男泣きしているライマーさんに見送られ、一先ず見えない場所までドワーフのダンジョンを暫く進む。
ここまで来れば声も聞こえないだろうという所まで来ると、小脇に抱えていたラウラを地面に降ろす。
「で、ラウラ。どうして、あんな手紙を書いたんだ?」
「……ん? ただの事実。ラウラちゃんは、一生兄たんに養ってもらう」
「お前なぁ……はぁ。今更仕方が無い。さっさと火酒とやらを手に入れて、試練を終わらせよう」
「……兄たんはラウラちゃんと早く結婚したい?」
「早くドワーフに鍛冶を依頼したいからだよっ! この試練のせいで、剣を作ってもらえるような状況じゃなくなっただろ」
実年齢は俺より年上でも、見た目がユーリヤと大差ないラウラに怒る事が出来ず、一先ず試練をクリアする方向に舵を切る事にした。
「で、ラウラ。火酒っていうのは、どこで手に入るんだ?」
「……知らない。ラウラちゃん、お酒飲まないもん」
「じゃあ、どんな酒なんだ?」
「……知らない。パパは、ラウラちゃんの前で、あんまりお酒を飲まない」
「あー、土の神の司祭だって言っていたもんな。神に仕える者って、酒を飲んだりしないイメージがあるよな」
とりあえず、ラウラが何の役にも立たない事を再確認した所で、
「そ、それよりも、ヘンリー様。大変です。私たち、正式にヘンリー様の妻になっちゃいましたよっ!」
「いや、それはこの試練をクリアする為だけの話だろ?」
「そうじゃないんです。さっき、あの人が土の神の司祭って言っていたじゃないですか。という事は、少なくとも土の神――地母神を信仰する国では、私たちは夫婦という事になるんです」
「……どういう事だ?」
「そのままの意味ですよ! あの司祭の方は本物でしょうし、地母神の教会では、先程の情報が共有されるはずです」
……マジか。
ここに居るラウラとユーリヤを除く、全員が正式に俺の妻……つまり、ニーナのおっぱいに顔を埋めても問題無し!
「ぎゃ、逆に言うと、ボクたちは地母神を信仰しない国では、隊長さんと夫婦じゃないんだよね?」
「でも、地母神を信仰する国では、私はヘンリー隊長の妻……なのです」
「じ、自分は、地母神の国とか関係無しに師匠の、つ、妻でも……な、何でも無いッス」
突然の事で皆が混乱しているし、火酒の事も分からないし、一先ず落ち着いて話が出来るように場所を変えるか。
「ワープ・ドア……皆、とりあえずここから出るから、入ってくれ」
一先ず全員をワープ・ドアへ通し、マックート村の屋敷へと移動する。
「ヘンリー殿? 今の魔法は何だ? 先程の扉は、ドワーフの作った地上へ出る為のマジックアイテムでは無かったのか?」
「あの、師匠。ここは一体どこッス?」
「ヘンリー様。皆さんをお屋敷にお連れしても宜しかったのですか?」
……あ、やっちまったぁぁぁっ!
瞬間移動の魔法は、全員に教えてなかったんだった!
「あ、御主人様。おかえりなさい。数日振りですかね。前にお風呂へ一緒に入った時以来の御帰宅でしょうか」
マズい事は重なるもので、庭で働いていたワンダがニコニコと声を掛けてくる。
「一緒にお風呂? ヘンリー殿。我にだけではなく、そちらの女性にまで……いや、だがここに居る者は皆、ヘンリー殿の妻だし……」
「ヘンリー様。どうしてワンダさんとは一緒に入浴されているのに、私とは入ってくださらないのでしょうか?」
「ヘンリー隊長。この方はどなたなのです? 随分と親しい仲に見えるのです」
ヴィクトリーヌとクレア、プリシラが何か言いたげに俺を見つめてくるが、ワンダはドライアドで裸を見せる事に抵抗が無い……って、ドライアドだって事を勝手に言えないよな。
というか、三人とも瞬間移動の魔法よりも、こっちの方が食いついてないか?
実は瞬間移動って、大した事無い……いやいや、そんな訳ないよな?
「あれー? やっぱり! ヘンリーの魔力を感じたから来てみたけどー、やっぱり帰って来てたんだー。おっかえりー!」
「あ、あぁ、イロナか。ただいま」
「ん? また随分と女の子が増えて……って、もしかしてこの子は、ドワーフ? これはまた珍しい女の子を連れてるねー」
「珍しいって?」
「だってドワーフは、一生を土の中で過ごす事さえある種族なんだよー? どうやって連れて来たのか教えて欲しいくらいだしー。ただ、荷物みたいに運ばれているのは良く分かんないけどー」
そう言って、イロナが俺に抱えられているラウラを興味深そうにしげしげと見つめている。
「で、伝説のダークエルフが、どうしてヘンリー殿と親しげに話しているのだ!?」
「伝説……って、そうか。ヴァロン王国にはエルフが住んでないのか」
「師匠。その言い方だと、ブライタニア王国にエルフが住んでいるみたいッス」
いや、ドロシーが知らないだけでエルフは近所に住んでいる……って、知る訳ないか。
だがそんな事よりも、イロナのおかげでワンダと一緒にお風呂へ入った話が有耶無耶になった!
今がチャンスだっ!
「わかった! 全てを話そう。だが、これは他言無用だ。特定条件下のみとはいえ、皆は俺の妻という事になっているし、そこは分かってくれ!」
「え? 妻!? 御主人様、御結婚されたのですか? おめでとうございます」
「ワンダ。ちゃんと説明するから、全員を集めてくれ。いろいろあり過ぎたんだ」
一先ず皆で屋敷に入り、全員で情報を共有する事にした。
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