いつもの様に、時空魔法を完璧に使いこなしたヘンリー様がお屋敷に帰って来た。
よくよく考えると、複数の人間という大きな質量があるにも関わらず、時空を移動させるという、とんでもない魔法を使っているのだから、大量の魔力を消費しているはず。
それなのに、ヘンリー様は周囲に魔力波を殆ど出していない……うん。やっぱり、この人は魔法の天才だわ!
それだけでも凄いのに、あの魔法学校での魔族との戦い……これだけ魔法を使えるというのに、その上剣まで使えるなんて。
最初は命の恩人だし、家訓だから……なんて思っていたけど、今は違う。
はっきりと、私が一生を捧げるに相応しい御方だと思っている。
それなのに、
「ジェーン! ついにドワーフの国が見つかったぞ! 明日から、ヴァロン王国へ遠征だっ!」
ヘンリー様は私ではなく、ジェーンさんによく話しかける。
やっぱり、あの胸なの!? 胸が大きいから、ヘンリー様から声を掛けて貰えるの!?
……ダメよ、クレア。それはただの嫉妬。
ジェーンさんはヘンリー様と一緒に魔族と戦っていたし、このお屋敷に居る中では一番ヘンリー様と付き合いが長いはず。
胸の大きさではなくて、信頼。そう、信頼関係なのよ。
だから、まだまだ私にも挽回するチャンスはあるはずなんだからっ!
「メリッサ。急で悪いんだが、明日から数日間遠征に出るから、数人分の食料を用意しておいてくれないか?」
メリッサちゃんが声を掛けられているけど、彼女は仕方ないわよね。
何と言っても、皆の食事を担当している訳だし。
そ、それに、メリッサちゃんは胸が小さいし、完全にお仕事の指示だもんね。
「貴方。遠征は構わないのだけど、どうして食料が要るの? テレポートで帰って来れば良いんじゃないの?」
出た……アタランテさんだ。
過去に何があったかは知らないけれど、彼女は時々ヘンリー様の妻みたいに振る舞う事がある。
胸の大きさは私と同じくらいなのに、あれだけ攻められる図々しさが私も欲しい。
父上に教えられた、女性は三歩下がって男性の後を……こんな教えに従うんじゃなかったぁぁぁっ!
今からでも、ガンガン前に出るべきかしら。
でも、今まで目立って居なかった私が、突然ぐぃぐぃ攻めだしたら、ヘンリー様が引いてしまわないかが心配だわ。
「あぁ、明日からの遠征は、以前に俺が助けた王宮の騎士たちが同行するんだ。瞬間移動が使える事は秘密にしているし、ヴァロン王国には馬で移動する事になる。それに、どのみちテレポートは俺が行った事があったり、見えている場所とかにしか行けないしな」
「う……馬で移動かぁ。それなら私は参加出来ないかもね」
「どうして……あ! そういや、前にアタランテが馬に乗って大変な事になったっけ」
「えぇ。ぐったり倒れている私に、貴方は色んな事をしたわよねー」
「そ、そうだっけ? はは、ははは……」
むー……何? 何なの!? 色んな事って、何があったの!?
けど、これはチャンスよ! アタランテさんは馬が苦手らしく、遠征には参加しない。
しかも、私の元同僚が同行するなんて、自分から遠征について行くって言う絶好の口実よっ!
この遠征に参加したら、数日間ヘンリー様と付きっきり!
行こう! 行くしかないわっ!
「あの、ヘンリー様。今、聞こえて来た遠征ですが、私も参加させていただけないでしょうか」
「クレアが? でも、マジックアイテムの取引の事もあるしな……」
「それならお父様とイロナさんがいらっしゃるから大丈夫ですよ」
「そうか? ……あ、そうだ。ドロシーとプリシラって知ってる? その二人が同行するんだけど」
「なっ……ドロシーとプリシラですかっ!?」
まさか、よりにもよって、この二人が同行するのっ!?
どっちも巨乳で可愛い女の子じゃないの! しかも、プリシラなんて同期だし。
どうしてこの二人が同行する事になったんだろ。ヘンリー様が見た目で選んだ可能性が一番しっくりくるけど、二人もヘンリー様を狙っていて、立候補したとかだったら……ううん。負けない! 私は胸の大きな女性に負けたりしないんだからっ!
「……い。おーい、クレアー。大丈夫かー?」
「あ……すみません。ドロシーは頑丈さが取り柄の前衛で、プリシラは一通り何でも出来るオールラウンダーですね。どちらも元同僚なので、良く存じております」
「そっか。じゃあ、クレアにも来て貰おうか。向こうも知っている人が居る方が良いだろうしね」
やったー! ヘンリー様と遠征だーっ!
ふっふっふ。この遠征を機に、絶対ヘンリー様とお近づきになるんだからっ!
あのチビッ子幼女エルフや、貴族の貧乳少女、ヘンリー様の事をハー君だなんて馴れ馴れしく呼んで、すぐに抱きつく少女もヘンリー様を狙っているに違いないわ。
それに、最近はあのエロダークエルフが毎日パンケーキを食べながら、ヘンリー様とお喋りしているけど、どれもこれも今日までよっ!
明日からは、私のターンなんだからっ!
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