何の膨らみも無い胸と腰に布を巻いただけという格好の、幼いロリっ子エルフが俺の前に立ち、行く手を阻む。
見た目はソフィアを一回り小さくしたような基礎学校生の少女だが、エルフ特有の尖った耳が見た目通りの年齢ではないと物語っている。
こんな容姿だが、おそらく俺より年上で、凄まじい魔法を使う事が出来るのだろう。
「あの、サロモンさん。この子は?」
「こらー! ルミの事を子供扱いするなー! ルミはもう百二十歳なんだからね! あんたたち人間よりも年上なんだからっ!」
「あー、すみませんのう。この子はルミ=リーカネン。私のひ孫で、あのリンネア=リーカネンの直系子孫なのですじゃ」
ロリっ子エルフをサロモンさんが困った表情を浮かべながら紹介してくれたのだが、ひ孫との年の差が約九百歳って、エルフの出産事情はどうなっているんだ?
「ルミ。大事な話をしているのだから、邪魔をしてはいけないだろう」
「分かってるもん。だからルミ、終わるまで待ったもん。それより、お爺ちゃん。そう簡単に人間を信じちゃダメだよ! この人、自分で宮廷魔術士だって言っていたけど、そんな風に見える? 杖だって持ってないし、それどころか剣を持っているしさー」
「あー、ここまで来る間に魔物と戦う事が多かったから、杖はしまっておいたんだよ」
あと、ややこしくなるから言わなかったけど、俺は自分から宮廷魔術士とは言っていないからね?
俺はちゃんと第三王女直属特別隊だって名乗ったからね?
「ねぇ、お兄さん。自分が宮廷魔術士だって証明出来る物って何かあるの?」
「宮廷魔術士の? いや、それは無いかな」
「やっぱりね。お爺ちゃん、この人間が本当に宮廷魔術士かどうか、怪しくなってきたでしょ?」
そう言って、ルミが全く無い平らな胸を反らす。
一応、貰った勲章は空間収納魔法で取り出す事は出来るけれど、あれは宮廷魔術士とは関係無いし、そもそも俺は宮廷魔術士では無い。
勇者パーティの子孫というからには、幼く見えても凄い力を秘めているのだろうし、出来ればルミとはお近づきになっておきたいのだが、どうしたものか。
『へ、ヘンリーさん。この幼女エルフとお近づきになりたいだなんて、まさかロリコ……』
(違うわっ! ついさっき、勇者パーティに居たエルフの子孫だって言ってただろ! 見た目はこんなんでも、きっと凄い魔法が使える訳だろ? 魔王や魔族と戦う時に強力な戦力になるじゃないか)
『えぇー。あのリンネアの子孫ですよ? エルフなのに、人間の私よりも魔力が劣っていて、弓矢に逃げたリンネアですよ? きっと大した事が無いですって』
(アオイ……結構、ボロクソに言うな。今更だけど、仲良くしろよ)
『いえ、私は何とも思ってないんですよ? 向こうが巨大な魔力を持つ私に嫉妬していただけなんですから』
おいおい、いい加減に……とアオイを宥めようとした所で、ルミと目があった。
「ねぇ、お兄さん。本当に宮廷から来たっていうのなら、ルミと勝負しようよ」
「こ、これ、ルミ! いきなり何を言い出すんじゃ」
「お爺ちゃんは黙ってて! ねぇ、いいでしょ? 宮廷魔術士のお兄さん」
ロリっ子エルフのルミがあからさまに俺を舐めてかかっている。
エルフだから、おそらく魔力は俺より勝っているのだろう。
だが、見た目が十歳前後にしか見えない少女に、こうも舐められたままというのは癪だ。
『そうです! その意気ですよ、ヘンリーさん! そんな幼女エルフなんて一撃で倒してプライドをズタボロにした挙句、パンツをクンカクンカして心をへし折ってください!』
(いや、だからキャラが変わり過ぎだって! いつも止める側だろうが。それに、さっきも言ったが俺はロリコンじゃないっての! どれだけエルフが嫌いなんだよ)
『別にエルフは嫌いではないですよ? ただ、あの性悪弓使いエルフと気が合わないだけです』
(だからって、その子孫にまで同じ態度を取るなよ。この子は別に悪く無いだろ? ……まぁ、ちょっとこの態度はどうかと思うけどさ)
『でしょう? ですから、ヘンリーさん。得意の早脱がしスキルでパンツを奪い取り、彼女の目の前で見た目と香りを堪能している姿を見せつけてください』
(そんな変態スキル持っとらんわっ!)
「……はぁ。分かった。で、勝負っていうのは何をするんだ? まさか殴り合いをしようって訳じゃないんだろ?」
「うん。直接バトルでも良いんだけど、それだとお兄さんに怪我をさせちゃうからね。そうだなー……じゃあ、射撃対決なんてどぉ?」
「射撃対決? 何か射抜くのか?」
「そうそう。お兄さんの実力の程が分かれば何でも良いよー。魔法でも弓矢でも投擲武器でも。えーっとー……あの樹! 三回ずつチャレンジして、あの丘に生えている樹の赤いリンゴを、ここから沢山撃ち落とした方が勝ちって事で」
「丘に生えてる樹……って、まさかアレか? あの、一本だけポツンと生えている背の高い樹」
「そうだよー。お兄さんが本当に宮廷魔術士なら楽勝でしょ?」
扉の外から遠くの方に見える小高い丘の上に、細い樹が見えるのだが、あんなに遠くまで魔法は届くのだろうか?
というか樹は何とか見えるけど、俺にはあの樹に赤いリンゴなんて見えないんだが。
(アオイ。あの樹まで魔法は届くか?)
『ふふん、余裕ですね。リンゴどころか、丘ごと吹き飛ばせますよ』
(いや、吹き飛ばしたらダメだろ。破壊力勝負じゃないし)
『冗談ですよ。まぁ出来ると思いますよ。で、そのリンゴってどれですか?』
(見えてないのかよ! いや、俺も見えないんだが。魔力のコントロールは出来ても、そもそものターゲットが見えてないとどうしようもないな)
どうしたものかと考えていると、上目遣いのアタランテが口を開く。
「あれくらいなら、わざわざ貴方の手を煩わせるまでもないかな。私がやるよ」
「アタランテ、出来るのか?」
「うん、楽勝。ねぇエルフのお嬢ちゃん。私は、この方に召喚魔法で呼ばれたんだ。だから私は、この方の一部であり、所有物みたいな物なの。身も心も捧げているし。だから、私が代わりにやっても良いかな?」
いや、召喚魔法で呼んだのは事実だけど、所有物って。
ルミを納得させるための言葉の綾なのかもしれないけど、少なくとも俺は召喚魔法で呼んだアタランテやジェーンを、自分の物みたいに扱った事はないからね?
誰に言う訳でもなく弁明していると、
「へぇー、お兄さん。召喚士なんだ。流石、宮廷魔術士を名乗るだけあって、そんな高等魔法が使えるんだ。いいよ、召喚魔法で呼んだ者を使役するのは、召喚士として当然だもんねー」
何故か召喚魔法をやたらと持ち上げてくれるルミが、アタランテの提案を快諾した。
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