「ハァ……」
弟、フォルトゥーナを追い出して数日。弟そっくりな顔をした彼の兄は浮かない顔をしていた。
戦士が死んで以降代わりを募集しているがなかなか入らず、討伐クエストを受注したものの既に先方が目標を討伐しており無駄足になることが4回もあった。
前はそんな事無かったはずなのに不運と呼ぶにはあまりにも巨大すぎる案件が降り注いでいた。収入は減る一方で貯金を崩してなんとか生きていた。
「流れが悪い」のか。と思って懐の余裕はあまりないのだが3日の休暇を取ることにした。
たまにあるツキの悪い時をやり過ごすため、運気を良くするためのある意味リセット行為なのだが「超凶運」スキルはそんなのお構いなしに牙をむく。
都市部にありがちな、土地にかかる税金を安くするために縦に長い家が立ち並ぶ街道を歩いていると……。
「危ない!」
上から叫びにも似た声が不意に女僧侶の耳に飛び込んでくる。が、気づいた時にはすでに遅かった。
ゴーーーン!!
陶器製の植木鉢が女僧侶ブリトニーの脳天を直撃したのだ。彼女はそのまま気を失い、倒れた。
「おいまずいぞ! 気を失ってる! 人を呼べ! 病院に連れてくぞ!」
騒動があってしばらく……ブリトニーは目を覚ました。
「おお! 気づいたか!」
「……誰です? あなたたち?」
……誰? 彼女はそうパーティメンバーに問いかける。
「誰って、そんないい方ねえだろうが。パーティリーダーの俺が分かんねえとでもいうのか?」
「うん、分からない」
「オイオイ! ブリトニー、さすがに冗談が過ぎるだろ!」
「ブリトニー……? 誰です? その人?」
「……」
賢者のその一言にパーティメンバー全員が凍り付く。
「ブリトニー……まさかお前、自分の名前すら忘れちまったって事か?」
「へぇ。ブリトニー……それが私の名前なんですね」
女僧侶、ブリトニーは真顔でそう言っていた。どうやら本当に記憶を失ってしまったらしい。
上から落ちてきた植木鉢が頭を直撃し、ショックで記憶を失う。あまりにも突拍子もない事に、メンバーは動揺を隠せない。
「……こういう場合、どうすればいいんだ?」
「一応経歴を見たが教会としては十分宣伝塔にはなったから教会に頼めば余生を送るには十分だろうな。パーティは故障して離脱したと言う事にしておくよ」
パーティメンバーが記憶喪失になって使い物にならなくなってしまう、という普通は体験しない異常事態においても冷静に対処できるだけパーティリーダーは優秀だ。
そこは曲がりなりにもA級冒険者を務めているだけある。
(……おかしい。絶対おかしい。こんなバカな話が立て続けに起こるなんて絶対におかしい! アイツ、何かあるぞ)
賢者はパーティリーダーに絶対何かあると確信していた。常識では起こりえない不幸が次々と起こるのはどう考えても彼が原因だとしか考えられなかったのだ。
その予想は当たっていた。パーティリーダーは「超凶運」スキルで不幸を次々と引き寄せる体質であった。スキルの詳細までは分からなかったが彼の不幸体質は正確に見抜いていた。
【次回予告】
「たまたま見つけた」そう、彼は「たまたま見つけた」のだ。戦争で敗走した敵軍の魔王を発見したのは、偶然だった。
第5話 「偶然逃げ出した総大将が目の前に」
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