「あ、あの……貴方様は、フローレンス様を救った方ですよね?」
「え? はい、まぁそうですけど?」
「……お、お連れのお嬢様は……いえ、何でもありません。お連れのお嬢様のお名前はユーリヤ様ですね。どうぞ、お通りください」
王宮の正門でいつも通りに受付を済ませて中へ入ると、背後から兵士たちの声が聞こえてくる。
「せ、先輩。あの例の方……子供連れてますよ」
「そ、そうだな。どう見ても未だ十代半ばなのにな。というか、いつも一緒に来ている美少女たちも若いのに……誰が母親なんだ!?」
「褐色美幼女……スリスリしたい……ハッ! い、いえ何でもありませんっ!」
一人ヤバい奴が居るから、何かが起こる前に追放出来ないだろうか。
魔法学校を卒業し、晴れて正規に仕官しても改善していなければ、上申してみよう。
ユーリヤを連れていつもの小部屋へ向かうと、フローレンス様付きのメイドだと言う女性が「今は忙しいので暫く待って欲しい」という連絡を伝えてに来てくれたので、ジェーンの様子を見に行く。
いつもの訓練場に移動するとジェーンが剣を振るっていた。
「くっ……では、これではどうですのっ!」
「はぁっ!」
「なっ!? 氷の槍を……ならば、これならっ!」
あ、あれ? 一体何がどうなっているのだろう。
ジェーンはいつも通りの巨乳なのだが、その相手をしているニーナが……ニーナのあの大きな胸が小さくなっている!
俺の目がおかしくなってしまったのだろうか。
ジェーンと激しくやり合っているのに、あの爆乳が全くといって良い程揺れて居ないし、その膨らみさえも見えないなんて。
「そんな……そんなバカな……。あの大きな胸が消えて無くなってしまうなんて……」
「――ッ!? きゃ、きゃぁぁぁっ! な、何ですの!? 何事ですのよっ!?」
「どうしてだ? どうして無くなってしまったんだぁぁぁっ!」
「あっ……こ、こら! 変質者が、変質者が居ますのっ!」
「あぁぁぁ……柔らかさは健在だけど、大きさが……あの掌から零れる程の膨らみが無いっ!」
「だ、誰が、誰が残念貧乳騎士ですのっ! ……アイス・スパイクッ!」
小さくなってしまったニーナの胸が再び膨らまないかと撫でていると、突然足元から十数本の尖った氷柱が現れた。
というか、残念貧乳騎士って何だ?
「おっと、危ないな……って、あれ? 良く見たらニーナじゃない?」
「アイス・スパイクを避けた!? ……いえ、そんな事よりも、この私コートニー=リルバーンをあの乳牛騎士と間違えるなんて、失礼にも程がありますのっ!」
「すみません。同じ青髪だったので、てっきり。いやー、良かった。ニーナのおっぱいがしぼんだ訳じゃなくて」
「……あ、貴方。どこの誰だかは存じませんが、私に喧嘩を売っているんですのね?」
コートニーと名乗る青髪の女性を改めて見てみると、ニーナと違ってかなり髪が長く、腰近くまである。
武器もショートソードだし、何より魔法を使っていた。
胸の大きさは論外としても、顔だって似ていないし、どうして俺はこの女性をニーナと間違えてしまったのだろうか。
『ヘンリーさんが女性の胸しか見ていないからですよ』
(いやいや、本当に胸しか見て居なければ、コートニーとニーナの胸を見間違えたりしないから)
『……どうしてそれを誇らしげに言えるんですか?』
呆れた様子のアオイに、おっぱいについて語ろうとした所で、ジェーンが口を開く。
「あ、主様、今日はニーナさんはお休みですよ? あと、ちゃんとコートニーさんに謝られた方が……」
「そ、そうですのっ! 私のむ、胸を触ったのですから!」
「それについては、本当にすみません。えっと……その、とっても柔らかかったです」
『ヘンリーさん。おそらくフォローのつもりなのでしょうが、全くフォローになってませんからね? むしろ、油に火を注いでますから』
(えっ!? おっぱいを褒めたのに!?)
『触られた事を怒っている相手に、胸の柔らかさを伝えてどうするんですかっ!』
むぅ……確かに、アオイの指摘通り、コートニーさんが口をパクパクさせているのに言葉になっていない。
顔も真っ赤だし……あ、あれ? 逃げた?
『怒りが臨界点を越えたんじゃないですかね? おそらく正規の宮廷魔術士? なのでしょう。魔法を暴走させる前に自ら身を引く……誰かさんと違って流石ですね』
(誰かさんって誰だよ。俺は魔法を暴走させた事なんてないぞ? そもそもアオイが居なければ、召喚魔法以外使えないからなっ!)
アオイがここぞとばかりに俺を弄ろうとしてきたが、押し黙る。
ふっ……勝った。だが、勝負には勝ったはずなのに、負けた気がするのは何故だろうか。
「え、えーっと、主様。今日はどうされたのですか? それに、その女の子は?」
「いや、ジェーンとニーナの様子を見に来たんだけど、まさかニーナ以外の相手もしていたとは」
「いえ、コートニーさんとお話したのは今日が初めてです。私が一人で素振りをしていたら、声を掛けてくださって」
「一人で素振り? 今日はニーナが休みなんだろ? 一緒に休めば良かったのに」
「ですが、主様からはニーナ様の鍛錬をお申し付けいただいていて、休息については特にご指示が無かったので」
「そ、そうか。悪い」
うーん。ジェーンは騎士だけあって、凄く忠実なんだけど、忠実過ぎるというか、融通が効き難いと言うか……空気は凄く読める娘なのに。
「あれ? 今更で申し訳ないんだけど、ジェーンは食事だとか、寝床はどうしてたんだ?」
「騎士宿舎にあるニーナさんのお部屋を、御好意でお借りさせていただきました。あと食事は、宿舎に行けば頂けましたので」
なるほど。二ーナには、後で何かお礼をしておこうか。
一先ず、ジェーンの現状を理解した所で、訓練場の土をじっと見つめているユーリヤを呼ぶ。
「ジェーン。この子はユーリヤだ。後でフローレンス様にも紹介するから、詳しい経緯はその時に」
「畏まりました」
流石、ジェーンだ。詳しい経緯を話さなくても突っ込んで来ない。
そしてジェーンがしゃがみ込み、ユーリヤに視線を合わせて話しかける。
「ユーリヤちゃん、初めまして。私はジェーン=ダークと言います。よろしくお願いいたします」
「わたしユーリヤ。にーにのともだち?」
「にーに……主様の事ですね? お友達……というより、主様にお仕えする者です」
「つかえる? ……にーにのどれー?」
いや、奴隷って。
断っておくが、俺はそんな言葉を教えてないから。
困った表情を浮かべるジェーンと、キョトンとするユーリヤを余所に、そろそろ頃合いかと思ったので、二人を連れていつもの小部屋へ向かう事にした。
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