部屋の中心に辿り着くと、玉座に座る魔王がこちらに問いかけてきた。
「はい。ですがあなたを倒しに来ました」
それに対し答えたのは俺ではなくリシュリュー。
「ほほう。その蛮勇だけは認めてやろう。だが、我々に勝つことは不可能だ」
魔王はニヤッと笑い、真っ黒なオーラを放つ。何それカッコいい。
「多分普通に倒せるよね?」
「はい。私達にはエリック様が付いていますし」
「師匠!」
しかしそんな演出を見たにも関わらず呑気な師匠とマリア。だから相手魔王だよ!!??
「たかが人間風情で随分と魔王様を舐められているようで」
「こりゃあ惨たらしい死を与えてやらないとなあ!?」
ほらそんなことするから。魔王の隣に居る四天王っぽい二人がキレちゃったよ。
なんなら他の方々も若干キレているし。全員本気で潰しにくるやつじゃん……
「もうさあ……」
相手の戦闘力が分からない時にやるべきじゃないよほんと……
「では行くぞ」
「「「「「はい!!!」」」」」
魔王の合図と、それに呼応した部下の返事によって戦闘が始まった。
先程キレていた四天王2人と魔王が俺たちに向かって突っ込んでくる。
そして後ろに居る魔族たちは魔法で3人の補助をしたり、直接攻撃をしたりしている。
それぞれ使っている魔法は違うものの、統制の取れた動きだった。
魔王と四天王と幹部なんだから統制の取れた連携はしないでくれ。夢が壊れるでしょうが。
「エリック様は3人をお願いします」
「私たちは他を攻撃するね!」
「分かった!」
他は3人に任せ、俺は突っ込んでくる魔王達の対処をすることに。
「ただのデブに俺らの攻撃が止められんのか?」
「どうせ時間稼ぎです。このデブはさっさと倒して3人の対処に向かいましょう」
「そうだな」
その光景を見ていた3人は俺が一番の雑魚だと思っているらしい。
確かにその気持ちは分かる。
リシュリューは立ち振る舞いが強そうだし、マリアはここまでやってくる美人の高貴な人物だから強そう。そして師匠は二人に比べたら見劣りするものの、抜群のプロポーションがあるから弱くは見えない。
しかし俺はどうだろうか。軽装のデブである。
軽装なら痩せているか、筋肉ムキムキでなければならない。
デブなら重装備を身に纏い、鉄壁の防御力が無ければならない。
だから弱いと思われても仕方ない。その気持ちはよく分かる。
けど、
「人にデブって言うのは失礼だよ!!!!!!」
仲良くない相手にデブと言うのは人としてありえない。
「ぐはあっ!!!!」
怒りを込めたパンチを腹に食らった荒っぽい口調の魔族は吹き飛ばされて魔王城の壁を突き破った後、そのまま地面に落ちていった。
「お前も!!!!」
頭脳派っぽいイケメンの魔族の方には顔面パンチを入れて、地面に叩きつけた。顔が大変な事になっているけど自業自得である。
「なっ!?」
まさか部下が二人とも一撃で倒されると思っていなかった魔王は警戒して距離を取った。
「あんたも日頃から注意しなさい!!!!」
しかし俺がみすみす逃がすわけも無く、追っかけて股間を殴り飛ばした。
アッパーカットのような殴り方をしたので、魔王は上に吹き飛び、地面に落下した。
魔王は股間の位置に手を置いたまま動かなくなった。
死んだのか気絶したのか悶絶しているのか分からないけれど、もう戦闘には参加できないはず。
魔王は男だから可哀そうだけど、将来子供とか生まれたら大変だからね。必要な犠牲でした。
「こっちは大丈夫そうだし、残りも倒さないと」
そのまま俺はまだ戦っている三人に加勢し、一人一人腹をぶん殴って倒していった。
「これで世界が平和になりましたね」
この場に居た魔族が全員戦闘不能になったことを確認した後、マリアがそう言った。
「だね」
魔族の上層部は全て倒してしまった為、俺たちの暮らしている国が攻め込まれる可能性はなくなった。
とはいってもこの大陸に生きる魔族を全て討伐したわけではないため、今後似たような存在が生まれる可能性はある。
でもそこに関しては俺たちじゃなくて国王とかそこら辺の人たちが交渉とかで平和的に解決してくれると思う。多分良い人たちだし。
「これ以上ここに居る必要もありませんし、魔王達を倒した証拠だけ頂いて帰りますか」
「そうしよっか。だけどどうすれば良いの?」
「両方の角を折ってください。そうすれば魔族は戦闘力を完全に失いますので」
「オッケー。マリア、師匠、ちょっと待っててね」
「はい」
それから俺はリシュリューと共に角を一つ一つ折って回収した。
「じゃあ帰ろう。マリア、」
目的も果たしたことだし、後は俺たちの住んでいる大陸に戻るだけ。
「ちょっと待って」
マリアに転移魔法を使ってもらおうと頼もうとしたタイミングで師匠が待ったをかけた。
「どうしたの師匠?」
もうやることは無いんだし早く帰った方が良くない?
「エリック、どうだった?」
「どうだったって言われても。世界平和を成し遂げて嬉しかったってくらいだけど」
それ以外にどうもこうもないでしょ。
「うん、目的を完全に忘れているよね。良い運動にはなったかな?」
あっ。そういえばここに来た目的って魔王討伐だけど魔王討伐じゃなかった。ダイエットだよ目的って。
デブと言われて腹がたったせいで忘れちゃってたよ。魔王恐るべし。
で結果としては、
「正直微妙かなあ」
そこそこ全力で殴っていたけど、大した負担じゃないというか。
常人で言えば1㎞離れた目的地まで徒歩で向かったくらいの疲労度だよね。
つまりほとんど疲れてない。
「そっかあ……無理だったかあ……」
それを聞いた師匠は残念そうに頷いた。
「ってことはもしかして……」
「流石に打つ手なしかな。どうあがいても痩せられる未来が見えないよ、ごめん」
そう語る師匠はとても申し訳なさそうな顔をしていた。俺の願いを叶えられなかったことを思い詰めているのだろう。
「そんなに思い詰めなくても大丈夫だよ。ここまでやってダイエットが成功しない俺の体がおかしなだけだから。寧ろここまで頑張ってくれた師匠にお礼がしたいくらいだよ」
だから俺はダイエット出来なくて悲しい気持ちを抑えて、師匠を励ますことに。
「エリック、ありがとう」
「こちらこそ、師匠」
「どうやら解決したようですね。重い空気になるようならエリック様は太っている方が魅力的だって言おうかと思っていたんですが、必要無かったようですね」
と言ったのはマリア。
「マリアさん。それは口に出さない方が良かったと思う」
その言い方は痩せている方が魅力的だけど気遣って言おうとしていましたって宣言だよ。
「あら?何か問題でもありましたか?」
俺が指摘するとマリアは何が何だか分からないという表情で首をかしげた。
「マリア様。その言い方だと内心でデブを否定していると言っているようなものです」
そんなマリアに対しリシュリューが耳打ちで伝えていた。普通にこっちまで聞こえる大きさの声だったけど。
「ああ、そういうことでしたか。別に私は太っていようが痩せていようが関係ありません。好きな相手が好きなんですよエリック様。愛していますよ」
リシュリューの言葉を聞いて納得した後、さも当然だと言わんばかりの表情で俺の耳元にやってきて、愛の言葉を囁いてきた。
「ありがとう、マリア」
本当によく出来た女性だよマリアは。
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