英霊召喚 ~ハズレと呼ばれた召喚魔法で、過去の大賢者を召喚して史上最強~

向原 行人
向原 行人

第104話 十一匹の猫と幼女

公開日時: 2020年11月4日(水) 08:08
文字数:2,256

「では先ず最初に、魔法を発動させるための理論を軽く説明するニャ」

「……で、風の精霊を用いて猫ちゃんの鳴き声を細分化するニャ」

「……その際に、猫ちゃんの尻尾の動きや、髭の反応も情報として分析するニャ」


 どうしよう。

 いい年したオッサン――汎用魔法の講師が、真面目に何やら難しい魔法の説明をしてくれているのだが、話し方のせいで全く頭に入って来ない。

 いや、元より俺が魔法の理論を聞いた所で理解出来ないのかもしれないんだけどさ。

 黒板にいろんなグラフを描きながら、猫の感情について熱く語るオッサンの前に、チラッと教室の隅に目をやると、床でゴロゴロと転がりながら仔猫と遊んで居るユーリヤの傍に、親猫らしき大きめの猫が居る。

 我が子に変な事をしないかと、親猫が見張っているのか、それとも既に何かしてしまって、威嚇されているのか。

 一先ず、猫もユーリヤも怒ったりはしていなさそうだけど……って、親猫がユーリヤの顔を舐めだした!?


「にゃー。くすぐったいにゃー」


 ……あ、もしかして、さっき口の周りにベタベタ付いてたデザートのせい? 一応、拭いたつもりだったけど、十分じゃなかったのか?

 親猫が他の猫に何か言ったのか、にゃぁにゃぁと教室に居る猫の半分くらいがユーリヤを囲みだした。

 ユーリヤも逃げるか立つかすれば良いのに、起き上がらないから背中やお尻に猫が乗ったりして……猫に包囲されてるっ!

 猫と意思疎通出来る魔法を修得したら、真っ先にユーリヤを囲んで居る理由を聞いてみようか。

 ユーリヤと猫が戯れる様子を眺めていると、隣の席に座ったアタランテが、小声で話し掛けてきた。


「あ、貴方。こ、この尻尾に居る子たち……ど、どうにかならないかしら?」


 何の事かと思ってアタランテの背中に視線を向け、そのままお尻、尻尾と視線を動かして行くと、その尻尾の先端に仔猫がじゃれついていた。

 生後数ヶ月って感じの小さな猫が、一生懸命ジャンプしたり、身体を伸ばして尻尾を前足で掴もうとしている。

 アタランテが猫の尻尾みたく、左右に尻尾を動かすからだと思うのだが、止められないものなのだろうか。


「それでは、そろそろ座学はこれくらいにして、実践に移りますニャ。この教室には私が飼っている十一匹の猫を……おぉぉっ!?」


 あ、今まで喋る事に夢中だった講師が、猫に囲まれるユーリヤに気付いた。

 猫と意思疎通する魔法を使って、猫と会話してユーリヤから離してくれたら効果は本物だが、どうなるだろうか。

 魔法の効力を示す絶好のシチュエーションだと思って様子を見ていると、


「猫ちゃんに囲まれる幼女……可愛い。お嬢ちゃん、僕と結こ……」

「アウトーッ!」


 しゃがみ込んだオッサンがユーリヤの手を握ろうとした。


「あぁっ! お義父さん、ちょっと待ってください」

「誰がお義父さんだっ! うちのユーリヤには指一本触れさせないからなっ!」

「お義父さん、すみません。猫ちゃんに囲まれる女の子が可愛くてつい。あの、決して変な意味じゃないんです」


 いや、三十オーバーのオッサンが幼女に結婚を申し込む時点で完全にアウトなのだが。

 俺が本当の父親だったら、即通報しているレベルだ。

 オッサンから引き離すようにユーリヤを抱き上げると、取り囲んで居た猫たちが離れ、


「えー、こほん。それでは先程女の子の背中に乗っていたタイショー……縞模様の猫ちゃんに、その時の気持ちを聞いてみるニャ」


 取り繕うようにしてオッサンが話を戻す。

 元々俺もユーリヤに群がっていた理由を猫たちに聞いてみたいと思っていたはずなのに、先程の講師のオッサンの反応を見た後だからか、若干引いてしまう。

 しかし、タイショーって随分と変わった名前を猫に付けたんだな……と、どうでも良い事を考えているうちに、オッサンの呪文詠唱が完了した。


「コミュニケート」


 オッサンの言葉と共に、縞模様の猫が淡い緑色の光に包みこまれる。


「えー、今私とタイショーは意志疎通が出来る状態ニャ。声を出さなくても、念じるだけで話す事が出来るニャ。では、女の子の背中に乗っていた時、何を考えていたか聞いてみるニャ」


 そう言って、緑色に光る猫をジッと見つめた後、その光が消えた。


「タイショーは『美味しそうな匂いがした』と言っていたニャ。ちなみに、猫ちゃんも知性が高い方が意志疎通が容易ニャ。つまり、この魔法を使っても仔猫とは会話が難しく、大人の猫の方が会話し易いニャ」


 うーん、微妙な答えだな。具体的に、何の匂いがしたから……とかって言ってくれれば、まだ信憑性があったんだけどな。

 まぁあの猫が本当に美味しそうな匂いがしたとだけ答えたのであれば、仕方が無いかもしれないけど。


『ヘンリーさん。だったら、ご自分で使ってみれば良いのではないでしょうか』

(まぁそうなんだけど、俺には説明が何を言っているのかがサッパリだったからさ)

『大丈夫です。彼の講義は、猫の可愛さの話が大半であまり役には立ちませんでしたが、実際に目の前で使っている所を見て、魔法の構造を理解しました。もう使用出来ますよ』

(マジで!? 流石はアオイ! 凄いな)

『いえいえ。ですが、今この場では魔法詠唱をする振りは忘れないでくださいね』

(もちろん。そこは大丈夫だ)


「あー、一先ず使ってみたいんだが、構わないか?」

「構わないニャ。どんどん実践するニャ。沢山練習した方が早く修得出来るニャ」


 ユーリヤをオッサンから離すためと見せかけつつ、実は詠唱呪文が適当なのを誤魔化す為に講師から背を向けると、


「コミュニケート」


 淡い緑色の光が、アタランテの尻尾にじゃれつく仔猫を包み込んだ。

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