英霊召喚 ~ハズレと呼ばれた召喚魔法で、過去の大賢者を召喚して史上最強~

向原 行人
向原 行人

第92話 ロスト・マジック

公開日時: 2020年10月27日(火) 08:08
文字数:2,067

 ユーリヤに呼ばれて行ってみると、随分と古い、だけど重厚な存在感を示す本があった。


「にーに。これ、なにかある」

「そうだな。如何にもって感じの本だな」


 何の本かは分からないけれど、ユーリヤが何かを感じ取った本だ。

 きっと役に立つ事が書かれているのではないだろうか。


「それは……失われた魔法――ロスト・マジックについて研究した宮廷魔術士が書いた本ですね」

「シャロンさん。まさか、ここにある本の内容を覚えているんですか?」

「い、いえ。流石にそこまでは無理ですよ。ですが、ある程度は把握していて、偶然その魔導書が把握していた中に含まれて居ただけです」


 失われた魔法か。

 いつもアオイのお世話になっている身だけれど、せっかくだから勉強しておこうか。


『そうですね。私もロスト・マジックというのが、どのような魔法か知っておきたいですし。要は、現代の魔術士では使えない程の凄い魔法だって事ですよね?』

(そうなるな。まぁとにかく見てみよう)


 アオイも俺を通して読めるみたいだし、早速魔導書を捲っていく。

 最初は著者の自己紹介というか、自慢みたいな話なのでさっさと飛ばして『第一章 失われた攻撃魔法』という内容へ。

 どうやら昔はこんな魔法があって、凄かったんだーという事が載っているだけらしく、使い方までは掲載されていないようだ。

 ……失われた魔法と書かれて居るのだから、当然と言えば当然なのだが。


「えっと、この章に書かれているのは、魔王討伐に参加した大賢者が生み出したと言われる、元素魔法についてですね」


――ブハッ!


「……ヘンリーさん? ど、どうかされたんですか?」

「い、いえ。何でも無いです。気にしないでください」


 シャロンさんが示すページに目をやると、『精霊を介さずに直接火や風といった元素を攻撃に用いる魔法。精霊を呼び出す手間が省けるが、自らの魔力で直接元素を制御するため、精緻な魔力制御を要し、並の魔術士では発動させるのは困難』とかって書かれていた。


『あらあらー。今の時代では、あれしきの魔法を使えないんですか? 残念ですねー』


 ……アオイが調子に乗っていて若干うざい。

 まぁでも、事実っぽいので仕方が無いか。お世話になっているしな。

 アオイが調子に乗っているので、かなり長い第一章を飛ばして『第二章 失われた便利魔法』という内容へ。


「こ、この章に書かれているのは、先程の大賢者が使っていた具現化魔法についてですね」


――ブハァッ!


「ヘ、ヘンリーさん? 御気分が優れないのであれば、医務室へ行かれますか?」

「いや、大丈夫。本当に、気にしないでください」


 もう説明を読むまでも無いけれど、具現化魔法は俺がめちゃくちゃ多用している魔法だ。

 一応、さらっと説明を読んでみたが、『術者の周囲から特定の元素を抽出し、想い描いた形に変形、定着化させる高等魔法。前提として、元素魔法を使いこなす必要があるため、使える術者が非常に限られていた』と。

 まぁ確かに具現化魔法は便利だよ。

 何も無い所から武器を作りだしたり、小屋やお風呂を作りだしたりね。

 具現化魔法については十分知っているので、次の章『第三章 失われた究極魔法』へと飛ばす。

 失われた究極魔法か。何だか知らないけれど、凄そうだなと思っていると、


「つ、次の章に書かれているのは、全ての魔術士の憧れである時空魔法についてです」


――ゴファッ!


「ど、どうされたんですか!?」

「い、いや、時空魔法って、憧れなんですか!?」

「え? えぇ。そうですね。遠くの場所へ瞬間移動したり、荷物を空間の狭間から自由に取り出したり、時間を巻き戻したり……魔術士の魔法に対する永遠のテーマの一つではないかと」


 シャロンさんが遥か遠い憧れを語るかのように、遠くを見つめながら時空魔法について説明してくれるのだが、永遠のテーマの一つは言い過ぎではないだろうか。


『いやいや、そんな事は無いですよー? 私のような素晴らしい大賢者を目指して研究する……普通の魔術士には到達出来ない頂点の一つ、それが私なのですから』


 うん。アオイの言っている意味が分からない。

 調子に乗って、自分に酔っている感じだな。

 ……ぶっちゃけ痛いよ。


『ちょ、誰が痛いですって? 私は痛く無いですっ! ほら、ヘンリーさんも読み飛ばさないで、ちゃんとロスト・マジックの勉強をしてくださいよ』


 ユーリヤには悪いけど、この本は完全にハズレだったな。

 他の資料を探すか。


『ハズレって何ですか? ハズレって!』

(いや、だってロスト・マジックって書かれているけど、アオイが使えるんだろ? だったら、それで良いじゃないか。別に改めて知らなくても)

『ま、まぁ確かに』

(という訳で、次だ、次)


 一応、他の章にも目を通してみたけれど、無詠唱魔法の話だとか、番外編として竜言語魔法の事が書かれて居た。

 そもそも竜言語魔法は人間に使う事が出来ないので、ロスト・マジックとは位置づけが異なるが。


(というかさ。もしかしてこの本……アオイが自分で自分の事を書いたのか?)

『私はそこまで痛くありませんよっ!』


 俺はアオイの自署伝疑惑の本をそっと棚に戻し、別の資料を漁る事にした。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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