子供服を買い揃えた俺たちは、一度寮の自室へ戻ってユーリヤを着替えさせる。
といっても、何故かユーリヤが俺にしか懐かないので、マーガレットの指示を受けながら俺が服を着せたのだが……幼女にパンツを履かせたのは、流石にこれが初めてだよ。
「お兄さん。その赤いヘアゴムで髪の毛を二つ括りにしたら完成だよっ!」
「二つ括り……って、こんな感じか?」
長い茶髪を何とか二つに纏めると、改めてユーリヤの格好を見てみる。
所々に赤いリボンの付いた、白を基調とした可愛らしいシャツが褐色の肌に映え、紺色のショートパンツから細い脚が伸びている。
ファッションの事はサッパリ分からないが、元より幼くて可愛らしい容姿が、更に可愛らしくなっているように思う。
「うん。我ながら良いんじゃないかな。じゃあ、お兄さん。次は私の服選びに付き合ってもらうからねー」
「はいはい……そうだ。せっかくだし、アタランテも服を買う?」
「えっ!? いいの!? ありがとー!」
マーガレットが若干不満そうなので、アタランテは一着だけという事にして、再び街へ。
先ずは仕立屋へ行き、マーガレットがオーダーメイドの服を注文すると、次は革製品の店に行き、鞄を見て回る。
その次はまた別の服屋へ行って小物を見て……女の子の買い物って、こんなに面倒臭いのか!?
最初に入った店でも鞄は売っていたし、小物だって置いていた。
今、マーガレットが手に取った鞄……二件目にも、ほぼ同じようなデザインの鞄があったぞ!?
「にーに。ごはんー」
まだ食事の時間には早いが、マーガレットに連れ回されてお中が空いて来たのか、ユーリヤが空腹を訴える。
退魔スイッチとはまた違うスイッチが入っているマーガレットと、それに対抗するかのように服を見定めるアタランテに断り、ユーリヤを連れて屋台へ。
「にーに。あれ! あれたべたい!」
「あの串焼きの事? ……すみません。それ二本ください」
「はいよー!」
威勢の良いおばさんがユーリヤを見て、一本の肉を串から外して、紙皿に置いてくれた。
曰く、小さな子供に串は危ないと。
……まぁ見た目は幼女でも正体はドラゴンなので、串では傷一つ付けられないんだけどさ。
「兄ちゃん。その女の子……まさか、兄ちゃんの娘なのかい?」
「い、いえ、違いますよ。い、妹です」
「あぁ、そういえば、にーにって呼ばれて居たね。だけど妹にしては歳が離れているし、肌の色や髪の色が……あっ! ご、ごめんね。若いのに苦労しているんだね。ほら、もう一本お食べ」
何故かおばさんが串焼きを一本おまけしてくれた。
何を勘違いされたのかは分からないが、「兄妹で仲良くするんだよ」と励まされてしまった。
その後も、長すぎる女性二人の買い物を待つ間、屋台を巡っては、美味しそうな匂いがする度にユーリヤが食べたいと言い、
「可愛い妹さんだね。お嬢ちゃん、これはおじさんからのプレゼントだ」
「ありがとー!」
店主が中年男性だと、ほぼ百パーセントおまけが付き、笑顔を向けられてメロメロになっていく。
ユーリヤが店主の娘くらいの年頃なのか、それともマーガレットのコーディネイトにより美幼女化しているからなのか。
流石に小さな身体で食べ過ぎを心配しているのだが、
「にーに。あれ、たべるー!」
ドラゴンの胃袋だからか底が見えず、放っておくと際限なく食べ続けてしまいそうだ。
だが、その心配を指摘する前に、
「いやー。お兄さん、ありがとー。物凄く充実した買い物だったよー!」
「私も、せめてあと三着……ううん、せめて二着買いたかった」
二人が買い物を終えて戻って来た。
アタランテは約束通り一着だけのようで、紙袋を一つ持つだけだが、マーガレットは大きな箱を幾つか抱えている。
まぁマーガレットも約束だし、ピンクスライム戦でも、ユーリヤの服でも助けて貰ったし仕方がないか。
苦笑交じりにマーガレットの荷物を空間収納魔法で格納すると、そのまま休憩だと告げる。
「じゃあ、三人はお昼ご飯を食べておいてよ。俺は、一旦城へ聖銀の報告に行ってくるから」
「にーに。どこか、いく?」
「ちょっとね。すぐに帰って来るから、お姉ちゃんたちと待っていてね」
「やだ! にーにと、いっしょ! わたし、にーにといる!」
さっきはご飯を与えている間にルミをエルフの村へ送る事が出来たけど、それなりにお腹が膨れているからか、城へついて行くと言って聞かない。
今、テレポートの魔法で俺だけ瞬間移動する事も出来るけど、その結果、街中でユーリヤが暴れたりしたら大惨事になってしまう。
怒って本来のドラゴンの姿になられたら、パニックどころの話じゃないしね。
「ユーリヤ。今から俺は、この国のお姫様に大切なお話をしに行くんだ。一緒に連れて行っても良いけど、静かに待って居られる?」
「うん、まつ。わたし、よいこ!」
……先程、服屋では静かにしてと言いながらも、思いっきり声を出されてしまったが、本当に大丈夫だろうか。
若干、いや結構不安に思いながらも、どうしようも無いので、マーガレットとアタランテには昼食にしてもらい、ユーリヤと共に王宮へ移動する事にした。
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