「よし、こんなもんだ。立てるか?」
「あ、ああ。後は自力で町に帰れるから1人でも大丈夫だ」
応急手当も終わり、ナーダは自力で立って歩ける位には回復し、1人でも大丈夫だと言っておそらく行商人とその護衛である冒険者パーティを見送った。残されたのはナーダと、謎の女。彼は彼女に話しかけた。
「お前、俺の推理が正しければあの時のヘルハウンドだな? テイムされたモンスターは女になるっていうWEB小説界のお約束は本当だったんだな」
「推理は合っている。私はあの時のヘルハウンドだ。不思議なものだがお前に噛みついてからというものこの身体になったし、妙にお前の事が宝物のように思えてな……こんな気分初めてだわ」
彼女は女にしてはだいぶ低い声で不思議そうに言う。
「これからどうする?」
「お前と一緒に旅をしよう。この姿になる前は野生動物や魔物を狩って食う事しか頭になくて、特にやることも無かったからお前に付き合っても問題ないぞ」
「分かった。とりあえず勇者の鎧を外そうか」
2人がまず最初に行ったのは彼女が殺した勇者の鎧を外して持ち帰る作業。
板金製のプレートメイル、それも全身がそろった物は極めて高価でどれだけ少なく見積もっても庶民の年収3年以上の値は間違いなくする。
その上、剣も国一の刀剣鍛冶師が最高の素材を加工して作った逸品もの。鎧ほどではないがこれも相当な額になるだろう。
「しっかしまぁ人間というのはこんなもので武装しなければ戦えないのか……弱いのぉ」
「しょうがないだろお前とは違うんだから。ところでお前名前はどうしようか? これから何て呼べばいい?」
ナーダは彼女の名前について語りだした。
「名前? そうか人間というのは名前とかいうのを付けて呼ぶのか。特に名前らしきものは付けていなかったから何とでも呼べ」
「そうだなぁ……女王というのはどうだ?」
ナーダはその豪奢な黒いドレス姿を見て直感的に女王のようだと思い、そう名付ける。
「ふーむ女王、か。悪くないぞ」
「じゃあ決まりだな。よろしく頼むぞ、レーヌ」
こうして名前が決まった。
その後30分かけて鎧を勇者の死体からはがし、着こむ。
「ちょっと大きめだけど仕方ないか、あいつ結構な大柄だったし。じゃあそろそろ町に戻らないと……」
そう言ってナーダは勇者一行や行商人が向かった方向とは逆向きに歩き出す。
「ちょっと待て、どこへ行く気だ? 方向が逆だぞ? 村ならあっちなんじゃないのか?」
そう言いながらレーヌは彼らが向かった方向を指す。
「いやー、復讐のために勇者パーティにお前を襲わせても良いんだけどテイムした以上襲わせたら飼い主として責任取らなきゃいけないし、お話もすぐ終わっちゃうからな」
「ふーむ。大体は分かった。じゃあ私の背に乗れ」
そう言ってレーヌはあのヘルハウンドの姿に変わる。ナーダが乗ると隣の町へとつながる道を猛スピードで駆けだした。
「ぐええええ揺れる! 揺れる!」
「我慢しろ、この速度でないと日没には間に合わんぞ!」
「ひぃい!」
乗り心地は最悪だったが、必死で両手で毛をつかみ足で胴体にしがみつき振り落とされることは無く、日没まではあと1~2時間という時刻で町までたどり着くことは出来た。
意外と時間に余裕があるので一行は領主の館へと足を運んだ。
「ではこれが代金だ。リクエスト通り一部は現金で支払うが残りはこの小切手だ。明日銀行に行ってお金を受け取ってくれ」
幸い、プレートメイルと剣は町……それもこの辺ではかなり規模の大きい所の領主が、次男坊のためにと探していたところだった。
ナーダが都合よく持ってきてくれたおかげで売ることができ、彼には平民の年収にしておよそ4年半にも及ぶとてつもない大金が転がり込んできた。
「……桁が間違ってないだろうな大丈夫かな」
「そんなにカネとやらは大事なのか?」
「もちろんさ。カネがなかったら1日たりとも生きていくことはできないものさ。お前用の肉を買うのだってカネがかかるんだぞ?」
「なるほどねぇ。人間の「マチ」とやらには野生生物は住んでいないから仕方ないがめんどくさいなぁ。仮にいたとしても気軽に襲えないのが難点だな」
「くれぐれも街中では人や動物を襲ったりするなよ。特に犬や猫を襲うのは絶対ダメだからな。動物愛護団体の猛抗議で世界滅亡だからな」
「かみ砕いていえば街中では人や動物をむやみに襲うな。という事か?」
「まぁそんな感じだ。今日はもう日が暮れるから宿で泊まろうぜ」
まとまったカネはある。今日は良いベッドでぐっすりと眠れそうだ。
【次回予告】
男と女が一つ屋根の下で1泊。となると例によって例の展開になるわけでして。2ケタになるまでは良かったんだがなぁ。
第4話 「ゆうべは おたのしみ でしたね」
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