ソフィアが下着カタログをどこかへ仕舞に行き、
「……もう、ロティーったらっ!」
戻ってくるなり口を尖らせる。
「まぁまぁ。可愛い妹のイタズラだし、許してやれよ。シャーロットちゃんの事をロティーって愛称で呼ぶくらい、姉妹で仲が良いんだろ?」
「むー。まぁ仲は悪くはないと思うけどねー。ただ、ロティーはイタズラが過ぎるのよね」
「それだけお姉ちゃんに構って貰いたいって事だろ? 俺は一人っ子だったから、むしろ羨ましいけどな」
今はユーリヤのおかげで、かなり兄の気分を味わえているけれど、事実として俺は妹が欲しかったしね。
ただ、最近は兄というより父親気分に近い物があるけど。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「そうね。けど、屋敷の外までは普通に行くわよ」
「分かってるよ。言っておくけど、俺が瞬間移動出来る事を知っているのは、ほんの僅かな限られた人だけなんだからな」
「そうなの? ……でも、流石に王家の方々は知っているでしょ?」
「まさか。誰にも教えてないよ」
「え……じゃあ、アンタはウチにフローレンス様にも教えていない秘密を教えてくれたの!?」
「あぁ。だから、他人には言っちゃダメだからな? 俺とソフィアの秘密だぞ」
「うんっ! 絶対、他人に言わないわっ!」
何故だろう。瞬間移動を言いふらすなよって口止めしたら、ソフィアがパァッと笑顔になった。
これは……まさか、俺を脅すネタが出来たと喜んでいるって事か!?
しまった! いつも瞬間移動を無詠唱で行っているから、当然ソフィアも俺が無詠唱で魔法を使える事を知っている。
まずい。瞬間移動も大概だけど、無詠唱魔法は世間に絶対バレてはいけないというのに。
「どうしたの? ウチの顔をじっと見つめたりして」
考えろ……考えるんだ。
ソフィアに無詠唱魔法をバラされない為に、どうするべきか。
俺もソフィアの秘密を握るか?
だけどソフィアの秘密なんて、何がある?
俺が知っているのは、せいぜい白いパンツを履いている事が多いとか、胸が小さいとか、恋人の為に毎週ランジェリーショップに行っているとかしかない。
無詠唱魔法とランジェリーショップなんて、全然釣り合わないぞっ!
「ちょ、ちょっと。本当にどうしたのよ。そんなに見つめられたら、は……恥ずかしいじゃない」
恥ずかしい……そうだ! ソフィアに恥ずかしい事をして、それをバラされたくなければって脅すのはどうだ?
だけど、戦争を引き起こしかねない無詠唱魔法と同等の恥ずかしい事……あるか? そんな事。
ソフィアの胸を揉みしだいて、「お前の胸が全く揉み甲斐が無い事をバラされたくなければ、無詠唱魔法の事は喋るな……」無理だぁぁぁっ!
ソフィアの胸に揉み甲斐が無いなんて、そんなの触らなくても見ただけで分かる。
だったら、物的証拠を抑える作戦……今ここでソフィアのパンツを無理矢理脱がして、「お前のパンツを世間に晒されたくなければ……」って、これじゃあ俺が投獄されるだけだっ!
しかも、普段のソフィアはやたらとスカートが短いのに、こんな時に限って俺自らズボンに着替えさせてしまった。
やっぱり恥ずかしい路線は無しだ。
やはり、最後に残るのは力! 「痛い目に遭いたくなければ、無詠唱魔法の事は喋るな!」よし、これだなっ!
「ソフィア」
「な、何? そんな真剣な顔をして……」
ソフィアが俺から後ずさるようにして、一歩後ろへ下がったので、逃げられないようにと俺も一歩詰める。
ソフィアが俺の顔から目をそらさず、ジリジリと移動し、壁にぶつかった。
すかさず、ソフィアの顔の横へ右腕を伸ばし、ドンっと壁に手をつけ、逃げ場を無くす。
「ソフィア。もう逃がさないぞ」
「……あ、焦らないで」
「焦ってなんかいないよ。もうソフィアに逃げ場は無いんだからな」
「わ、わかったわ。だけど、アンタがこんな強引に……」
「……黙れよ」
よし、ごちゃごちゃ何か言おうとしていたソフィアが黙った。
後は、出来るだけ怖そうに威嚇してやれば……って、あれ? どうしてソフィアが怯えずに、何かを期待するかのような目で俺を見つめているんだ?
これだと怖さが足りないのか?
神聖魔法で身体強化を行って、壁の一つや二つ壊した方が良いのだろうか。
いや、待て待て。流石に貴族の家だ。後で弁償する時に、飛んでも無い額になってしまう。
というか、これから父さんに統治の話をしてもらうっていうのに、俺は何をしているんだ?
思考が暴走していたと気付き、冷静になった所で、
「ソフィアお姉様。随分と長く部屋に居られますが、ヘンリー様と何をぉぉぉっ!?」
「ロ、ロティー!? ち、違うのっ! これは違うんだからーっ!」
シャーロットちゃんの声が聞こえてきたかと思うと、俺と壁の間でじっとしていたソフィアが凄い早さで部屋を出て行ってしまった。
「あの、お義兄様。ごめんなさい。あと、ロティーが言うのもなんだけど、ソフィアお姉様を追いかけた方が良いんじゃないかな?」
「そ、そうだな。そうするよ。ユーリヤ、おいで」
「えっと……今度はゲストルームじゃなくて、ソフィアお姉様のお部屋でどうぞ」
シャーロットちゃんによく分からない事を言われながらも、全力疾走するソフィアをユーリヤを抱っこした状態で追いかけ……門の外でようやく追いつく事が出来た。
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