ああ、なんて新鮮な朝なのだろうか。
いつもと変わらない朝であるはずなのに、こうも気分が違うとは思いもしなかった。
それもこれも、全ては昨日のアレのお陰だろう。
「やあ、おはよう藤馬君!」
「おはようございます。麻沙美先輩」
「……むむ? なんだか今日はやけに爽やかだね?」
鋭い返しに一瞬ビクッとなる。
「や、やだなぁ、そんなことありませんよ~」
「そうは見えないけど……」
なんとか否定してみるも、麻沙美先輩は完全に疑るモードに入ってしまったようだ
たった一言の挨拶で何やら勘付くあたり、やはり麻沙美先輩は侮れない。
「おはようございます♪ 藤馬君、麻沙美先輩♪」
僕が油断しないよう気を引き締めていると、明らかにご機嫌な伊万里先輩が合流してくる。
これでは僕が気を引き締めた意味が無い。
「やあ、伊万里。ご機嫌そうだね? 何かあったのかな?」
「えっ!? な、なにもありませんですよ!?」
(せ、先輩! その反応じゃ明らかに何かあったって言ってるようなもんですよ!)
まさか、先輩がここまでわかりやすいとは……
いや、ひょっとしたら、僕もこんなだったのだろうか?
マズいぞ……。これではバレるのも時間の問題だ……
「成程、成程……。その様子じゃ、昨日私がいない間に、何かあったようだね?」
「「っ!?」」
時間の問題というか、一瞬で見破られてしまった。
「な、なんのことでしょう? 変な言いがかりはよしてくれませんか?」
「別に、言いがかりをつけているワケじゃないだろう? そうだなぁ……、じゃあ、いくつか質問をさせてもらおうかな?」
これはマズい! 誘導尋問というヤツだ!
恐らく僕達では、そのいくつかの質問とやらを乗り切れない!
「ま、麻沙美! 駄目です! 僕達は質問なんて聞きませんよ!」
「なんでだい? 君達にやましいことがなければ、私がいくら質問したところで問題ないハズだけど? なあ伊万里?」
「べ、別に質問くらい大丈夫ですよ? やましいことなんて、何もありませんし?」
「ちょ!? 伊万里先輩!? なにあっさり挑発に乗っかっちゃってるんですか!?」
「だ、だって! アレは別にやましいことなんかじゃありませんよ!?」
いや、僕だって別にやましいことなんて思ってないけど、これは明らかに策略じゃないですか!
「そうそう。やましくないなら何も問題はない。それで、君達は一線を越えてしまったのかな?」
「「んな!?」」
この人は、いきなり踏み込んできますね!?
「何を言っているんですか麻沙美先輩! 僕達、まだ高校生ですよ!?」
「藤馬君こそ、何を言っているんだい? 今時、高校生どころか中学生だって、そんなことは珍しいことじゃないよ?」
そうなの!? 今の世の中って、そんなに乱れてるの!?
「そ、そうなのですか? そうだとしたら……、ゴクリ」
「伊万里先輩!? なに生唾飲み込んでいるんですか!? 騙されないで下さい! そんなワケないじゃないですか! 流石に世の中そこまで乱れていませんよ!」
乱れて……、ないよね!?
「ん~、まあ、みんながみんなヤリまくってるってことはないだろうけど、そういうケースは間違いなく増えているよ? 今時、そんな情報はいくらでも仕入れられるからね。そういう知識が豊富な青少年達は確実に増えているよ」
そ、そう言われると、確かに否定できないものがある。
パソコンやスマホにはフィルタをかけることができるけど、そんなことはしないという親も少なくはないのだ。
僕のスマホにだってそんなフィルタはかけられていないし、見ようと思えば、その、色々と見ることはできてしまう。
「まあ、その反応を見る限りじゃ、そういったことはなかったようだけどね。しかしそうなるとアレか。君達、ついにファーストキスをしたのかな?」
「「っっっ!?」」
「おう、ビンゴっぽいね」
あっという間にバレてしまったぞ!?
僕が言えたことではないけど、伊万里先輩もわかり易すぎでしょう!?
「そうかいそうかい。それならまだ、取り返しはつきそうで安心したよ」
「なっ! どういう意味ですか!? 私と藤馬くんは、昨日たっぷりと100回以上キスをしたんですからね!?」
「ちょっ!? 先輩!? なんてことを大声で言ってるんですか!?」
周囲から殺意と生暖かい視線が僕達に突き刺さる。
これ、本当にマズくないですか!?
「し、失礼しました! 100回は言い過ぎだったかもしれませんね……?」
「いや、そういう問題じゃあないですよ!?」
「そうそう回数は問題じゃない。初めてかそうでないかも、ね。問題なのは、質だよ」
その言葉とともに、麻沙美先輩が一瞬で僕の目の前に移動する。
ヤバイ、と思った瞬間には、僕の唇は奪われた後だった……
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