「ぐっ……」
コートニーの貧乳に目を向けている内に、目前に迫って居た男の攻撃を剣で受け流し、後ろへ跳びのく。
男が俺に詰め寄り、二度三度と剣を振るう。
はっきり言って、荒い。
太刀筋はめちゃくちゃで、軌道も読み易いので対処も出来る。
だがその一撃一撃が非常に重く、速い。
敏捷性という意味では大した事はないのだが、身体強化された腕力で振るわれる剣の一振りが、とにかく強すぎる。
剣を受け止める事が出来ないので、振るわれる剣先をずらし、体さばきで強烈な剣を何とか避け続け、
「……ここだっ!」
単調な攻撃の隙間をぬって、男の身体を横薙ぎに払う。
俺の剣が男の左腕を切り落とす……はずだったのだが、鈍い音と共に俺の剣が折れてしまい、バックステップで距離を取る。
「危ない、危ない。やはり剣はダメだな。ワシの剣も既に刃が欠けて、ただの棒だ」
そう言うと、男が手にしていた剣を捨て、
「どうだ、少年。男らしく、殴り合おうではないか」
両拳を胸の前で握り、独特の構えをとった。
身体強化した者同士での殴り合いか。
体術も出来なくはないが、俺にとってそれは非常手段であり、あくまでも俺は剣士だ。
わざわざ相手に――街を破壊するような奴に付き合う義理は無い。
だが騎士の剣ではダメだ。
身体強化された者同士の戦いなので、より強固な剣――具現化魔法で強度を増した剣を生成したいのだが、それには周囲の騎士たちが邪魔だ。
どうしたものかと考えていると、前方から見慣れた姿が走ってくる。
「主様っ!」
「お兄さんっ! これ……どういう状況なのっ!?」
大きく胸を揺らすジェーンと、それには劣るものの、上下に胸を揺らすマーガレットが男と距離を取って俺の傍に来た。
「少年。三人掛かりでも良いが、その二人は役に立つのか? まぁワシとしては、ここに居る全員が一斉に来ても良いのだが……一撃で終わってしまうからつまらんが」
「もちろんだ。だが、お前と戦うのは俺とこのジェーン、そしてユーリヤだ」
「えっ!? お兄さん、私は!? 私だけ除け者なのっ!?」
マーガレットが媚びるようにして俺の左腕に胸を押し付けてくるが、別に除け者にしようとした訳じゃない。
「マーガレット。こいつのせいで大勢怪我人が出ている。悪いが、そこに居るコートニーと共に怪我人の治療をしてくれ」
「あ、そういう事ね。了解っ!」
納得したのか、マーガレットが俺に密着させていた胸を離す。
そこは離さなくても良いのだが。
「コートニー! このマーガレットは神聖魔法が得意だ。周囲の騎士たちと協力して怪我人を探し、マーガレットと共に救助してくれ!」
「あ、貴方たちはどうされますの!?」
「俺たちか? もちろん、こいつを倒す。だから、ここに居る騎士全員で怪我人を探すんだっ!」
「ですが……」
「人命優先だっ! こいつは俺たちに任せろっ!」
人命優先という言葉が効いたのか、暫く戸惑っていた騎士たちも皆それぞれが散り、俺とユーリヤ、それとジェーンだけが男の前に残る。
さて、ここからが本番だ。
「少年、目が変わったな。アレか? もしかして、周囲の仲間を巻き添えにするから、本気で戦えなかったという奴なのか? ……愚かな」
「いや、違うぞ。周りに人が居て本気を出せなかったというのは正しいが、別に巻き添えにしてしまうからという理由じゃない。俺の保身のためさ」
「……? 良く分からんが、先程よりも楽しませてくれるって事で良いんだな? そっちの女も含めて」
「あぁ。それは保証するぜ。本気の俺とジェーンは強いぞ。あと……出来れば本気になって欲しくはないが、ユーリヤも」
具現化魔法で新たな剣を生み出すと、それとは別に小さめの、だが強度を非常に高くした盾を二つ生み出す。
「ジェーン。あいつは異様なパワーファイターだ。とにかく力が強い。攻撃を受けると吹き飛ばされるから、避けるか受け流すようにするんだ」
「了解いたしました」
ジェーンに盾を渡し、俺も左腕に盾を装着すると、ジェーンに身体強化魔法を掛ける。
「待たせたな」
「構わんさ。だが最初に言った通り、ワシは女子供にも容赦せんからな?」
「承知の上だ」
目の前の男は一応会話が出来るものの、魔物が女や子供を見逃してくれるかというと、そんな事は無い。
今回はそれと同じだ。街中で人の姿をした魔物が暴れているに過ぎない。
『……ん!? 人の姿をした魔物?』
(どうかしたのか?)
『いえ、少し引っ掛かっただけで……ちょっと時間をください』
アオイはアオイで、魔法が効かない奴を倒す為の方法を考えてくれているようだ。
だが、その答えを待つよりも、直接倒してしまえるのであれば、それが一番早い。
一瞬ジェーンと視線を合わせ、
「行くぞっ!」
俺は左から、ジェーンは右から男に向かって駆けだした。
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