ソフィアを家まで送った後、再び屋敷に戻り、ユーリヤと遊んでくれていたジェーンの元へ。
二人を連れて、早速冒険者ギルドの建物へと移動したのだが、相変わらず誰も居ない。
「にーに、おしていいー? おしちゃうよー?」
前回訪れた時と同様に、テーブルの上に置かれた呼び出しボタンをユーリヤが押すと、
「すみません、お待たせしちゃいましたー。冒険者ギルド、マックート村支部のナタリーと申しま……えぇぇー」
奥から出てきたナタリーが、俺の顔を見た途端にあからさまに落胆し、ピンと立っていた兎耳がヘナヘナと半ばで折れる。
いや、まぁ理由も分かるし、俺が悪いんだけどさ。
「……あの、何の御用でしょうか?」
「今回はちょっと頼みがあって……って、どうして腕で胸を隠しながら後ずさるんだ?」
「だ、だって……前に来られた際、飛んでも無い事をされましたし」
「だ、大丈夫だって。前回は本当に申し訳ない勘違いをしてしまったけど、今回は大丈夫だから」
前に来た時の乳絞り事件のせいで、物凄く警戒されてしまっている。
なので、ちゃんと身分を明らかにして対応しようと思ったのだが、
「あの、今回は大丈夫とは? 私から三十歩以内に近づかないとかですか?」
「いや、それだと会話も出来ないだろ。というか、この建物内に居られなくなるんだが」
話をする前に冷たいジト目が向けられてしまう。
兎耳美少女の冷たいジト目……悪くはないが、どうせならもっとフレンドリーになりたい。
すると、空気の読める聖女ジェーンが、俺のフォローをすべく口を開く。
「ナタリーさん、ご安心を。あの時に助言いただいた通り、あれ以来、毎晩主様が満足するまで胸を触らせております。ですから、どうか話だけでも聞いてください」
「そ、そうなんですか。た、大変ですね」
「いえ、私は主様にお仕えする身。この身体は全て主様の物ですので、私は主様から何をされても嬉しいのです」
「わ、分かりました。奥様がそこまで仰られるのであれば、お話は伺います」
――ぶふぉぁっ
ちょ、ちょっと待って。
ジェーンのおかげで、確かにナタリーが話を聞いてくれるようにはなったものの、俺を見る目がますます冷たくなっている気がするんだけど。
それ、人に向ける目じゃないよね? まるで生ゴミを見るかのような目なんだけど。
というか、確かにここ最近はジェーンのおかげで、寝る時に素敵な夢心地だけど、俺から命令した訳じゃないからね!? ジェーンが自主的にしてくれているんだからね!?
……まぁ俺もそれを断らないし、心地良過ぎて断れないけどさ。
とりあえずジェーンには、ここ以外で夜の事を人に話さないように言っておかないと。
「で、当ギルドへ何の御用でしょうか」
「あぁ。ちょっと調べたい事があって、この村の人口とかを纏めた資料が冒険者ギルドに無いかと思ってさ」
「この村の人口……ですか? そんなのを調べて、一体どうするんですか?」
「いや、この村を発展させるために、ある施策を行おうと検討しているんだけど、その施策がどれくらい有効かどうかを検討するために、村の人口や年齢、性別なんかの情報が欲しくてさ」
「ちょ、ちょっと待ってください。村を発展させるための施策? 一体、何を言っているんですか?」
「いや、何を……って、今言った通りの話だけど」
まだ具体的な話は出来ないし、これ以上説明出来ないんだけど、どうすれば良いのだろうか。
「主様。まだナタリーさんに、ご自身のお話をされていないのがマズイのではないでしょうか」
「あー、そっか。前に来た時は色々あり過ぎて、自己紹介出来なかったんだよな」
ジェーンの指摘通り、俺は名前どころか、領主である事すらナタリーに言っていない。
そんな奴が、いきなり村の施策だとか言っても、何を言っているんだ? となるのも当然か。
「改めて自己紹介をさせてもらうと、俺はヘンリー=フォーサイス。数日前から、このマックート村の新たな領主となったんだ。よろしく頼む」
「……はい? えっと、貴方がこの村の領主!? でも、私とたいして年齢が変わりませんよね? ……あれ? でもヘンリー=フォーサイスって、どこかで聞いた事があるような……」
「たぶん、魔法学校に現れた魔族を倒したって話じゃないか? もしくは、第三王女であるフローレンス様直属の特別隊隊長だとか」
「そうですね。ヘンリー=フォーサイスは魔族を倒して王女様を救った英雄であるものの、女性と見れば誰でも凌辱し、弱みを握って非道の限りを尽くした上に口止めまでするという話でしたが……なるほど、確かに」
「ちょっと待った! なるほど、確かに……じゃないって! その話って、あれだろ? 教会が言ってた奴だろ!」
ナタリーが言った話は、少し前に教会が俺の実力を見るとか言って、来ていた教会側の男が言っていた俺の噂だ。
あの時は、ジェーンに代役として頑張ってもらって、噂が噂でしか無かったという結論に至ったというのに。
教会め……負けた腹いせに、冒険者ギルドに嘘の噂を流したのか!?
「あの、冒険者ギルドは教会とは関わりの無い組織なので、教会の話は知らないです。そうではなくて、ヘンリー=フォーサイスという方が魔族殺しで有名になった時、王都の冒険者ギルドが冒険者や街の人々から聞いた噂ですけど」
『つまりヘンリーさんは、王都中で先程の評価だって事ですね』
(なんでだよっ! どうして俺がそんな評価なんだっ!)
『身から出た錆びではないかと』
何故かは分からないが、話せば話す程、俺を見るナタリーの目が冷たくなってしまった。
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