「へぇ、よく気付きましたね。僕の隠蔽魔法を見破るなんて、そこの幼女はエルフか何かですか? 人間ごときの魔力では見破れるはずなんて無いのですが」
相変わらず俺の背中へくっついたままのユーリヤが指さす方向を見てみると、真っ黒のローブ……いや、マントに身を包んだ細身の男が立っていた。
「何者だっ!」
「教える義理はないね。けど、薄々気づいて居るんじゃないのかい? 特にそこの幼女ちゃんは」
黒マントの男は俺――ではなく、俺の肩に顔を乗せているユーリヤだけを見ていて、他の面々に一切興味がないといった感じだ。
おそらく、重度のロリコン野郎なのだろう。
『ヘンリーさんとは違うんですから、真面目にやってください』
(わかってるよ。冗談だ……って、誰がロリコン野郎だっ!)
『そのノリはもういいですから。ヘンリーさんも気付いているんでしょ。私が見破れない程の隠蔽魔法を使う男の正体を』
(あぁ。あの男から放たれる暗くて黒い気は、魔族だな。しかも、前に倒したオリバーとは比べ物にならない程、強い)
「にーに。あの、へんなおじちゃん……なにしてるの?」
「お、おじ……待って。僕は決してそんな歳ではない」
「そーなの? じゃあ、おじちゃんは、そこでなにしてるの?」
見た目は三十代半ばといった感じの男が地味にダメージを受けている。
けど、何故だろうか。
ちょっとだけ嬉しそうにしていないか?
「いいぞ、ユーリヤ。あの魔族にはっきり言ってやれ。オッサンだと」
「おい、お前! 誰がオッサンだ! そっちの幼女ちゃんからすれば、確かに僕はおじちゃんかもしれないが、それをお前に言われる筋合いはない!」
俺がオッサンというと真顔で怒り、ユーリヤがおじちゃんと言うと、微妙な表情を浮かべながらも、少し嬉しそうだ。
これって、もしかして……真性かっ!
「あんた、まさか……ガチのロリコンなのか!? 魔族のくせに」
「なっ!? ち、違うぞっ! 僕はムッチムチでボンキュッボンの女が好きなんだ!」
「魔族ってとこは否定しないのな」
「……まぁ、それは事実だからな。だが僕はロリコンでは無い。そして、オッサンでもないんだっ!」
「まぁロリコンの奴は、ロリコンだって言われると必死で否定するよな」
「だから違うって言っているだろっ!」
「ふーん……ユーリヤ。前に回っておいでー。抱っこしてあげよう」
ユーリヤが一旦俺の背中から降りて正面に回って来たので、抱きしめ立ち上がる。
「にーに! だっこだっこー!」
「だ、だから、何だと言うのだ。べ、別に羨ましくなんて……ない。羨ましくなんかないんだからなーっ!」
「あれ? おじちゃん、どこいくのー?」
「き、今日は帰るっ! いずれまた来るからなっ! 今度は、もっと強力な奴を連れて!」
男が顔を真っ赤にして宙に舞い、そのままどこかへ飛んで行った。
「良かった。あの魔族がロリコンで本当に良かった」
思わず安堵のため息を吐く。
はっきり言って、サムソンとの戦いで精神をすり減らした今の状態では、魔族と戦って勝てる気が到底しない。
何とか自ら帰るように戦意を削いだのだが、上手くいったようで本当に良かった。
『良かったです。ヘンリーさんがロリコンの方の気持ちが分かる人で』
(うぉい。だから俺は、巨乳好きでロリコンじゃないっての)
『ロリコンの人は、ロリコンだって言われると必死で否定するんですよね?』
(だから俺は、本当にロリコンじゃなーいっ!)
「にーに、どーしたの?」
「え? いや、そろそろユーリヤに降りてもらおうかなーと思って」
「えぇー! さっき、だっこしてくれるっていったのにー!」
「うっ……それはそうなんだけど、いろいろと大人の事情があってだね」
「やだー! にーにに、だっこしてもらうのー!」
ユーリヤが正面から抱きしめてくる。……かなりの力で。
『あらあら、ユーリヤちゃんにギューってしてもらって、良かったですねー』
(ちょ、待って。痛い……折れる。骨が折れるっ!)
『幼い女の子に抱きしめられて果てるのであれば、ロリコンさんとしては本望ですよねっ!』
(だから、俺はロリコンじゃないって言ってるだろーっ!)
力が強すぎて、俺の顔色が青色になりはじめたらしく、ジェーンがユーリヤをあやし、マーガレットに治癒魔法を使用してもらって事なきを得た俺は、一旦宮廷へと戻り、サムソンの討伐と新たな魔族を目撃した事を報告した。
……その魔族が、『もっと強力な奴を連れてまた来る』と捨て台詞で残した事を含めて。
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