ナーダ一行は「村を力で支配している1つ目巨人を討伐してくれ」というクエスト内容にある問題の村にたどり着いた。
「ギルドから派遣されたナーダって者だ。こいつは相方のレーヌ。アンタが依頼主の村長か?」
「ええそうです。山に1つ目巨人が棲み付いて、毎晩宴を開け、逆らえば村をメチャクチャに破壊すると脅しているんです。何とか退治してくれませんか?」
「……逃げないのか? 来るのが分かっているなら逃げ出したほうがいいんじゃないのか?」
「我々農民は土地が無ければ生きていけません。逃げ出したらそれこそ奴隷にでもなるしかありません。だから土地を離れたらもうおしまいなんですよ」
「なるほど……」
ナーダは彼らの事情をすんなりと飲み込んだ。
「すまないがアンタらはいつものように宴を開いてくれ。俺がいることは絶対に漏らさないようにしてくれないか?
その……一種の「暗殺」みたいなことをやるんで、俺がいることがバレたら作戦が台無しになっちまうんだ。いいかい?」
「暗殺……ですか。わかりました。そう伝えておきます」
「んじゃ、あとは予定通りに」
ナーダはそう言って村長の家を出た。
時間は流れて、夜。体長は地球で言う4メートルはあろうかという巨体を誇る女の1つ目巨人が山から下りてきた。
「やぁ。今日も宴会をしに来たよ。もてなす準備は出来てるだろうね?」
「は、はい。整っておりますよアイ様」
恒例行事となった宴が今日も開かれた。1つ目巨人のアイは酒を水でも飲んでいるかのようにカパカパと飲み干していく。
と同時に彼女の周りを女装した少年たちが踊って彼女の1つしかない目を楽しませる。そんな宴会の裏手にナーダとレーヌはいた。
「ナーダ、確かアイツを「暗殺する」とか言ってたな? どうしてそんな回りくどい事をするんだ? 私だったらあの程度なら正面からぶつかっても行けるぞ」
「まぁ待て。確かめたいことがあるんだ」
「確かめたい事? なんだそれは? それにナーダ、お前一体何をしてる?」
ナーダはバックヤードでこっそりと酒瓶のフタを開けていた。そして開けた後にナイフで指に切り傷を付けると滴る血液を酒に混ぜていた。
「何故俺は何もしていないのにお前をテイムできたのか? その理由をずっと考えてた。その推測の答えが『血』だ」
「血?」
「そうだ。レーヌ、お前が俺の喉元に噛みついたら当然俺の血を大量に飲むことになる。詳細な原理は分からんが、とにかく魔物に血を飲ませることでテイム出来るんだ。あくまで俺の推測だがな」
「なるほど、暗殺っていうのは殺すのではなく仲間にすると言う事か。本当に血を飲ませる程度で出来るのか?」
「俺の推測が当たってればね」
血を混ぜてほのかに紅くなった酒ビンに蓋をして宴の場に持ち出す。
「? なんだぁ? 酒にしては妙に血のにおいがするんだが……」
「いやだなぁアネゴってば、酔っぱらってるんじゃないんですかい?」
ナーダは即興の演技としては上出来なそれですっとぼけ、1つ目巨人に血入りの酒を飲ませた。
翌朝……
宴の場には身長が人間とほぼ同じ大きさにまで縮んだ一つ目の女が大の字になりいびきをかきながら眠っていた。
「あー、良く寝た。おおっと、つい深酒しちまったよ……あれ? アンタは?」
「お前の新たなマスターのナーダだ。こっちはレーヌだ」
「そうかいそうかいんじゃあ行きますか。どこへでも付いていくよー」
彼女はいともあっさりとナーダを新たな主人として認めた。
「し、信じられん! あの1つ目巨人を従えさせるとは!」
「もうこれで宴会をムリヤリ開くことは無いだろ? 実際には討伐したってわけじゃないがクエスト完了って事で良いか?」
「もちろんだとも! 明日までにはギルドに通達させるから報酬を受け取ってくれ」
ようやく強制的な宴を開かずに済むとあれば村長は大喜びだ。クエストを受注した町へと戻ると報酬が支払われることになった。
「なぁナーダ。今度はどこへ行く? どんな相手でも勝てそうな気がするけどね」
「じゃあこことかどうだ?」
町のギルドに貼り出されたクエストと周辺の地図をにらめっこしているナーダはとある場所を指さした。
【次回予告】
新たな仲間を得て活気づく俺のパーティ。ついには国を脅かす存在をも相手にすることになった。大物狙いのクライマックスだよー! 読者のお前らもついてこい!
第6話 「蛮族の国」
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