アオイに教えて貰った解体魔法を使い、倒したブルーパイソンを皮と牙と身に一瞬で分け、袋に詰める。
それから少し歩くと再びブルーパイソンを見つけたので、今度はジェーンに任せる事にした。
一先ず身体強化無しの、俺と同じ条件で戦っているのだが、アオイの言う通り蛇にしては素早い動きを見せるブルーパイソンに、ジェーンの剣が中々当たらない。
『ほら、私の言った通りでしょう。激戦をくぐり抜け、当時は英雄と呼ばれて居たジェーンさんでさえ、苦戦しているんです。ヘンリーさんの身体能力が規格外過ぎるんですよ』
(いや、違うな。ちょっと待ってくれ)
何故か俺を超人扱いしたがるアオイを余所に、ジェーンの戦いをじっくり観察した俺は、
「マテリアライズ!」
新たに具現化魔法で剣を生成し、地面に突き立てた。
「ジェーン、この剣を使え!」
ブルーパイソンの牙を避けながら俺の近くまで下がって来たジェーンは、新しい剣を手にして、
「フッ」
一撃でその身を切り刻んだ。
『え? ど、どういう事ですか? 神聖魔法で身体強化を行った訳でもないのに、どうしてジェーンさんが急に強くなったんですか!?』
(今のはジェーンが強くなった訳じゃなくて、元々武器が合ってなかったから、扱い易そうな武器に変えてあげただけだ)
『どういう事ですか? どちらも剣には変わりないですよね?』
(いや、違うんだ。最初の武器は俺の愛剣――クレイモアっていう、大きな剣だったから、女性であるジェーンが使うには重過ぎたんだ。だからクレイモアよりも軽くて、ジェーンの戦い方の癖に合っているレイピアを具現化しなおしたんだ)
『具現化しなおした……って、具現化魔法は単純な物しか具現化出来ないはずなのに……』
(確かにアオイはそう言ったけど、最初に具現化した剣が細部まで俺の愛剣にそっくりだったから、ちゃんと細部までイメージしたらいけるかなーって思ってさ。そしたら、ちゃんとレイピアが具現化されたんだ)
『……そうですか。正直、今まで私は具現化魔法は即席対応用で、ちゃんとした武器などは錬金魔法で作った方が良いと思っていたのですが、術者のイメージ力次第で使い勝手が変わるんですね。勉強になりました』
アオイは魔法が十二分に凄いから、剣なんて使う事が無かっただろうし、騎士を目指していて武器に詳しい俺だからこそ、具現化魔法の可能性に気付けたのだろう。
「主様。せっかく剣を頂戴したのに、使いこなす事が出来ず、申し訳ありませんでした」
「いや俺の方こそ、ごめん。ジェーンの細い腕を見れば、俺と同じ剣で良い訳がなかったのにさ」
「いえ、ですがこちらの剣は私にピッタリでした。主様が私の事を良く見てくださったのだと、嬉しく思います」
「あはは。傍からじっくり戦い方を見させてもらったからね。重い剣に振り回されながらも、突きを多用しようとしていたりとか、攻撃する時の脚の運びとかで、最適な武器の形が有る程度見えたから」
「流石、主様です。たった一度の戦いを見ただけで、そこまで分かるものなのですね。私は主様に忠誠を誓えて、本当に嬉しく思います」
「ジェーン、いくらなんでも褒めすぎだよ。あ、それはそうとさ、さっきの戦いで……」
ジェーンから受け取ったクレイモアを、アオイに教えてもらった具現化の解除魔法で土に還し、暫く剣技話に花を咲かせていると、
「むー。ハー君がジェーンちゃんに取られちゃうよー。でも、ジェーンちゃんもパパと仲良くしたいだろうし……でも、エリーだってハー君と仲良くしたいし。ねぇ、ハー君。エリーも剣を使えるようになった方が良い?」
突然エリーが俺とジェーンの間に割って入る。
というか、そのパパって設定は未だ残ってたのかよ。あと、そもそも俺はパパじゃねぇっ!
「……エリーは錬金魔法を極めて、立派な錬金術士になるんだろ? 無理に武器を使おうとしなくても良いよ。俺とジェーンでエリーを守るからさ」
「そっか……ありがとう。ハー君は優しいねっ!」
いや優しいというより、エリーに刃物を持たせると、こっちが怖いと言った方が正しいのだが……まぁ黙っていよう。
倒したブルーパイソンを再び解体魔法を使って回収し、森の中を暫く歩く。
俺とジェーンで連携の練習を兼ねて、小型から中型の魔物を倒しまくったのだが、流石に材料回収用に持ってきた袋に入らなくなってしまった。
「随分と倒したけど、袋に入り切らない材料はどうしようか」
「ハー君。錬金魔法の材料としては、十分な気がするから、そろそろ帰る?」
「そうだな。さっき倒した猪型の魔物や狼型の魔物を材料として持ち帰るのは諦めるか」
中型サイズの魔物二体分なので、ちょっと勿体無い気もするが、今更袋の中身を出す気にもなれないので、そのまま放置して帰ろうかと思った所で、
『あ、ヘンリーさん。言い忘れていましたけど、空間収納魔法っていうのがありますよ』
(空間収納魔法? 何だそれ? 聞いた事も無いんだけど)
『以前に時空魔法という魔法を使用しましたが、その一種で、こことは違う別の世界を倉庫として扱えるんですよー。入れるのも出すのも自由自在なので、便利ですよ。しかも、そこに入れている間は時間が止まっているので、生物でも痛みませんし』
(へぇー。じゃあ、今持っているこの材料をいれた袋も、袋に入り切らなかった魔物も収納出来るのか)
『その通りです。ただし、一つだけ制約があって、ヘンリーさんと仲間の所有物しか収納出来ません。他人の物は入れられないので、注意してください』
なるほどねー。確かに他人の物が収納出来たら、簡単に盗めちゃうしね。
まぁ騎士を目指していた訳だし、今も宮廷魔術士を目指しているのだから、当然そんな使い方はしないけどさ。
「ディメンション・ポケット!」
早速使用すると、目の前の空間に小さな亀裂のような物が見える。
アオイ曰く、この亀裂から物を出し入れするそうで、早速材料袋の中身を入れ、次いで足元で転がる魔物を解体して、どんどん入れて行く。
「ハー君。その不思議な割れ目? ってなぁに?」
「主様。私も、その宙に浮かぶそれが気になります。主様がそこへ入れた物が消えていくのですが」
エリーとジェーンがしげしげと俺の手を見つめては、不思議そうな表情を浮かべる。
「これは、空間収納魔法って言って、簡単に言うと、どこでも出し入れ出来る倉庫なんだ」
「へぇー。ハー君って、本当に凄いんだねー」
「はっはっは。それより、荷物の心配が要らなくなったし、もう少しだけ奥へ行ってみようか」
「うん。エリーは、ハー君が行く所になら、どこへでもついて行くよー」
とはいえ、帰る時間の事もあるし、中型の魔物を一、二体程倒したら帰ろう。
そう考えながら森の奥へと進み、突然大きな闇の気配を感じ取る。
『ヘンリーさん。これはダメです。逃げましょう!』
(大型の魔物か。そうだな。エリーも居るし、逃げよう……って、ちょっと待った。どうして街からそう離れていない場所に大型の魔物が居るんだ!?)
『知りませんよー! それより早く逃げましょう! ヘンリーさん一人ならともかく、エリーさんを巻き込む訳にはいかないでしょう』
(そうだな。だが、ここで俺が逃げたら、こいつが街を襲わないか?)
『そうなったら、街の騎士団とかが対応するんじゃないですか? ……って、ちょっとヘンリーさん!? 何を考えているんですか、ヘンリーさんっ!』
(俺は、騎士を目指しているんだ。街を、国民を、そして仲間を……全部守って見せる!)
「ジェーン! エリーのすぐ傍で待機! 俺が全力で守るが、万が一の時にはエリーを頼む。エリーは、そこから絶対に動くなよ!」
「えっ!? ハー君!? 何っ!? 突然どうしたの!?」
「……この気配は!? 主様っ!」
(アオイ、身体強化と防御系の神聖魔法を教えてくれっ!)
『……はぁ。大型の魔物をソロで倒そうだなんて……勇者より無謀じゃないですか。全力で支援しますので、とにかく死なないでください。死んでしまったら、流石の私でもどうしようも出来ませんから』
二人から少し離れて剣を構えると、俺の背丈の倍はありそうな、巨大な熊の魔物が姿を現した。
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