「こっちだよー!」
幼女マーメイドのネレーアの案内で、再び海の中へ。
俺とクレアはマジックアイテムの効果で姿が消えており、カティもラウラで俺たちの位置を把握しているらしいのだが、何故かネレーアは俺たちの姿が見えているそうだ。
マーメイドは地上に出ると弱体化する分、水中だと強化されるのだろうか。
それに、カティは水中呼吸の魔法を使っているから、水中で喋れるのも何となく分かるが、ネレーアが水中で声を出せるのは、一体どういう仕組みなのだろう。
『生命の神秘じゃないですかね?』
(つまり、考えたら負けって事か)
『身も蓋も無いですが、そういう事ですね。神のみぞ知るという奴ですよ』
水中でアオイと雑談しながら、クレアとラウラを連れ、カティと共にネレーアへついて行くと、
「ほら、居たよー。あのリヴァイアサン・フィッシュが、この辺りの海では一番大きなお魚だよー」
物凄く大きな魚が居た。
俺たちなんて軽く丸呑みに出来る……というか、そこそこ大きな船でさえ、飲み込まれるだろうというレベルの大きさだ。
海は広いとはよく言うが、こんなにも大きな魚が居るとは知らなかった。
(……って、こんなのどうやって倒すんだよっ! 流石に無理だろ!)
『ですねぇ。地上ならまだしも、海中では魔法も使えませんし、撤退をオススメします』
だよなぁ。
仮に倒したとして、こんな魚を持って帰る事なんて出来ないし、ドワーフ王国にも入らないっての。
チラッとカティに目をやると、お手上げといった様子で、肩をすくめている。
一先ずジェスチャーで撤退を伝えようとしたのだが、
「じゃあ、倒しちゃうねー! ワールプール!」
突然ネレーアが何かの魔法を使う。
何だ!? 水が……吸い込まれる!?
『ヘンリーさん! これ……マズいです! 魔力の流れからすると、巨大な渦巻を作る魔法だと思いますっ!』
(巨大な渦巻……って、この場所で!? いやいやいや、ダメだろ! 俺たちまで吸い込まれるだろっ!)
事前に身体強化魔法を掛けてあるので、海底に向かって拳を振り下ろし、大きな穴を開けるとその中へクレアを入れる。
一方でカティは、何かの魔法をつかったのか、立方体みたいな箱の中に居るので大丈夫そうだ。
穴を更に深くし、クレアが掴まれるような場所を作った所で、
『ヘンリーさん! ラウラちゃんが!』
脚からラウラの感触が消えている!?
マズい! あんな渦の中に吸い込まれたら大変な事になるし、クレアから離れると、呼吸も出来なくなってしまう!
くっ……そぉぉぉっ!
クレアを引っ掛かりに掴まれるようにした後、自ら穴を出て、吸い込まれるままに渦の中心へ。
『ヘンリーさん! あそこです!』
アオイの示す方向に、目を閉じたままのラウラを見つけ、気合で泳いで行き……届いた!
しっかりとラウラの身体を抱き締めるが、既に渦の中に居て、泳いで抜け出す事は不可能だ。
しかも、クレアから離れているからか、マジックアイテムから空気の提供が止まってしまった。
一刻も早くテレポートで空気のある場所へ行かなければ、俺もクレアも窒息死してしまう。
見れば、ラウラがかなり苦しそうだ。
言葉を発する事が出来れば、テレポートで二人とも助かる。
だが、空気のある場所でしか、言葉は発せない。
既にマジックアイテムから空気が出ていない以上、今空気がある場所は……あった。
一箇所だけあるが、しかしここは……
『ヘンリーさん! 迷っている暇はありませんよ! 死んでしまったら、流石の私でもどうする事も出来ませんっ!』
(やるしか無いか……)
覚悟を決め、改めてラウラを抱き締める。
そして、咥えていたマジックアイテムを口から外すと、空気のある場所へ口を捻じ込み、
「テレポート!」
瞬間移動の魔法を発動させた。
「……え!? お兄さん、いつ戻って来たんですか……って、その女の子は妹とかじゃなくて、恋人だったんですね」
先程のちっぱいマーメイドが目を丸くしているが、それ以上に、
「……兄たん。今の……いいよ。もっとして」
「違うっ! さっきのは非常事態だったからだ! 空気がある場所が……声を出せる場所が、ラウラの口の中しか無かったからなんだっ!」
「……意味がよく分からない。でも、兄たんがラウラちゃんにキスしたのは事実。さあ、もう一回」
ぐったりと横たわる俺の顔の上で、目をキラキラと輝かせるラウラが、物凄く喜んでいる。
だから、さっきのは非常事態だったからなんだっ!
……って、キスしてくるなっ! 舌を入れてくるなぁぁぁっ!
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