アオイに提示された魔法、アースクエイクを使うと、足元が大きく揺れ出した。
自分で発動しておいて何だけどさ、これってヤバ過ぎないか!?
(アオイッ! この魔法はキャンセルだっ! これは、街が壊れるっ!)
『キャ、キャンセルなんて無理ですよぉーっ!』
マジかよ! どうする!? このままじゃ、モヒカンたちだけでなく、無関係な街の人たちまで巻き込んでしまう。
「そうだっ! ラウラ! この揺れから、建物や街の人たちだけ助けられないかっ!?」
「……この魔法を使ったのは、兄たんなのに?」
「ちょっと使う魔法を間違えたんだ! 頼む! 何とかしてくれっ!」
「……完全には無理だけど、出来る」
「本当かっ!?」
「……うん。ところで、兄たん。ラウラちゃんを一生養ってくれる?」
「あぁ、養うから頼むっ!」
「……スウィング・バック」
ラウラが再び知らない魔法を使うが、何も変わらず揺れ続け……いや、違う。
この通りだけが揺れているのか!?
「……兄たんの生み出した揺れを相殺させる揺れを作った。けど、流石に発生源となるこの辺は無理だった」
「難しい事は分からんが、一先ずこの辺り以外は大丈夫なんだな?」
「……その通り」
「すまん、ラウラ。助かる!」
この付近はアオイの魔法で揺れ続けており、通りに地割れが出来て、モヒカンたちが飲み込まれていった。
一先ず狙い通りではあるのだが、
「……家が崩れるっ!?」
「貴方っ! 家の住人は私とヴィクトリームで助ける。だから、貴方は魔族を!」
「アタランテっ! ……頼むっ! 俺は、アイツを倒すっ!」
俺のすぐ傍にあった家が倒壊しそうになった所で、すぐさまアタランテとヴィクトリーヌが動く。
街の人たちの人命を二人に任せ、俺は通りに居る男と一気に距離を詰める。
「くっ……剣も魔法も使えるのか。厄介だな」
「ごちゃごちゃと、うるせえんだよっ!」
跳んで来た勢いを殺さず斬撃に乗せ、魔族の男に斬りつけると、
「……片腕で済むなら安いですね」
左腕を犠牲にして俺の剣の軌道を逸らす。
「しまった!」
刹那の時間だが、体勢を崩した俺の傍で魔族の男が右腕に光を集め、それを……空に放った!?
魔法の発動ミスか!? ……いや、今はそれよりも、こいつを倒す事だ!
魔族の攻撃が来なかったので、バックステップで回避行動を取ると共に、そこから身体を回転させて横薙ぎに一閃。
今度は魔族の胴体を真っ二つにしたのだが……何だ? 魔族にしては弱くないか?
いや、さっきやられかけた俺が言うのも何だけどさ。
一先ず、魔族のしぶとさは良く知っているので、真っ二つにした身体をもう一度斬り、更に斬って、念のために炎の魔法で燃やす。
だが、何故だろうか。
胴体が二つに斬られているというのに、この魔族はずっと穏やかな表情――何かをやり遂げたような顔をしていた。
それが不気味で、斬り刻んだあげくに燃やすという、徹底した倒し方になったのだが。
「まぁこれだけやれば、大丈夫だろう。それより街の被害状況の確認だ」
アタランテたちの所へ急いで戻って状況を聞くと、
「倒壊した家屋は四軒だね。ただ、いずれも住人は助けたよ」
「すまん。ありがとう」
「ただ、家が壊れてはいないものの、怪我をしたって人は居るかもしれないね」
「わかった。悪いが、アタランテとヴィクトリーヌで、手分けして怪我人を探してくれないか? 簡易な治癒魔法なら俺も使えるから治すし、怪我が酷い者が居たら、マーガレットを呼んでこよう」
「了解だよ」
一先ず壊れた四軒の住人と話し、俺が具現化魔法で仮住まいを提供し、それぞれが希望するだけの金貨を渡して収めた。
住人たちは、俺の魔法で地震が起こったとは思っていなかったけど、このまま放置は後味が悪いからな。
ただ、一軒だけ借り住まいを提供していない家がある。
「あの、これからよろしくお願いします」
一人で住んでいた十一歳の幼女は、俺が保護する事になったから……またノーマにジト目を向けられそうだ。
それから、アタランテたちが見つけた負傷者を神聖魔法で癒し、一息つく。
まさか、魔族よりも俺たちの方が被害を出す事になるなんてな。
『だ、だって、ヘンリーさんが強力な魔法を使えって……』
(強力な魔法だなんて言ってないっての。ラウラの落し穴と同系統の魔法をって言ったんだ)
『ですから、同じような魔法を使うのであれば、ラウラさんが使った魔法よりも凄いのを使わないと、大賢者の名折れですよね?』
(幼女と張り合うなよっ! というか、無関係な人達を大勢巻き込む方が、賢者の名折れだろ)
アオイの言い分? を聞いていると、珍しくラウラが自分で歩いて来て、俺の腰に抱きつく。
「……兄たん、約束。一生養ってね」
…………アオイーっ!
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