「ここが最高の火酒の生産地らしい」
「余り栄えた街ではないんだね」
レーヴェリーの街にはマーガレットと訪れているが、その時は魔物を憑依された人たちを治す事を優先していて、火酒については未だ情報収集出来ていない。
なので、アタランテとヴィクトリーヌ、ラウラとユーリヤの五人で街の人に話を聞き、小さな酒蔵を教えてもらった。
「ここ……だよな?」
「えぇ。街の人たちが言うには、ここね」
最高の火酒を作って売っているにしては、少し小さ過ぎるような気もするが……まぁとにかく入ってみるか。
「いらっしゃいませー!」
酒蔵に隣接している酒屋に入ると、可愛らしい女の子が出迎えてくれる。
……俺と同じくらいの年齢に見えるんだが、やっぱり店を間違えているのか!?
若干不安になりつつも、とりあえず聞いてみると、
「火酒ですか? 殆どを帝国軍に持っていかれてしまいまして……今あるのは、これだけなんですけど」
あった。
封のされた大きな瓶が二十ほど。
いや、店員さんが火酒だと言っているだけで、中身が本物かどうか、本物だとしても旨いのかどうかが俺には分からないが。
「すまない。試飲させてもらっても良いか?」
「はい、大丈夫ですよ。どうぞ」
随分と小さなコップに、透明の液体が注がれる。
これが火酒?
特に匂いも無さそうだし、普通の水にも見える。
「じゃあ、先ずはアタランテ……頼む」
「ま、任せて。私は、お……お酒の味くらい分かるんだから」
アタランテが、そう言いながらジッと火酒を見つめ、固まった。
もしかして、アタランテはやっぱり酒を飲んだ事が無いんじゃないのか?
一旦アタランテを止めようとした所で、火酒を一口で飲み干す。
「アタランテ……今ので味なんて分かるのか?」
「……貴方。これぇぇぇ……」
「えっ!? アタランテっ!? アタランテーっ!?」
アタランテが目を回して倒れてしまった。
「あの……火酒は一気に飲むような物では無いんですけど。まぁ、試飲用のグラスで、普通のグラスよりも更に小さいので大丈夫とは思いますが」
「そ、そうなのか」
店員さん……出来れば、もう少し早く言って欲しかったんだが。
一先ず、倒れたアタランテを抱きかかえた所で、
「ふっ……ただ酒を飲んだだけで目を回すなんて、まだまだだな」
「ヴィクトリーヌ! いけるのか!?」
「当然だ。我はもっとシュワシュワして、刺激のある物を、いつもビン一本飲んでいるからな。こんな小さなグラス程度、余裕だ」
ヴィクトリーヌが試飲用のグラスに手を伸ばす。
その言葉に店員さんが反応し、
「いいですね。スパーリング系を飲まれているのですか?」
「スパーリング? いや、そんな名前では無かったな。確か……レモネードって名前だったか? まぁそれはさて置き、いただこう」
「えっ!? お姉さん!? レモネードはお酒じゃなくて、ただのジュース……あ! あぁー……お客さん。この二人をちゃんと連れ帰ってくださいね?」
そのまま視線が床に向けられる。
いや、アタランテは怪しいと思っていたけど、ヴィクトリーヌもかよっ!
連れて帰るのは大丈夫だけど、火酒の味見って、どうすれば良いんだ!?
「……仕方ない。ラウラちゃんが飲む」
「お嬢ちゃん、ごめんなさいね。これはお酒だから、お子様には飲ませられないのよ」
「……待って。ラウラちゃんはこう見えて成人。お酒も飲めない事はない」
「あの、お兄さんですかね? 妹さんを止めていただけませんか?」
「……違う。ラウラちゃんは、兄たんの未来の妻。子供じゃないし、なんなら夜に……」
あ、危ねぇっ!
ラウラは何を言うつもりだったんだよ!
俺の手の中でモゴモゴ言っているラウラに視線を合わせ、優しく諭す。
「ラウラ。店員さんが困っているじゃないか。無理を言っちゃダメだぞ」
ジト目のラウラが何か言いたそうなので、口を覆っていた手を離すと、
「……無理じゃない。ラウラちゃんは大人の女。お酒も飲めるし、子供も作れる」
く、空気を読まずに言いやがった。
「へ、へー。お、奥様なんですねー」
ほら、店員さんがドン引きしてるじゃないかっ!
どうすんだよ、この空気。
「と、とりあえず、その大きな瓶をあるだけ買おう」
「えっ!? これを全部ですかっ!?」
驚く店員さんを他所に、こっそり瞬間移動で目を回してしまった二人を屋敷へ。
マーガレットを呼んで治癒を頼み、再び酒屋へ戻る。
「ところで、この大瓶はどこへ配達すれば良いですか?」
「いや、大丈夫だ。そのまま持ち帰る」
「はい?」
「あ、いや……そうだな。この店の外までは運んでくれ」
「は……はぁ」
会計を済ませ、沢山の大きな瓶を店外まで運んでもらうと、空間収納を使い、そのままドワーフたちの元へと直行した。
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