訓練室からエリーの部屋へと移動し、じっくり裸体を堪能させてもらおうと思ったのだが、どこからともなく咳をする音が聞こえる。
「……って、エリーのお母さんかっ! エリー何か服を……あと、出来ればエリザベスさんにも何か服を渡してあげて欲しい」
流石に半裸のエリーと部屋に居る所をお母さんに見せてしまったら、体調が更に悪くなりそ……いや、あのお母さんなら、体調が良くなるのか?
真偽の程は分からないけれど、いずれにせよ常識的に裸はマズイだろう。
あと、そのエリーのすぐ傍に全裸の大人な女性が居るのも。
パジャマから普段着に着替えるエリーと、服を借りたエリザベスさんの肌をチラチラと眺めつつ、扉のすぐ傍でお母さんの気配を探っていたのだが、部屋に入ってくる様子は無い。
どうやら、お母さんの寝室で咳をしているだけのようだ。
「エリー。お母さんの容体はどうなんだ?」
「えっと、イロナちゃんに貰ったお香のおかげか、顔色も悪くないよ。後は、体力が回復すれば良いんだけどねー」
「なるほど。じゃあ、ちょっと待っててくれ。そのイロナを呼んでくるから」
そう言って、一人でテレポートを使って屋敷へ戻ると、イロナとマーガレットを呼び、ワープ・ドアを使おうとした所でユーリヤに見つかってしまった。
ユーリヤが寂しいと言って離してくれないので、結局三人を連れてエリーの部屋へ。
「あ、あの。その女性たちやお子さんは、一体どうやって……というか、貴方――ヘンリーさんも消えたように見えたのですが」
「あー、ここに居るメンバーは知っているけど、俺は瞬間移動の魔法が使えるんだよ。あんまり言わないようにね」
「畏まりました。しかし、時空を渡る魔法とは……凄いですね。かつて私が居た王宮でも宮廷魔術師たちが研究をしておりましたが、実現には及ばなかったのですが……」
『ふふふ、そうでしょう。そうでしょう。流石は一国の王女だけありますね。私の、時空魔法の偉大さが分かっているなんて』
(はいはい、凄い凄い)
こういうアオイを褒める様な発言をしちゃうと、調子に乗るんだよなー。
「にーに。このひと、だれー?」
「お兄さん……また女性が増えているんだけど。しかも、何だか凄く気品のある大人の女性だよねー」
「これは……イロナちゃんはー、将来的にはー、こういう落ち着いた雰囲気でー、ヘンリーを掌で転がすような女になりたいんだよねー。勉強しよーっと」
いや、俺はエリザベスに掌で転がされてないからな!?
まぁ裸を好きなだけ見て良いって言われて、心を鷲掴みに……俺は決して転がされてない! 転がされていないんだーっ!
ただ、目は間違いなく奪われたけどね。もう、ある一点を凝視したよ、本当に。
「あー! イロナちゃんだーっ! この前は、ホントにありがとーっ! エリーのお母さん、随分と良くなったんだよーっ!」
「ちょ、ちょっと待ってー! 抱きつかなくて良いからーっ! イロナちゃんはノーマルなんだからーっ!」
「えぇー? 何の事かわからないけどー、とにかくエリーは嬉しいんだよー!」
エリーがイロナに抱きく尊い光景を見ながら、エリザベスが召喚魔法で呼んだ元王女だという紹介を済ませ、
「で、本題なんだが、イロナとマーガレットに来て貰ったのは、エリーのお母さんを診て欲しくてさ」
「イロナちゃんのお香をちゃんと使っていればー、もう毒は抜けていると思うよー」
「まぁ先ずは実際に診てもらおう。エリー、お母さんの部屋へ案内してくれ」
皆で別の部屋の前へと移動する。
先にエリーだけ入ってもらい、事情を説明した所で俺たちも中へ。
「あら、ヘンリー君。お久しぶり。ごめんなさいね、こんな格好で。ちょっと体調を崩してしまっていて」
「お久しぶりです。いきなりで申し訳ないのですが、薬と神聖魔法のエキスパートを連れてきました。ちょっと診せてもらいますね」
以前会った時よりも、かなり弱々しいエリーのお母さんを前に、先ずはイロナに診てもらう。
「うん。ちゃんと薬が効いているから、毒はもう完全に抜けているよー。大丈夫ー」
「え? 今、私の身体を診て毒って……」
「気のせいです。次はマーガレット、頼む」
空気を読んで、普段のはっちゃけた感じを一切出さないマーガレットがお母さんに何かの神聖魔法を使い、
「そうですね。イロナさんの言う通り、身体に悪い所はなさそうですね。呪いとかの類もありません」
「え? 呪い? それって、どういう……」
「なので、あとは単純に体力の回復ですね。怪我は神聖魔法で治癒出来ますが、体力が衰えている事に関しては、魔法ですぐさま解決という訳にはいかないので」
エリーのお母さんに問題が無い事を診てくれた。
しかし、体力か。若ければ、寝て起きたら回復してそうなものだけど、エリーのお母さんはおそらく三十代だし、研究職で元々体力も無さそうだし、完全回復には時間がかかりそうだ。
暫くエリーは元の学校生活へ戻れないのかと思っていると、
「そういう事でしたら、少し私がお力添えいたしましょう」
エリザベスが声を上げた。
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