「あの、ヘンリー様。先程は庇ってくださって、ありがとうございました」
国境を抜けた先、ヴァロン王国側の街を歩いていると、隣に並んだクレアが、同行している兵士――ジャンに聞こえないように耳打ちしてきた。
「ん? いや、俺こそ悪かったな。せっかくクレアが言葉で何とかしようとしていたのに、つい殴ってしまって」
「いえ……その、私なんかの為に、怒ってくださったのが……嬉し……」
途中から声が小さすぎて何を言っているか聞こえなかったけれど、一先ず感謝してくれているみたいなので良しとしよう。
そう思っていると、最初の言葉が聞こえて居たのか、今度はプリシラが近づいてくる。
「私は国際問題にならないかと、凄く心配でしたが……部下の為に、あのような行動を取れるヘンリー隊長は、素敵だと思うのです」
「お、そうか? ありがとう。とりあえず、何かあれば皆すぐに言ってくれよ? 絶対に俺が守るからさ」
「……はい。よろしくお願いするのです」
プリシラが、何故か話が終わった後も俺に近い気がするのだが……まぁいいか。
時々、左腕がおっぱいに当たって、幸せになれるし。
一先ず、この街は完全にスルーして、街の門から外へ出ると、早速たずなを引いてきた馬に乗る。
「じゃあ、行くか。確か、このまま東に行くんだよな」
「ピュイード火山ですと、そうですね……って、あの、どうしてこっちの馬は誰も乗らずに、そっちに三人も乗っているのですか?」
監視役兼道案内のジャンが、俺とドロシーとユーリヤが乗る馬を見て不思議そうにしていると、
「あ、しまったッス。つい、この国へ来るまでと同じノリで馬に乗ってしまったッス。流石にヴァロン王国内だし、ここからは自分の馬に乗るッス」
ドロシーが俺の馬から降りようとしだした。
「待った。ドロシー、特訓はまだ終わってないぞ?」
「え? だけど、師匠……その、すぐ傍に男性が、しかもヴァロン王国の人が居るッス」
「いや、そんなの特訓に関係ないだろ?」
「えぇっ!? だ、だけど、その……恥ずかしいッス」
「だったら、尚更特訓するチャンスじゃないか。恥ずかしい事を避けるために、全力で気配を読むんだ!」
「ひぇぇぇーっ!」
何やら困惑するドロシーを降ろさせず、そのまま出発した。
それから、少し街道を走り、ドロシーの緊張が少し緩み始めた所で、触って当然だと言わんばかりに胸を鷲掴みにする。
「――ッ! ……し、師匠。今までよりも、少し激しい気がするッス」
「いや? 今まで通りだが?」
「で、でも、何だか少し違っ……んみゃっ!」
本当に、これまでと同じなんだけどな。
……まさか、ドロシーは見られている方が変に反応してしまうのか?
だが、同行者が居る間の方が触られた時のダメージが大きいのなら、より特訓効果が上がるだろうし、胸を触る回数を増やしてみよう。
「ぁぅぅ……」
「ひゃんっ!」
「……だ、だめぇ」
回数を増やしているが、ドロシーは一向に気配を読んでくれない。
だったら、鷲掴みにする力を強くしてみようか? と考えた所で、
「あ、あの……失礼ながら、隊長さんとそちらの女性騎士は、先程から何をされているのでしょうか?」
「ん? これは我が国の修行なんですよ」
「えっ!? 修行……ですか!? そ、それが!?」
「えぇ。移動中も修行をし続ける……このドロシーは、凄く頑張り屋なので」
「そ、そうなんですか……。すみませんでしたっ! まだ兵士としてはペーペーの三年目で分かっておりませんでしたが、てっきりそちらの女性の趣味かと」
……ん? ドロシーの趣味だって? 俺じゃなくて?
「どういう事?」
「いえ、隊長さんがその女性の胸を触る度に、女性が凄く嬉しそうにしていたので」
「ちょ、ちょっと待つッス! じ、自分は悦んでなんて、いないッス! 誤解ッス! 濡れ衣ッス!」
ドロシーは変な誤解をされたからか、俺が胸を触っている間も耳まで真っ赤だったが、更に薄らと額に汗まで浮かべて口を尖らせている。
流石に、移動中に胸を触られて喜ぶ女性なんて居ないだろう。
ドロシー自身も否定しているしね。
なので、再び特訓を再開しながら、馬を走らせる。
ドロシーは胸を触られながらも、何とか必死にたずなを握り……って、あれ? 胸を触れないようにする訓練だったはずが、胸を触られながら別の事をする訓練になってない?
胸を触り続けているのに、ドロシーが変な声を出しながらも、俺の手を払わずに、そのまま移動しているし、趣旨が変わってるよっ!
「……ブライタニア王国って、良いですね。そっちの国に移住しようかな……あっと、今日はこの街までです。これ以上進むと野宿になってしまうので、まだ日が落ちていませんが、ここで宿を取ってください」
そう言って、ジャンがオススメの宿を教えてくれる。
俺たちは野宿が野宿にならないんだけど、他国に居るので従う事にした。
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