マーガレットに呼ばれて部屋の中へ入ると、腫れた目を赤く染めたコートニーと、瞳を潤ませるジェーンが居た。
そんな中、マーガレットは平然としているので、先ずは話を聞く。
「マーガレット。コートニーが俺に言いたく無かった話は言う必要はないが、対応可能な相談なのか?」
「そうだねー。申し訳ないんだけど、現時点では何とも言えないかなー」
マーガレットの答えを聞き、コートニーがビクッと身体を震わせる。
「それは、対応が難しいという意味なのか?」
「対応が難しいというか、先ずは会って症状を確認しないと何とも言えない……かな。少なくとも診てみれば、対応出来る、出来ない、分からない……のどれかの回答が出来ると思うよ」
マーガレットの答えから察するに、コートニーの妹が何らかの病気にかかるか怪我をしていて、それを治して欲しいという事か。
ただ、それを俺に言えない理由は不明だが。
「ふむ。じゃあ、早速会いに行こう。コートニー、俺が妹に会うのもダメなのか?」
「え、えぇ。出来ればマーガレットさんだけの方が助かりますの」
「分かった。なら、途中まで一緒に行こう。それ以上は進めないという所で、俺に待ったをかけてくれれば良いよ」
そう言うと、フラつきながらもコートニーが歩きだしたので、その後をついて行く。
宮廷内を暫く歩き、俺が行った事の無い地下へと続く階段を降りる。
それから再び歩いた所で、
「ごめんなさい。申し訳ないのですが、ここからはマーガレットさんだけでお願いしたいですの」
「あぁ、構わない。最初からそういう話だったからな。……マーガレット、頼む」
「うん。じゃあ、ちょっと行ってくるね」
大きな扉の中へ、コートニーとマーガレットだけが入って行った。
「主様。一つだけお伝えしておきますと、コートニー様は主様の事を気遣っておられます。決して主様の事を悪く思っての行動ではありませんので」
「……俺が中に入れない理由の事か?」
「はい」
それだけ言うと、ジェーンはこれ以上は話せないと言わんばかりに、扉に背を向けて直立不動となってしまった。
俺の事を思ってコートニーは妹の事を話さない。
……一体どういう事だろうか。
俺が妹さんを病気にさせる……というのは論外として、怪我をさせたとか?
だけど、女の子に怪我をさせたりなんて事は無いと思うのだが。
『ヘンリーさんが病気にさせる……何か病気を移したとかでは、ありませんか?』
(いやいや、会った事も無い相手に何の病気を移すっていうんだよ)
『ヘンリーさんがコートニーさんの妹だと認識していないだけで、実は会っているのでは?』
(でも、俺より四つも年上だぜ? 同級生なら、その可能性もあるさ。実は魔法学校の生徒の一人が妹さんで、ぶつかった事があって……って、ぶつかっただけで移る病気なんて無いだろうし、そもそも俺は病気なんかじゃないし)
『実は自覚症状が無いだけかもしれませんよ? 何か心当たりはありませんか? 昔は真面目だったのに、急に変態行動を取るようになったとか。で、それが変態病という恐ろしい病気で……』
(変態病とか言うな! というか、そもそも変態じゃねーよ! で、病気とかでも無いっての! というか、仮に俺から移る病気があったとしたら、ここに居るジェーンをはじめとして、皆同じ病気になっているだろうが)
アオイのとんでも推理に突っ込んでいると、扉が開いて二人が戻ってきた。
「マーガレット。どうだった?」
「うーん。結論から言うと、対応出来ると思う。けど、それには必要な物があるんだ。いくつかあるんだけど、その中から一つでも見つけられれば、解決出来ると思うよ」
「見つけられれば……って事は、普通には手に入らない物だって事か」
「少なくとも、私は簡単に見つかる物ではないと思っているかな。でも私が知らないだけで、実は簡単に手に入る物だったら即解決だよ」
「なるほど。ちなみに、何を見つければ良いんだ?」
「えっとねー。エリクサーか、ユグドラシルの葉。それか賢者の石とか聖杯とか……」
「待った。それって、どれか一つでも実在するのか!? 全て伝説や神話レベルの話に出てくる物ばかりじゃないか」
エリクサーは言わずと知れた万能薬だし、ユグドラシルは世界樹と呼ばれる神話上の樹で、賢者の石や聖杯なんてのも同格の物だ。
「まぁそうだよねー。存在しない訳ではないと思うけど、簡単に入手出来ないって事はわかったよ」
「それらが無いと、コートニーの妹さんは助けられないのか?」
「ちょっと高度な魔法を使用するから、さっき言った物レベルとまでは言わないけれど、私の魔法を補佐する魔力媒体が必要なんだよ。まぁでも、さっきのが無いなら無いで、一応手段はあるんだけど……」
「けど?」
「けど、代替えの物を作るのに丸々十日くらい掛かるから、その間私が何処かに籠れる場所と、食料とかを用意して欲しいなーなんて」
「わかった。それは俺とコートニーで何とかするよ。後、その間マーガレットは任務に参加出来ないって事だな?」
マーガレットが頷くのを確認した後、コートニーに顔を向け、
「という訳だ。十日程度マーガレットが集中出来る場所と、食事などが確保出来れば妹さんは助けられるぞ」
「……! 本当ですのっ!?」
「あぁ。一先ず、フローレンス様に言って、どこか部屋を……」
「そ、それなら私が騎士団長様に掛け合いますのっ! 騎士団寮には部屋も余って居ますし、寮にはメイドさんや料理人も居りますから、きっとそちらの方が良いですのっ!」
な、何だって!? 騎士団の寮に入ればメイドさんがお世話してくれるだと!?
俺も学生寮ではなく、騎士団寮に住みたいんだけど。
部屋が余っているって話だし、王宮にほぼ仕官しているし、俺もメイドさんにお世話してもらえないだろうか。
だが、騎士団長へ俺の事も口利きして欲しいと頼む前に、
「……本当にありがとうですのっ!」
改めて頭を下げたコートニーが駆け出してしまった。
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