轟音と共に俺の身長の二倍程の背丈で、全身が石で出来たストーンゴーレムが奥から三体やってくる。
退魔スイッチの入ったマーガレットでも、流石にこの数の相手はキツイだろう。
「アタランテ! ルミ! 奥の一体を牽制してくれ!」
二人の返事も待たずに飛び出し、マーガレットの横に並ぶと、一体のゴーレムと対峙する。
「はぁっ!」
生成したクレイモアでゴーレムの右腕を切り落とし、続けざまに右足を薙ぎ払う。
一先ず無力化したので、マーガレットと戦っているゴーレムの左足を断ち切ると、
「悪しき生命よ! くたばりなっ!」
一撃必殺狙いのメイスが頭を粉砕した。
「次ぃっ!」
マーガレットが叫びながら、俺が足を切って倒れていたゴーレムの頭をメイスで潰す。
よ、容赦ないな。
いや、相手はゴーレムだし、構わないんだけどさ。
そんな事を考えている内に、アタランテの弓とルミの土魔法で怯んだゴーレムの頭をマーガレットが粉砕する。
「次ぃぃぃっ!」
「マーガレット! 一人で行くなっ! ……くそっ、アタランテ、ルミ。マーガレットの援護を頼む!」
リビングアーマー程度なら放っておいても良かったが、流石にゴーレムを同じように殲滅出来るかというと、そうはならない。
中身が空洞のリビングアーマーとは違い、ストーンゴーレムは身体が石そのものだ。
細い――と言っても、俺の腰周りくらいの太さがある――手足なら一撃で斬り落とせるが、大きな身体を斬ろうとすれば、途中で剣が止まるだろう。
だからこそマーガレットも頭部狙いなのだが、それでも脚を破壊して倒れさせ、それから頭部を破壊……と、最低でも二撃必要だ。
なので、前を行くマーガレットを心配していると、
「あははは……あーっはっはっはーっ!」
高笑いしながら、ゴーレムを次々と撃破していく。
……って、マーガレットは普通に強いな。
ストーンゴーレムばかりだったのが、途中からアイアンゴーレムに変わり、更に強度が上がっているはずなのに、問題無く倒していく。
五階層は大きなゴーレムばかりだったのだが、数がそこまで多く無かった事もあり、あっさりと六階層へ続く扉に到達してしまった。
「お兄ちゃん。何だか、今までと扉が少し違うよー。開ける?」
「どう違うんだ?」
「えっとねー、扉に込められている魔力が濃い感じがするー」
「なるほど。ゴールが近いって事かな? とにかく進む以外の選択肢は無いし、開けてくれ」
「はーい」
ルミが六階層へとの扉を開くと、その奥にエルフの魔法の扉ではなく、大きな普通の扉が控えていた。
「この扉はなんだ? ゴールって事か?」
「何だろうねー? お兄さん、一先ず開けてみる?」
そうだな……と答えようとして、相手がマーガレットだと気付く。
退魔スイッチがオフになっているし、この扉の先にゴーレムなんかの類は居ないという事だろう。
マーガレットに開けるように返事をすると、扉の先には大きな空間が広がって居て、その空間の高さ――ゴーレムの更に倍くらい――へ到達しそうな程の大きなピンクスライムが居た。
つまり、ボスの部屋って事だ。
「撤収ぅぅぅっ!」
即座に全員を扉の手前まで戻し、大きな扉をパタンと閉めた。
「貴方、どうして引き返したの? 相手はただのスライムでしょ?」
「……アタランテ。もしかして、覚えてないのか?」
「何を?」
今のやり取りから察するに、アタランテはライオンになっている間の事は覚えていないのか。
で、元の姿に戻って俺の顔を舐めていた事は覚えていると言った所なのだろう。
しかし、特大ピンクスライムがボスなのかよ。
普通のサイズのピンクスライムなら斬って終わりだけど、高さだけでも軽く俺の四倍くらいあるし、横幅なんて比較にもならない程だ。
本来、スライムなんてせいぜい服を溶かしたりする程度だけど、あそこまででかいと、取り込まれれば窒息死なんて事も有り得るし、もしかしたら溶解液も強力かもしれない。
さて、どうしたものか。
ピンクスライムの毒で大変な事になってしまうアタランテは、先ず戦闘に出せない。
毒が効かない俺とマーガレットを前衛に、おそらく効かないであろうルミが後方支援と言った感じか。
……まぁルミに効かないというのはクリムゾンオーキッドの幻覚の話であって、ピンクスライムの毒の事についてリリヤさんは何も言っていなかったけど、ある意味似たような物だから大丈夫だろう。たぶん。
「よし、決めた。マーガレットは俺と共に前衛としてピンクスライムを攻撃するぞ」
「えー。また服が溶けちゃうよー。お兄さんのえっち!」
「今回はそういうのじゃないって。というか、あの大きさなんだから、ふざけていると、足元を掬われるぞ」
「今回は……という事は、やっぱりこの前は私の裸が見たくて……もう、それなら夜に私を部屋に呼んでくれたら良いのに」
「はいはい。じゃあ次、ルミだけど……」
「流されたっ!? お兄さん、私結構本気だよ!?」
マーガレットはどうせ俺をからかいたいだけなので相手にせず、次はルミに作戦を伝える。
「ルミは弓矢か土魔法、どちらか好きな方で、遠距離から攻撃してくれ」
「はーい!」
「前衛の俺たちを巻きこまなければ、ルミの判断で臨機応変に戦ってくれ」
「わかったー」
そして最後は、最も戦力として期待していたのだが、相性の悪さゆえに待機となってしまったアタランテだ。
「アタランテは、ここで待機な。以上」
「ちょ、ちょっと待ってよ。貴方、どうして私だけここで待機なのさ」
「まぁ何て言うか、俺がいろんな意味で食べられそうになるから……」
「……どういう意味なのさ」
「そういう意味だよっ! 最初はノーマルが良いんだっ!」
「いやいや、そんなの全く納得いかないって。ねぇ、どうして?」
アタランテが食い下がって来るが、どうしたものか。
せっかく欲求不満の話から復活したし、都合良く獣化の時の事を覚えて居ないし、出来れば真実を告げずにいたいのだが、
「……猫のお姉ちゃんがあのピンクスライムの毒を受けると、獣じゃなくて、ケダモノになるからじゃない?」
「どういう事?」
「だから、欲求不満が爆発して、戦闘中なのにお兄ちゃんを襲いだすからでしょ」
言ったー! ルミがぶっちゃけたーっ!
そして何か思い当たる節があったのか、アタランテがその場で膝を抱えて座り込み、いじけてしまった。
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