「あの変態男……許さないんだからっ!」
「どうかされたのですか?」
「レ、レイモンド様。い、いえ……何でも無いんです」
俺を探していた二人が戻って来た。
どうやらあの優男が一番偉いらしく、残りの三人は従者らしい。
「しかし、この僕が負かされるとは。いつもなら僕が危うくなると、急に身体の動きが良くなって、誰にも負けた事がなかったのに」
「ふ、不思議な事もあるものですね」
……って、おい。
いつも急に動きが良くなるって、この女性たちは毎回神聖魔法で優男を勝たせているのか?
しかも、あの優男は神聖魔法で強化されている事に気付いていないみたいだし……まさか、良くある貴族のバカ息子パターンだろうか。
周囲がわざと負けたり、気を使ったりしているのに、それを自分の力だと勘違いしているという。
「ヘンリー=フォーサイス……女性と見れば誰でも凌辱し、弱みを握って非道の限りを尽くした上に口止めまでするという噂でしたが、どうやら噂は噂でしかなかったようですね」
おい、その噂は何だ!?
酷過ぎないか!?
『あながち間違っていないと思いますが』
アオイ、お前もか。
皆、俺に対する偏見が酷いよっ!
俺、こんなに紳士なのに。
「僕が見た限りでは、あの鉄仮面の中から、君たちを見ていた素振りすら無い様に思えたけど、どうだい?」
「そ、そうですね。このような格好までして来たというのに、まるで興味が無いかのようでした」
「そうだね。それに礼儀作法については、簡略化された現代式ではなく、正統な古代式まで身に付けていたしね。非の打ちどころが無いよ」
あー、古代式というか、ジェーンが生きてた時代はその作法が普通だったんだろうな。
いずれにせよ、ジェーンに頼んで正解だったな。
一先ず、レイモンドとそのお付きの三人が帰って行く。
どうやら、これで教会とのいざこざは終了したようだ。
「さて……と。ジェーン、お疲れ様。助かったよ」
教会の一団の姿が見えなくなった所で、シャロンとユーリヤを連れてジェーンの所へ。
「いえ、勿体無いお言葉です。私は主様の命に従っただけですので」
外でのフルプレートアーマーは暑いのだろう。
鉄仮面を外したジェーンの顔から、大粒の汗が流れ落ちた。
顔でこの状態だという事は、胸は服が汗でべったりとくっついて居るのではないだろうか。
「これはいけない。熱中症になったら大変だ。さぁ今すぐ鎧を脱ごう。俺も手伝うよ」
『あの……ヘンリーさんが具現化魔法で作りだした鎧なので、脱がなくてもすぐさま消せるのでは?』
(バッカ野郎! そんな事をしたら、どさくさに紛れてジェーンの胸が触れないだろっ!)
『先程のヘンリーさんの噂……どこから出たものかは分かりませんが、大正解じゃないですか』
アオイの戯言を聞き流していると、
「主様。シャロンさんが手伝ってくれるそうなので、一先ず先程の部屋へ戻りますね」
「ヘンリーさん。ジェーンさんとユーリヤちゃんは任せてください」
「え? 俺も手伝うよ? ねぇ、おーい。手伝うってばー!」
どういう訳か、俺の申し出をスルーして、シャロンがジェーンとユーリヤを連れて姿を消してしまった。
大きなおっぱい達が居なくなり、残されたのは俺とコートニーだけだ。
「……さてと。コートニーさん。いや、コートニー」
「な、何ですの!? いきなり呼び捨てにして……ま、まさか上手くいったからって、恋人気取りですのっ!? 今回のは貴方の活躍というより、ジェーンさんの……」
「とぼける気か? コートニー……あんたは俺を利用して、教会に取り入ろうとしていただろ! 俺の評価を上げる事により、レイモンドと何か密約を交わしていた。そうだな?」
俺はハッキリと見たんだ。
ジェーンに負けた直後のレイモンドに、コートニーが何かを嘆願していた所を。
「いいえ。何もありませんの」
「そう。何もありませ……えっ!? いやいや、あるでしょ?」
意味深な事を言っていたコートニーと、今回のターゲットとなっていた俺の二人切りで、周囲には誰も居ない。
ここは、素直に白状するのがセオリーじゃないのか!?
「何の事を仰っているのか分かりませんが、本当にありませんの。そもそも、私が本当に教会へ取り入ろうとするのであれば、ヘンリーさんの評価を上げようとする訳がありませんの」
「あ、確かに。……って、じゃあジェーンがレイモンドに勝った後、何か言っていたのは?」
「あれは、そうですね……挨拶。挨拶みたいなものですの。私がレイモンドさんに会ったら、必ず言っている事なので」
それってつまり、教会かレイモンドに何かをして欲しいけど、全く実行してくれなくて、会う度にお願いしているって事か?
結構不憫だな。
「じゃあ、お願いしていた例の件っていうのは?」
「――ッ! も、申し訳ありませんが、それは言えませんの。特に貴方とフローレンス様には」
俺とフローレンス様には言えない事?
俺とフローレンス様だけに共通する事、もしくは二人だけが関与している事って何だ?
……ま、まさか。俺とフローレンス様が会う度にお姫様抱っこをしたり、なでなでしている事を知っているのか!?
いや、待て落ち着け。仮にそれがバレていたとして、教会に関係あるとは思えないな。
じゃあ、何だ?
「とにかく、この話はここまでですの。教会と密約などはありませんが、私からお願いしている事はある……それは事実ですの。ですが、これ以上は言えませんの」
「そ、そうか」
「実際に活躍したのはジェーンさんですが、とにかく王宮側の体面を保ってくださった事には感謝していますの。それでは、失礼いたしますの」
「あ、あぁ。じゃあな」
コートニー個人として俺に何かありそうな気はするが、一先ず対教会としての役目は無事に終わったようだ。
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