ帰れ。俺はもう山賊に身を落とすしかない」
「!! さ、山賊だって!?」
「アルヌルフ! 正気か!?」
曲がりなりにもパーティリーダーだった彼の発言とは思えない。それほどの衝撃だった。
「俺はいたって正気だよ。故郷に帰っても国王からの大不評を買ってるからロクに就職先なんてない。
それにS級パーティのリーダーをやってたから国の内外問わず世界中に顔が知れ渡っているだろう、どこへ行っても追放者の汚名を隠す事は出来ない……完全に詰んだんだよ俺は。
お前たちはまだ故郷に帰ればそれなりに優遇してくれるだろう。だからここでお別れだ、じゃあな」
「アルヌルフ……!」
そう言って彼はメンバーの元を去っていった。
◇◇◇
「……というのが事の顛末だ。殺したければ殺せ。俺はお前に対して何をやったかは忘れたわけじゃないからな。死刑判決が出されても当然の報いだからな」
「追いはぎをやったとは聞いてるが相手を殺したのか?」
「いや、命までは取ってない」
「分かった。じゃあ奉仕労働35年の罰を与える」
「……ずいぶんと寛大な措置だな。いいのか? 俺は追いはぎをやった山賊なんだぜ? ギロチンにかける必要があるんじゃないのか?」
「もう僕を切り捨てて逃げた罪は十分背負っただろ。これで十分だ。それに生きてさえいれば減刑されるかもしれないからな」
「そうか……すまない」
アルヌルフとの話を終え、下がらせたらそばにいたダイヤモンドが珍しく不満げな顔を浮かべながら話しかけてきた。
「……マスター。あまりにも措置が寛大すぎではありませんか? 相手は仮にも人こそ殺してないとはいえ山賊として追いはぎをやっていた身ですよ?
35年にわたって奉仕労働をさせるにしても衣食住をこちら側が提供しなくてはいけませんし……彼の年齢からしたら事実上の「飼い殺し」ですが、するにもお金はかかるんですよ?」
「そう言うと思った。でも僕がキミを手に入れることができたのもアルヌルフのパーティに拾われたから、ってのもあるし
彼が不注意で落としたとはいえ、僕がキミを持ち出したせいで彼がああなってしまったっていう遠因にもなったから僕にも少しは責任があると思ってる。
だからその「罪滅ぼし」とでも言うべきものであの措置だったんだ。もし戦争でも起こったら活躍してくれたら減刑もアリかなって。お人よしが過ぎるかな?」
「……あの時マスターはミノタウロスに襲われて死ぬべきだった。ともで言いたいんですか?」
ダイヤモンドは詰め寄るように僕にそう問う。僕はしばらく考えて言葉を紡いだ。
「……かもしれない。僕のせいで彼がああなってしまったっていう責任を感じてるんだ。少なくとも僕が死んでいれば彼はあそこまで狂わずに済んだんだと思う」
「マスター……「あの時僕は死んでいたほうがよかったんだ」なんて言わないでくださいよ。マスターは私たちにとってかけがいの無い存在なんですから」
「そうか……でも僕には彼にこれ以上罰することがどうしてもできないんだ。こうなるきっかけを与えてくれたのは間違いなくアルヌルフの持っていたキミのおかげだし、
もし彼に会えなければ僕は一生平民のままで終わっていたと思う。こうやって伯爵になる道を与えてくれたのは……間違いなくあの人のおかげなんだ」
「……マスターはあまりにも人が良すぎますね。出来過ぎなのもかえって害になりますよ。私たちが生涯お守りいたしますから相手に下手な真似はさせませんが」
ダイヤモンドは少しあきれながらも、だから私のマスターなんだと思って優しく見守った。
【次回予告】
元々仲の悪い双子の兄弟の弟、フォルトゥーナはパーティリーダーである兄に恨まれ一方的に解雇、追放されてしまう。
だがその兄は「超凶運」スキルが付いていて、物心ついた時から一緒に行動していた双子の弟フォルトゥーナのスキル「超爆運」で相殺しているのに気づいていなかった。
ラッキー続きのフォルトゥーナと不幸続きの兄の運命やいかに。
「勇者パーティを追放されたらツイてツイてツキまくり!? 「超爆運」スキルが無敵すぎる!」
第1話 「兄より優れた弟なんて存在しねぇ!」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!