翌日、僕は寝不足のせいで体調を崩し、学校を休むことになってしまった。
寝不足の原因はもちろん、先輩のアレのせいである。
(どうしよう……。これって最早、病気なんじゃないだろうか……)
先輩のアレが目に焼き付いてしまったせいで、僕は今も眠れないでいた。
眠気はあるのだが、目をつぶってもアレが見えるせいで落ち着くことができない。
いっそ開き直ってゲームでもしようかと思ったが、それはそれで後ろめたい気もする。
(でも、暇なんだよなぁ……)
こうしていると、小学校の頃に熱を出して休んだ時のことを思い出す。
(あの頃も、熱はあれども有り余る元気のせいで暇を持て余していたよなぁ……)
元気を持て余しているという意味では今も同じなのだが、その内容には大きな隔たりがある。
こんな時に大人になったことを意識するとは思いもしなかったが……
「ん?」
そんな風にモヤモヤと考えていると、スマホから電子音が聞こえてくる。
どうやら〇インにメッセージが飛んできたようだ。
『生きてるか優季』
メッセージを送って来たのは、僕の数少ない友人である永田 利紀である。
ちなみに、優季とは僕の名前だったりする。藤馬 優季が僕のフルネームなのだ。
『生きているよ。凄く暇をしている』
そう送り返すと、即座に着信が入る。
「おい! 暇ってどういうことだ! ズル休みか!」
「違うよ。寝不足でフラフラしててさ。危ないからって強制的に休まされた」
「なんだよソレ……。小学生か?」
僕も似たようなことを考えたけど、改めて人に言われると恥ずかしさがこみ上げてくる。
「実際、まだ寝られていないんだよ……。ちょっと昨日のイメージが抜けきらなくて……」
「昨日のって……。そういやお前、昨日先輩とデートだったらしいな。まさか……」
(しまった……)
根掘り葉掘り聞かれるのが嫌で永田には黙っていたのに、余計なことを口走ってしまった。
……いや、でも今の口ぶりだと、永田は既に知っているような感じだったぞ?
「永田、なんでそれを知っているんだ?」
「さっき先輩がお前を尋ねて来たからだよ。まさか昨日のことが原因で……とか言ってたからまさかとは思ったが、やっぱりそういうことだったか!」
どうやら永田は直接聞いたのではなく、先輩の態度から察したようであった。
僕は自ら墓穴を掘ってしまったらしい。
「それで? 何があった!? いや、何をしたんだ!?」
「べ、別にやましいことはナニもしてないよ!」
いや、本当に。
やったのは至って普通のマッサージだけである。
「そんなワケあるか! どうせ何か変なことでもしたんだろ!」
「だからナニもしてないって!」
「本当か~? その割には先輩の態度、変だったぞ? ちょっと怖いというか……。お前、何か怒らせるようなこととかしなかったか?」
怖い……? 別に怒らせるようなことはして……っ!?
いやいや、良く考えれば普通にしてるじゃないか!
ワザとじゃないとはいえ、僕は先輩のブラを……
「おい、どうした。何か心当たりでもあったのか?」
あったが、それを言うワケにはいかない。
言ってしまえば、下手をすれば明日も学校を休む羽目になってしまう。
……身の危険を避けるという意味で。
「イヤ、ナニモナイヨ」
「棒読みになってるぞ? 絶対何かあるだろ……。例えばあれだ、スマホの待ち受け画像を〇KBの推しメンにしてたのがバレたとか……」
「TKB!?」
「いやちげぇよ。ていうかTKBってお前……、ん? あれ、まさかお前……」
「ごめん急に眠気がきた。それじゃあ」
そう言って僕は速やかに通話を切る。
どうせまたかかってくるだろうから電源も切ってしまう。
(危なかった……。あのままだと、僕はとんでもないことを喋ってしまうところだった……)
どうやら僕は、相当重傷なようである。
これはもう、後ろめたいとか気にしている場合じゃなさそうであった。
(一刻も早く、このピンクな記憶を消し去らなくては!)
気分をリフレッシュするなら、やはり好きなことをするのが一番だ。
大好きなロールプレイングゲームをやって、記憶を上塗りしてしまおう。
マッサージの練習のせいで一週間ほど空けてしまったが、やりかけの大作がまだ……
ピーンポーン♪
……おや、誰か来たようだ。
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