「あ、あの……私を獣人族の村へ連れて行ってくれますか?」
シャロンさんが瞳を潤ませながら、至近距離で見上げてくる。
わざとなのか、単に気付いていないのか、それとも大きさ故に仕方なくなのか、その胸をムニューっと俺の身体に押し付けながら。
どうする? どうするよ?
シャロンさんは数年間家族に会っていない。出来るならば会わせてあげたい。
だけど、知っていると言ったものの、実際はその場所を知らない。
しかし、おっぱいの感触は気持ち良い……これは違うっ!
俺が何も返事をしないからか、シャロンさんが泣きそうになっている。
俺より年上なんだけど、小柄な体と幼い顔で、年下の女の子を苛めているかのように錯覚してしまう。
自らが招いた事なんだけど、俺は、俺は……
「分かった! じゃあ、シャロンさんを獣人族の村へ連れていこう!」
「ほ、本当ですかっ! ありがとうございます!」
「だが、今すぐにという訳にはいかない。さっきも行った通り、獣人族の村は危険な場所を通らなければならない。ある程度、自分で自分の身を守らなくちゃいけないんだ」
「そ、そうなんですね。で、では今日からでも、剣の練習をしてみます」
「それは良い心がけ……ですが、今まで剣を触った事すら無いシャロンさんが、いきなり剣が使えるようにはならない。そこで、俺が良き剣の師匠を紹介しましょう」
「お、お願いします」
言ってしまった。
シャロンさんを獣人村へ連れて行く……それはつまり、どこにあるかも分からない、手掛かりが全く無い獣人村を探さなくてはならないという事だ。
しかし、やるしかないだろう。
数年間家族に会えていないと言っているんだ。ユーリヤと同様に、何としても家族を探そう。
とはいえ、それに先立って、別の問題もあるのだが。
「だけど、その前にクリアしなければならない問題が一つあります。もしも、それがクリア出来なければ、残念ながらシャロンさんを獣人村へ連れて行く事は出来なくなります」
「な、何でしょう? あ……あの、先程仰っていた獣人族の性欲が強いという話であれば、あれは発情期だけなので、その……普段はヘンリーさんを襲ったりしませんが……」
「え? それって逆に言うと、発情期になったら、俺はシャロンさんに襲われちゃうの?」
「……そ、そうならないように、努力します」
「いや、そこはむしろ自分を抑えず本能に従って……げふんげふん。そういう話じゃなくて、もっと別の話だよ。一先ず、その問題解決のために行かなきゃいけない場所があるんだ。ちょっとついて来てください」
危ない、危ない。
隣に居たユーリヤから、「にーに。せーよくって、なーにー?」とか聞かれてしまった。
「そのうち、ユーリヤにも分かる日が来るよ」とか適当な事を言って、頭を撫でたら誤魔化せたけどさ。
流石に六歳頃の幼女に教えて良い話ではないしね。
右手でユーリヤの手を握り、フードを被り直したシャロンさんの手をさり気なく左手で引きつつ、いつもの第三王女直属特別隊用? の小部屋へ向かう。
……あれ? そういえばシャロンさんの持って来てくれた聖剣の資料で気になる記述があった気がするんだけど……まぁいいか。
忘れているって事は、大した事ではないんだろう。
途中で見かけた侍女さんに、フローレンス様への面会をお願いし、二人を連れて小部屋の中へ。
扉を閉め、この部屋が密室で、それなりに大声を出しても外に声が漏れない事を教えると、
「えっ!? 先程言っていたクリアしなければならない問題って、ヘンリーさんの相手が出来るかどうかという事ですかっ!?」
「はい?」
「み、未経験ですが、私の覚悟一つで家族に会えると言うのなら……ど、どうぞっ!」
「ちょ、ちょっと、シャロンさん!? どうして、いきなり服を脱ごうとするのっ!?」
何を勘違いしたのか、シャロンさんが上着を脱ぎ、肌着だけの……って、デカイッ!
こ、これは……上着越しだったから見誤ったか!? もしかしたらニーナにも引けを取らないのでは!?
「にーに。わたしもー!」
「いや、ユーリヤは脱がなくて良いからね……って、シャロンさんも脱がなくて良いんですよっ!」
「それはつまり、着たままがお好みという事でしょうか?」
先程性欲の話をしてしまったからか、シャロンさんが完全に誤解している。
そもそもユーリヤの目の前で、何をすると思っているのだろう。
いや、それ以前に、そもそも俺をどういう目で見ていたのだろうか。
『ヘンリーさん。以前にもお伝えいたしましたが、日頃の行いが滲み出ているんですってば』
(家族と逸れたユーリヤや、シャロンさんを家族と引き合わせてあげようと頑張っているのに)
『あの……それ以外の行いがダメ過ぎるかと』
そんな事は無いはずなんだけど……と自分の胸に手を当てて考えていると、扉が開いてフローレンス様が入ってきた。
「フローレンス様。お忙しい所、すみません。少し御相談がありまして」
「へぇぇぇー。何かしら? まさか、シャロンとの結婚を認めろって話かしら?」
「はい?」
フローレンス様は一体何を言っているのだろうかと思っていると、その視線が俺……ではなく、その後ろに向けられている。
何があるのだろうかと振り返ってみると、突然扉が開いた事に驚いたのか、上半身が裸に近い格好のシャロンさんが俺の背に隠れるようにして、大きな胸を押し付けていた。
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