ユーリヤに呼ばれて行ってみると、随分と古い、だけど重厚な存在感を示す本があった。
「にーに。これ、なにかある」
「そうだな。如何にもって感じの本だな」
何の本かは分からないけれど、ユーリヤが何かを感じ取った本だ。
きっと役に立つ事が書かれているのではないだろうか。
「それは……失われた魔法――ロスト・マジックについて研究した宮廷魔術士が書いた本ですね」
「シャロンさん。まさか、ここにある本の内容を覚えているんですか?」
「い、いえ。流石にそこまでは無理ですよ。ですが、ある程度は把握していて、偶然その魔導書が把握していた中に含まれて居ただけです」
失われた魔法か。
いつもアオイのお世話になっている身だけれど、せっかくだから勉強しておこうか。
『そうですね。私もロスト・マジックというのが、どのような魔法か知っておきたいですし。要は、現代の魔術士では使えない程の凄い魔法だって事ですよね?』
(そうなるな。まぁとにかく見てみよう)
アオイも俺を通して読めるみたいだし、早速魔導書を捲っていく。
最初は著者の自己紹介というか、自慢みたいな話なのでさっさと飛ばして『第一章 失われた攻撃魔法』という内容へ。
どうやら昔はこんな魔法があって、凄かったんだーという事が載っているだけらしく、使い方までは掲載されていないようだ。
……失われた魔法と書かれて居るのだから、当然と言えば当然なのだが。
「えっと、この章に書かれているのは、魔王討伐に参加した大賢者が生み出したと言われる、元素魔法についてですね」
――ブハッ!
「……ヘンリーさん? ど、どうかされたんですか?」
「い、いえ。何でも無いです。気にしないでください」
シャロンさんが示すページに目をやると、『精霊を介さずに直接火や風といった元素を攻撃に用いる魔法。精霊を呼び出す手間が省けるが、自らの魔力で直接元素を制御するため、精緻な魔力制御を要し、並の魔術士では発動させるのは困難』とかって書かれていた。
『あらあらー。今の時代では、あれしきの魔法を使えないんですか? 残念ですねー』
……アオイが調子に乗っていて若干うざい。
まぁでも、事実っぽいので仕方が無いか。お世話になっているしな。
アオイが調子に乗っているので、かなり長い第一章を飛ばして『第二章 失われた便利魔法』という内容へ。
「こ、この章に書かれているのは、先程の大賢者が使っていた具現化魔法についてですね」
――ブハァッ!
「ヘ、ヘンリーさん? 御気分が優れないのであれば、医務室へ行かれますか?」
「いや、大丈夫。本当に、気にしないでください」
もう説明を読むまでも無いけれど、具現化魔法は俺がめちゃくちゃ多用している魔法だ。
一応、さらっと説明を読んでみたが、『術者の周囲から特定の元素を抽出し、想い描いた形に変形、定着化させる高等魔法。前提として、元素魔法を使いこなす必要があるため、使える術者が非常に限られていた』と。
まぁ確かに具現化魔法は便利だよ。
何も無い所から武器を作りだしたり、小屋やお風呂を作りだしたりね。
具現化魔法については十分知っているので、次の章『第三章 失われた究極魔法』へと飛ばす。
失われた究極魔法か。何だか知らないけれど、凄そうだなと思っていると、
「つ、次の章に書かれているのは、全ての魔術士の憧れである時空魔法についてです」
――ゴファッ!
「ど、どうされたんですか!?」
「い、いや、時空魔法って、憧れなんですか!?」
「え? えぇ。そうですね。遠くの場所へ瞬間移動したり、荷物を空間の狭間から自由に取り出したり、時間を巻き戻したり……魔術士の魔法に対する永遠のテーマの一つではないかと」
シャロンさんが遥か遠い憧れを語るかのように、遠くを見つめながら時空魔法について説明してくれるのだが、永遠のテーマの一つは言い過ぎではないだろうか。
『いやいや、そんな事は無いですよー? 私のような素晴らしい大賢者を目指して研究する……普通の魔術士には到達出来ない頂点の一つ、それが私なのですから』
うん。アオイの言っている意味が分からない。
調子に乗って、自分に酔っている感じだな。
……ぶっちゃけ痛いよ。
『ちょ、誰が痛いですって? 私は痛く無いですっ! ほら、ヘンリーさんも読み飛ばさないで、ちゃんとロスト・マジックの勉強をしてくださいよ』
ユーリヤには悪いけど、この本は完全にハズレだったな。
他の資料を探すか。
『ハズレって何ですか? ハズレって!』
(いや、だってロスト・マジックって書かれているけど、アオイが使えるんだろ? だったら、それで良いじゃないか。別に改めて知らなくても)
『ま、まぁ確かに』
(という訳で、次だ、次)
一応、他の章にも目を通してみたけれど、無詠唱魔法の話だとか、番外編として竜言語魔法の事が書かれて居た。
そもそも竜言語魔法は人間に使う事が出来ないので、ロスト・マジックとは位置づけが異なるが。
(というかさ。もしかしてこの本……アオイが自分で自分の事を書いたのか?)
『私はそこまで痛くありませんよっ!』
俺はアオイの自署伝疑惑の本をそっと棚に戻し、別の資料を漁る事にした。
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