ピオッジャが砂漠の国デラッザに雇われてから、5ヶ月が経った。研究所からの報を受け、デラッザ国王が視察しに来ていた。
「ほほぉ。これが噂の『雨を呼ぶ装置』か。ずいぶんとまぁ大型になったじゃないか」
研究員からの説明を受けながら、国王はそう声にする。
「とりあえず現在判明した理論をそのまま使っただけのプロトタイプで、小型軽量化及び性能強化はまだまだ先にはなると思いますが、何とか形だけは出来ました」
完成した「プロトタイプ」である魔導器具はかなりの大型で、空いていた大部屋を埋めるほどの大きさだった。想像していたよりもかなり大掛かりの仕掛けになっていた。
「動かせるか?」
「もちろんですとも。そうでなければ陛下をお呼びすることなんてありませんもの。君、装置を起動してくれ」
研究所のリーダーが部下にそう指示を出す。言われるがまま彼らが装置を起動してしばらく……。
ゴロゴロゴロ……
ゴロゴロゴロ……
空が鳴る。雷の音だ。更に待つこと少し。
ポツリ
ポツリ
水滴が空から降ってきた……雨だ。
「おお! 本当に雨が降ってくるとは!」
研究の成果に国王は大いに満足する。
「今はピオッジャ殿の協力がないと満足に雨を降らせるものではありませんが、そのうちこれ単体でも雨を降らせるくらいには出力を強化し、また各地域にも普及できるように小型軽量化を施す予定です」
「良くやった! 見事だ! 今日は我が砂漠の国デラッザの歴史に大いなる繁栄をもたらす1ページとなるだろう!」
その結果に国王は大満足だ。研究グループには破格の報奨金の支給と研究費の大幅な増大がなされたことは言うまでもない。
それから数日後……
「なぁピオッジャ、話があるんだがいいか?」
デラッザ国王はピオッジャを呼び止め、王宮内のとある部屋へと招く。他でもない国王直々のお誘い、断るわけにもいかないだろうと思って彼はついていく。
中にいたのは、顔だちの整った少女。小麦色の健康な肌でエキゾチックな雰囲気が漂うが、身体を飾る金銀や宝石にも負けない麗しい見た目の、胸こそ1人前だが童顔で背も低い少女だった。
「あなたがピオッジャ様ですね」
「ああ、そうだが何か用か?」
「あ、あの。ピオッジャ様、私をもらってくれませんか!?」
「!?」
少女のあまりにも突飛も無い発言に彼はたじろく。
「ピオッジャ、君は独り身だと聞いている。で、どうなんだ? 俺の娘の出来は?」
「どうって言われましても……」
「まぁそうなるだろうとは思ったよ。家事育児も出来るしベッドテクニックも仕込んでる。悪くない話だろ?
彼女はサラサと言うんだが小さい頃は身体が弱くて、太陽の日差しを浴びてよく倒れていたんだ。1歩間違えれば命を落としかねない時も1度だがあった。
その太陽を遮る雨雲を呼ぶお前にはずいぶんと感謝しているそうだぞ」
「私、お父様の言うように昔は身体が弱くて……だから太陽なんて大嫌い。その太陽を隠してくれるピオッジャ様には感謝してるのよ。この国に雨を降らせましたし、民を代表しそのお礼だと思って受け取ってくれませんか?」
「は、はぁ……」
ピオッジャはそこまでの話を聞いて外交で鍛え抜かれた頭をフル回転させて考える。
冷静に考えると今の自分の身分は実験材料の域を出ない。考えられうる最悪のケースとしては研究が終われば機密保持のために「廃棄処分」されるかもしれない。
だが国王の娘をめとれば「王族」になれる。曲がりなりにも「王族」となれば、変に手出しをしたらデラッザ王家が相手だとしても多かれ少なかれ地位を汚すことになる。常識的に考えれば、それは避けるだろう。
「まぁお前の事はそのうち何人かいる俺の娘と結婚させて王族に引き入れようとはしていたんだが、どうせ結婚するなら愛し愛されっていう関係の方がいいだろうと思って声をかけたらサラサが名乗り出たんでな。
で、どうする? まぁ唐突な事だろうから今この場で即決しろとは言わないがな」
「その心配は不要です。そのお誘い、受けましょう」
「おお! そうか! いやぁ良かった。これからよろしく頼むよ」
「ピオッジャ様、ありがとうございます。良き妻となるべく努めますのでよろしくお願いしますね」
こうして1ヶ月後に挙式することまで決まったという。
【次回予告】
ひでりが続くソル王国。ようやく自分たちがしでかしたことに気づいた彼らは奪還すべく動き出す。まずは波風が立たないように穏便な措置から。
第8話 「交渉」
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