英霊召喚 ~ハズレと呼ばれた召喚魔法で、過去の大賢者を召喚して史上最強~

向原 行人
向原 行人

第86話 回想……残念貧乳騎士

公開日時: 2020年10月24日(土) 08:08
文字数:2,653

「あ、あの……貴方様は、フローレンス様を救った方ですよね?」

「え? はい、まぁそうですけど?」

「……お、お連れのお嬢様は……いえ、何でもありません。お連れのお嬢様のお名前はユーリヤ様ですね。どうぞ、お通りください」


 王宮の正門でいつも通りに受付を済ませて中へ入ると、背後から兵士たちの声が聞こえてくる。


「せ、先輩。あの例の方……子供連れてますよ」

「そ、そうだな。どう見ても未だ十代半ばなのにな。というか、いつも一緒に来ている美少女たちも若いのに……誰が母親なんだ!?」

「褐色美幼女……スリスリしたい……ハッ! い、いえ何でもありませんっ!」


 一人ヤバい奴が居るから、何かが起こる前に追放出来ないだろうか。

 魔法学校を卒業し、晴れて正規に仕官しても改善していなければ、上申してみよう。

 ユーリヤを連れていつもの小部屋へ向かうと、フローレンス様付きのメイドだと言う女性が「今は忙しいので暫く待って欲しい」という連絡を伝えてに来てくれたので、ジェーンの様子を見に行く。

 いつもの訓練場に移動するとジェーンが剣を振るっていた。


「くっ……では、これではどうですのっ!」

「はぁっ!」

「なっ!? 氷の槍を……ならば、これならっ!」


 あ、あれ? 一体何がどうなっているのだろう。

 ジェーンはいつも通りの巨乳なのだが、その相手をしているニーナが……ニーナのあの大きな胸が小さくなっている!

 俺の目がおかしくなってしまったのだろうか。

 ジェーンと激しくやり合っているのに、あの爆乳が全くといって良い程揺れて居ないし、その膨らみさえも見えないなんて。


「そんな……そんなバカな……。あの大きな胸が消えて無くなってしまうなんて……」

「――ッ!? きゃ、きゃぁぁぁっ! な、何ですの!? 何事ですのよっ!?」

「どうしてだ? どうして無くなってしまったんだぁぁぁっ!」

「あっ……こ、こら! 変質者が、変質者が居ますのっ!」

「あぁぁぁ……柔らかさは健在だけど、大きさが……あの掌から零れる程の膨らみが無いっ!」

「だ、誰が、誰が残念貧乳騎士ですのっ! ……アイス・スパイクッ!」


 小さくなってしまったニーナの胸が再び膨らまないかと撫でていると、突然足元から十数本の尖った氷柱が現れた。

 というか、残念貧乳騎士って何だ?


「おっと、危ないな……って、あれ? 良く見たらニーナじゃない?」

「アイス・スパイクを避けた!? ……いえ、そんな事よりも、この私コートニー=リルバーンをあの乳牛騎士と間違えるなんて、失礼にも程がありますのっ!」

「すみません。同じ青髪だったので、てっきり。いやー、良かった。ニーナのおっぱいがしぼんだ訳じゃなくて」

「……あ、貴方。どこの誰だかは存じませんが、私に喧嘩を売っているんですのね?」


 コートニーと名乗る青髪の女性を改めて見てみると、ニーナと違ってかなり髪が長く、腰近くまである。

 武器もショートソードだし、何より魔法を使っていた。

 胸の大きさは論外としても、顔だって似ていないし、どうして俺はこの女性をニーナと間違えてしまったのだろうか。


『ヘンリーさんが女性の胸しか見ていないからですよ』

(いやいや、本当に胸しか見て居なければ、コートニーとニーナの胸を見間違えたりしないから)

『……どうしてそれを誇らしげに言えるんですか?』


 呆れた様子のアオイに、おっぱいについて語ろうとした所で、ジェーンが口を開く。


「あ、主様、今日はニーナさんはお休みですよ? あと、ちゃんとコートニーさんに謝られた方が……」

「そ、そうですのっ! 私のむ、胸を触ったのですから!」

「それについては、本当にすみません。えっと……その、とっても柔らかかったです」


『ヘンリーさん。おそらくフォローのつもりなのでしょうが、全くフォローになってませんからね? むしろ、油に火を注いでますから』

(えっ!? おっぱいを褒めたのに!?)

『触られた事を怒っている相手に、胸の柔らかさを伝えてどうするんですかっ!』


 むぅ……確かに、アオイの指摘通り、コートニーさんが口をパクパクさせているのに言葉になっていない。

 顔も真っ赤だし……あ、あれ? 逃げた?


『怒りが臨界点を越えたんじゃないですかね? おそらく正規の宮廷魔術士? なのでしょう。魔法を暴走させる前に自ら身を引く……誰かさんと違って流石ですね』

(誰かさんって誰だよ。俺は魔法を暴走させた事なんてないぞ? そもそもアオイが居なければ、召喚魔法以外使えないからなっ!)


 アオイがここぞとばかりに俺を弄ろうとしてきたが、押し黙る。

 ふっ……勝った。だが、勝負には勝ったはずなのに、負けた気がするのは何故だろうか。


「え、えーっと、主様。今日はどうされたのですか? それに、その女の子は?」

「いや、ジェーンとニーナの様子を見に来たんだけど、まさかニーナ以外の相手もしていたとは」

「いえ、コートニーさんとお話したのは今日が初めてです。私が一人で素振りをしていたら、声を掛けてくださって」

「一人で素振り? 今日はニーナが休みなんだろ? 一緒に休めば良かったのに」

「ですが、主様からはニーナ様の鍛錬をお申し付けいただいていて、休息については特にご指示が無かったので」

「そ、そうか。悪い」


 うーん。ジェーンは騎士だけあって、凄く忠実なんだけど、忠実過ぎるというか、融通が効き難いと言うか……空気は凄く読める娘なのに。


「あれ? 今更で申し訳ないんだけど、ジェーンは食事だとか、寝床はどうしてたんだ?」

「騎士宿舎にあるニーナさんのお部屋を、御好意でお借りさせていただきました。あと食事は、宿舎に行けば頂けましたので」


 なるほど。二ーナには、後で何かお礼をしておこうか。

 一先ず、ジェーンの現状を理解した所で、訓練場の土をじっと見つめているユーリヤを呼ぶ。


「ジェーン。この子はユーリヤだ。後でフローレンス様にも紹介するから、詳しい経緯はその時に」

「畏まりました」


 流石、ジェーンだ。詳しい経緯を話さなくても突っ込んで来ない。

 そしてジェーンがしゃがみ込み、ユーリヤに視線を合わせて話しかける。


「ユーリヤちゃん、初めまして。私はジェーン=ダークと言います。よろしくお願いいたします」

「わたしユーリヤ。にーにのともだち?」

「にーに……主様の事ですね? お友達……というより、主様にお仕えする者です」

「つかえる? ……にーにのどれー?」


 いや、奴隷って。

 断っておくが、俺はそんな言葉を教えてないから。

 困った表情を浮かべるジェーンと、キョトンとするユーリヤを余所に、そろそろ頃合いかと思ったので、二人を連れていつもの小部屋へ向かう事にした。

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