「ハァ……」
ピオッジャは防水加工の施された外套を着ながら雨の町を歩いていた。手切れ金は3ヶ月は寝食に困らない額だったがそれでも就職先を探さないと不安だ。
仕事は多すぎても困りものだが、全くないというのもそれはそれで精神的な負担は大きい。働いている人間には働いている人間なりの、無職には無職なりの苦悩というのがあるのだ。
「ソル王国と友好的な国に外交官として拾ってもらおうかなぁ。秘密もある程度ばらせば食いついてくれるだろうし」
ピオッジャはこれからどうするかについて答えの出ない問答を繰り返し続けていた。
一方そのころ……。
「ふむ。ピオッジャ=コレルリか。噂では「雨男」らしいな。それも『彼のいくところに太陽無し』と言われるほどの強烈なもの、か」
「雨を呼ぶ能力、それも自覚無しに……ですか。どんな能力か研究のしがいがありそうですね」
「ソル王国を離れたら予定通り接触しろ。何としても彼の事を我が国に引き込んでくれ。我がデラッザ王国にとって国王である俺以上に貴重な人材になるだろう」
「御意。必ず探し出してみせます!」
国王からの通信を終え、砂漠の国デラッザからソル王国の国境付近にまでやってきた使者は行動を開始した。
砂漠の国デラッザ……領土の大半を容赦なく太陽が死の光を浴びせる乾ききった砂漠の大地にある王国。
国土こそ世界一の広さだが人が住める場所は海や川のそば、それに砂の海に点在するオアシスといった地域に限られ、国力では他の国とそう大きく差があるわけではない国だ。
ソル王国の国境付近で待機していた使者たちは国王から命を受け、ピオッジャの捜索に当たった。とはいえ、ピオッジャの周りは常に雨になるので探す手間はずいぶんとかからないものだったらしいが。
数日後……早朝のとある宿屋にて
「失礼します。ピオッジャ=コレルリさんですね?」
宿屋の女将が宿泊客である彼のもとにやってくる。
「ええ。そうですけど何かありました?」
「あなたに会いたい人がいて、入り口で待っているそうですよ」
「へぇ、俺にね。分かった、すぐ行くと伝えてくれませんか?」
ピオッジャはもしや隣国の使いからお呼びがかかったのではと少し期待していた。どちらかと言えばポジティブな気分で宿屋の入り口に行くと、この辺りではあまり見ない服を着た男が待っていた。
「あなたがピオッジャ=コレルリさんですね?」
「……なぜ名前を知っている?」
「ソル王国の外交官を務めていたとお聞きしております。我が国の国王陛下がぜひともお会いしたい、と」
「王? あなた方は衣装からして砂漠の国デラッザ出身ですね? その国の王ですかな?」
砂漠の国デラッザ……確かソル王国とはそれなりに付き合いはあるが、互いの国の距離が離れているので王の顔は知っている程度で親密、とまではいかない国だ。
「ええそうです。あなたの事を首を長くしてお待ちしております。ぜひとも陛下にお会いしていただけませんか?」
「国王自らですか……分かりました。お会いいたしましょう」
「良かった。国王陛下直々の勅命でしたので応じてくれて大変ありがたく思っております。さぁ行きましょうか」
ピオッジャは砂漠の国デラッザの使いと一緒に彼の国目がけて旅立っていった。
【次回予告】
砂漠の国デラッザの国王に呼ばれて一行は彼のいる王都を目指す。その旅路はいつも雨か曇り。雨男の体質はここでも有効らしい。
第3話 「雨男、砂漠の国の王と謁見す」
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