英霊召喚 ~ハズレと呼ばれた召喚魔法で、過去の大賢者を召喚して史上最強~

向原 行人
向原 行人

第54話 パンツの価値

公開日時: 2020年10月8日(木) 08:08
文字数:2,315

「くっ……さっきのは効いたな……」


 ソフィアから放たれた精霊魔法で吹き飛ばされた俺は、どうやら意識を失っていたらしく、仰向けに倒れていた。

 ぼやけた視界の中に真っ白な天井が映り、徐々にはっきりと見えるようになってきて……何故か、すぐ傍に真っ直ぐな壁が見える。

 どうやら、部屋の端まで飛ばされてしまったようだ。

 だが、壁の傍で倒れているにも関わらず、後頭部がムニムニと柔らかいのはどういう事だろうか。


「あ、起きた? 悪かったわね。アンタなら、あれくらい避けると思ったから……どうして避けなかったの?」


 俺のすぐ傍にある壁の上から、突然ソフィアの顔が現れた。

 いや、違う。壁だと思っていたのは、ソフィアの胸か……って、胸と壁を間違えていた事がバレたら、また吹き飛ばされるな。


「あぁ。流石に俺も言い過ぎたかと思って、一発ソフィアの攻撃をくらっておこうかと思ったんだけど……しかし、思った以上に強力だったな」

「あ、当たり前でしょ!? 風の上位精霊ジンの魔法なのよ!? 少し気を失っていたとはいえ、よくもまぁこの短時間で目を覚ましたわね」


 それは普段から体を鍛えて……と言いかけて、俺はようやく気付く。

 やけにソフィアの顔が近いという事と、後頭部で感じる柔らかさ。この心地良さは絶対に膝枕だ!

 上位精霊魔法を直撃させてしまい、流石に悪いと思ったのか、ソフィアが柔らかい太ももの上に俺の頭を乗せてくれている。

 今、俺が取るべき選択肢は二つ。

 一つは、このまま気付いていないふりをして、ダラダラと喋って時間を稼ぎ、太ももの感触を楽しむ事。

 もう一つは、気付いていないふりをしたまま、体調が悪そうな感じで、ごろんと寝返りを打つ事。

 ……うん、後者だな。

 このまま寝返りをうち、至近距離でパンツを見る……可能であれば、スカートの中に顔を突っ込んでも良い。

 出来る! 俺にはきっと出来る! ……いくぜっ!


「……うーん。何だか、身体が痛いなぁ」

「ちょっと、大丈夫? 神聖魔法で回復したら……って、何してるの?」

「いや……その、ちょっと悲しかっただけ」


 壁側――もとい、ソフィアの胸側に向かってゴロンと寝返りを打つと、視界が真っ黒に覆われた。

 冷静に考えれば当たり前なのだが、スカートが短すぎる実習服ではなく、ソフィアは制服姿で、おまけに生太ももの上に俺の頭がある訳ではない。

 なので、転がった先にはパンツなどなく、ただ俺の顔が服越しでソフィアのお腹にぶつかっただけだ。

 チクチョウ! せめて、服の上からでもソフィアのお腹に顔を埋め、ついでにクンカクンカしてやる!


「ちょ、ちょっと……くすぐったい……や、やめ……こ、この変態っ! アンタ、何するのよっ!」

「ごふっ! ……だ、だって、パンツが見たかったんだよ!」

「もぉっ! パンツパンツって、そんなにパンツが見たいなら、服屋で女性物の下着を買ってくれば良いじゃない!」

「バッカ野郎! そんな物に意味は無い! ソフィアが履いているパンツだから見たいんだよっ!」


 ソフィアの言う通り、買おうと思えば、度胸と根性さえあれば、女物のパンツを買う事は出来る。

 だが、誰も履いていないパンツに一体何の価値があるだろうか。

 あくまでも、パンツは誰が履いたのかが重要であり、更に言うのであれば、今現在履いているパンツが最も至高だ。

 パンツを見られたくない女の子が、意図せずパンツを見せてしまうチラリズムや、屈辱的に身を悶えさえながら自らのパンツを見せようとする羞恥心がセットになる事で、更にパンツの価値が高まると言うもの。

 もちろん履いていたパンツでも良いが、ベストは現在進行形で履いているパンツだ。

 ただのパンツには興味がありません。可愛い女の子が履いているパンツは、俺のところに来なさい。


「えっ!? ……それって、ウチの事を……」


 ソフィアが顔を真っ赤に染めて何かを言いかけた所で、突然大きな音と共に扉の開く音が響く。


「あー! ハー君、こんな所に居たー!」

「その声は……エリー!? どうしてここに!?」


 慌てて飛び起きると、


「せんせー! ハー君居たよー!」


 エリーが廊下で叫びだす。

 せんせー……って、イザベル先生を呼んだのか。

 けど、もうホームルームが始まって居そうな時間なのに、先生まで何をしているんだ?


「もうっ! ヘンリー君、こんな所で何をしているの!」

「えっと、魔法の訓練をしていまして。それで、ちょっと動けなくなる程熱が入り過ぎて……」


 流石に、パンツを見せて貰おうとして、精霊魔法で吹っ飛ばされましたとは言えないので誤魔化すと、


「ヒール! ……はい、これでもう元気よね? じゃあ、今すぐ行くわよ!」


 治癒魔法を使ったイザベル先生に、ぐいぐいと手を引っ張られる。


「あの、先生。どこへ行くんですか?」

「どこへ……って、イベントホールよ。ヘンリー君には寮に手紙を送ったでしょ?」

「手紙?」

「えぇ。学校再開の案内と一緒に部屋へ送ったわよ?」


 ……まぁ、あれだ。いろいろ有り過ぎて、寮に殆ど居なかったからな。

 手紙なんて、全く気付いてないよ。

 しかしイベントホールって、入学式とか卒業式をする時にしか使わない場所なのに……あ、学校再開に伴う学長の挨拶とかがあるからか?

 だけど、それにしてもイザベル先生のこの気迫は何だろうか。

 有無を言わさず俺を連れて行こうとしているし、随分と焦っている様にも思える。

 別に生徒が一人くらい遅れても良いんじゃないだろうか。


「って、先生。ソフィアやエリーが来てないですよ?」

「……その二人は後で良いわ。とにかく、ヘンリー君。貴方が居ないと私が怒られちゃうんだから、急いでっ!」


 どうして俺が居ないとイザベル先生が怒られるのだろうか。

 少し理不尽だなと思いつつも、先生に従って小走りでついて行く事にした。

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