「アタランテ、ヴィクトリーヌ! こいつらは人間じゃない! 魔族だ! 見た目は弱そうだが、油断するな!」
「了解だよっ!」
「魔族っ!? まさか、こんなに沢山!?」
今まで魔族と戦ってきた事を知っているアタランテは、すんなりと俺の言葉を受け入れ、一方で魔族を見た事がないであろうヴィクトリーヌは、一瞬戸惑う。
その差が出たのか、路地の反対側のヴィクトリーヌがモヒカンからの攻撃を受けてしまったらしい。
「クッ……このっ!」
ヴィクトリーヌが長剣で斬り込むが、モヒカンが左腕一本でその剣を受け止める。
「何っ!? バカなっ!」
マズい。俺の元にも二体目、三体目と新たなモヒカンが迫っており、ヴィクトリーヌのフォローが出来ない。
仕方が無いので、無詠唱で攻撃魔法を放とうとした所で、ヴィクトリーヌの剣を掴んでいたモヒカンの顔に矢が刺さり、大きく後ろへ仰け反る。
「怪我をしたなら下がって! 私が凌ぐ!」
「アタランテ!? 貴女は弓が武器であろう! 前衛など無謀では……」
「無謀? そんな訳ないでしょ!」
アタランテが矢筒から四本の矢を取り出し、迫っていた二体のモヒカンを同時に打ち抜いた。
一先ずアタランテが凌いでくれそうなので、俺は目の前に居る二体のモヒカンを吹き飛ばしつつ、
「ヒール」
こっそりヴィクトリーヌの傷を癒す。
とにかく、挟み打ちという状況が厳しいので、こちら側のモヒカンをさっさと片付けたいのだが、
「……って、どれだけ居るんだよっ!」
モヒカンを吹き飛ばしながら前進していくが、路地にモヒカンがどんどん溢れて来る。
これは、こっち側だけで十体……いや、二十体以上居るんじゃないか!?
……待てよ。挟み打ちならば、一方にだけ戦力が多いはずもなく、同程度のモヒカンが居るはず。
「マテリアライズ!」
アタランテの武器は弓矢なので、ヴィクトリーヌの言う通り、接近戦――特に、こうした乱戦には不向きと判断し、具現化魔法で石の壁を作り出す。
これで、アタランテとヴィクトリーヌ側の敵を塞いだので、後は俺がモヒカンを倒すだけだと思ったのだが、大きな音と共に石の壁が砕かれた。
くそっ! 普通の魔物や人間相手なら十分だが、魔族の進行を食い止めるまでにはいかなかったか。
街中……しかも、狭い路地なので、ある程度強力な魔法を使えば周囲の家まで壊してしまう。
家を壊してでも魔法を放つか、テレポートで撤退するか。
目の前のモヒカンたちを吹き飛ばしながら考えていると、
「ピットフォール」
聞いた事のない言葉と共に、突然アタランテ側のモヒカンたちの姿がごそっと消える。
残った数体のモヒカンは、
「狼牙疾風拳」
狼耳を生やしたヴィクトリーヌが、一秒間に五連撃くらいしていそうな拳を繰り出し、アタランテが弓矢で止めを刺す。
なるほど。流れるような身体捌きを見る限り、ヴィクトリーヌの剣は騎士としての体裁を保つための物で、本来の戦い方は獣人族の身体能力を活かした体術が主体のようだ。
「しかし、あのモヒカンたちが一気に消えたのは……」
「……ラウラちゃん、またもや貢献。これは、一生養って貰えるくらいの活躍」
「それはさて置き、どういう魔法なんだ?」
「……凄く深い落し穴」
なるほど。ドワーフが得意とする土の精霊魔法か。
気にしていたアタランテ側の敵が殆ど消えたので、あとはこっちだけだな。
背後を気にせず戦えるので、わらわらと湧くモヒカンたちを全て斬り捨て、路地から脱出する。
「残るはアイツだけだっ!」
通りの真ん中に立つ男を睨み、一気に駆け寄ろうとしたところで、その男が何かを呟く。
「……」
距離があるので何と言ったのかは聞こえなかったが、何かしらの魔法を使ったのは分かった。
俺が吹き飛ばし、斬り捨てたモヒカン達が全員生き返ったからな。
(アオイ! 魔族は、死んだ仲間を生き返らせる事が出来るのか!?)
『そ、そんなハズはありません! 怪我や病気を治すのとは違い、失われた生命を蘇らせる事なんて、出来るはずがありません』
(……でも、こう言っちゃあ悪いが、アオイやアタランテも……)
『そ、それですっ! それですよヘンリーさんっ! あの死体が残らない事と、先程感じた治癒とは違う、修復する系統の魔力……このモヒカン達は、おそらくホムンクルスです!』
(つまり、あの向こうに居る男は、錬金魔法や召喚魔法なんかを使うって事か!)
周囲に湧くモヒカン達を再び吹き飛ばしつつ、アオイと話をする。
(アオイ! こいつらはラウラがやったみたいに、地中に埋めるのが正解だ! 広い通りに出た訳だし、そういう系統の魔法を頼む!)
『わかりましたっ!』
アオイが集中している間、俺はモヒカン達を散らし続け、
「アースクエイクッ!」
言われた通りの言葉を口にしたのだが……ちょ、ちょっとアオイ。これ、街中で使うには強力過ぎないか!?
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