「ちーさくなった。ごはん!」
ドラゴンだった幼女が片言で話しかけてくる。
察するに、身体を小さくしたから、少量でも構わないから食料をくれという事か。
「……とりあえず、今持っている分はこれが最後なんだ。戻れば、もう少し食料があるから、今はこれで我慢してくれ」
「わーい! ごはんー!」
俺たちの分として残していた野菜や肉を挟んだパンを渡すと、小さな手で受け取り、美味しそうに食べ始める。
アオイの推測通り、何らかの理由により空腹では死なないけど、お腹は空いていたんだな。
「お兄さん、きっとあれだよ! あの白く光輝く鉱物……あれが聖剣の材料となる聖銀に違いないよ!」
ドラゴンの巨体が無くなったので、洞窟の奥が良く見えるようになったからか、マーガレットが洞窟の奥を指さして声を上げる。
「よし、行こう」
全裸のまま嬉しそうにパンを食べているドラゴン幼女に適当な服を羽織らせると、一先ずそっとしておいて四人で奥へと向かう。
そこは神々しく白い輝きを放つ岩に囲まれて居た。
「うん。聞いていた通りだよ。この岩から光の力を感じる……これを持ち帰れば、きっとお兄さんの望む武器が作れると思うよ」
「そうだな。よし、持って帰るか」
「貴方、良かったわね」
マーガレットとアタランテと共に喜んで居ると、
「……お兄ちゃん。こんなに大きな岩を、どうやって持って帰るの?」
「え? そ、それは、魔法を使って……」
「ここ、使える魔法が制限されてるよ?」
ルミの言葉で新たな悩みが生まれる。
あぁ、その通りだ。こんなに大きな岩だなんて思っていなかったから、持ち帰る手段を何も考えていないさ。
『開き直った!? ……とりあえず、砕いて小さくしてみたらどうですか?』
アオイのアドバイスにより、具現化魔法で大きなハンマーを作ってみた。
「いくぜっ!」
――ガィン!
「……見事に無傷だな」
「そ、そうだね。貴方、ハンマーよりもツルハシにしてみたら?」
「分かった」
今度はアタランテのアドバイスでツルハシを作りだし、全力で振り下ろす。
すると、大きな音を立てて、ツルハシが砕けた。
「具現化魔法で生成したツルハシだと、強度が足りないのか?」
『というより、聖銀が硬過ぎるんですよ』
困った。小さく分割しなければ運び出す事も出来ないし……
「そうだ。これならどうだ? ……ブレッシング!」
聖銀があるから使えるようになった神聖魔法で、身体を強化する。
魔物を素手で殴り倒したり、魔族を倒す程の身体強化魔法だ。これならいけるはず!
「ハァッ!」
身体強化状態でハンマーを使ったのに、ハンマーがひしゃげてしまった。
こ、これは……かつて魔物を倒した時の様に、素手で殴るか? ハンマーが砕ける程の強度なので、流石にちょっと怖いが。
「お、お兄ちゃん? 何も持って居ないけど、まさか……」
「あぁ、そのまさかだ。大丈夫。ここなら回復魔法が使えるから、最悪それで治す」
「えぇっ!? お、お兄ちゃん、早まらないで……」
「タァッ!」
……痛い。
物凄く、痛い。
強化されているから手が折れたりはしていないが、聖銀の岩も傷一つついていない。
「これ、どうやったら持って帰れるんだ?」
ルミが俺の手を取り、「痛いの痛いの飛んで行けー」と言っていると、
「ごはん……」
幼女ドラゴンが悲しそうな表情を浮かべてやってきた。
しかも、織らせた服が何か理解していないのか、また全裸になっている。
「ごめんな。さっきも言った通り、パンはもう無いんだ」
「パン……ない?」
「あぁ、すまない。今は持ってないんだ」
「パンつくれない?」
「ここでは無理だな。戻ればあるんだが……この岩が砕けなくてな」
「いわ、くだいたら、パンつくれる?」
「あぁ。作るというか、パンは沢山あるよ」
「わかった」
どうやら理解してくれたらしく、ドラゴン幼女が大人しく待ってくれるようだ……
「って、何をする気だ?」
「パン、たべたい」
そう言いながら、ドラゴン幼女が小さな腕で聖銀の岩を殴る。
その直後、激しい轟音と共に、聖銀の岩が吹き飛んだ。
「いわ、くだいた。パンほしい」
「……マジかよ」
俺が身体強化魔法を使って全力で殴ったのに、びくともしなかったのが、ドラゴン幼女の一撃で砕ける……ドラゴン怖ぇ!
冗談抜きに、戦わなくて良かった!
というか、魔族よりもドラゴンの方が強いんじゃないのか!?
『ですが、ドラゴンは圧倒的に数が少ないですからね。それに、人間と魔族との戦いに積極的な関与はしないでしょうし』
(そうか。ちょっと残念だな)
一先ず、身体強化魔法を駆使して、砕けた聖銀の岩を幾つかを運び、五階層に作った小屋まで戻って来た。
「パン? パンつくるの?」
「作らなくても、沢山用意してあるから、食べて良いよ」
「わーい! ありがとう!」
「俺たちも食事にして、ちょっと休憩しよう。流石に疲れたよ」
もしょもしょと、小さな手と小さな口で大量のパンを食べるドラゴン幼女を横目に、少しだけ食事を口にした俺たちは、そのまま床に突っ伏し、泥の様に眠ったのだった。
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