「エリー、ありがとう。エリーのおかげだよ!」
「え? あ、うん。どういたしまして?」
「じゃあ、エリー。早速、ホムンクルスを貸してくれないか?」
「えっと、ハー君。どういう事か、エリーにも分かるように教えてよー」
しまった。妙案が思いついた事にテンションが上がって、エリーに何の説明もしていなかった。
しかも、勢い余ってエリーを抱きしめたままだ。
それに気付き、慌てて腕を離したけれど、エリーはキョトンとしたままだった。抱きつかれたりしても平気なのか?
「あー、エリー。三人目のメンバーとして、俺の召喚魔法でかつての英雄の魂――英霊の召喚に成功したんだ」
「そうなんだー。流石、ハー君だねっ! 凄ーい!」
「あぁ。だが一つだけ問題があって、その英雄が魂の状態だから、肉体が無いんだ」
「うーんと、じゃあ魔法大会には出られないの?」
「いや、そこでエリーが錬金魔法で作ったホムンクルスの出番だ。エリーが作ったホムンクルスの中に、俺が召喚した英霊を入れさせて欲しいんだ。そうすればきっと、英霊は肉体を得て、力を奮う事が出来ると思うんだ」
エリーが俺の予想を肯定するかのように、何事も無かったかのようにエリーが俺の話を聞いている。
声色も普通だし、どうやら何とも思ってないようだ。
「エリーが作ったホムちゃんの中に、ハー君が召喚した英霊を入れたりして、大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫なはずだ」
「本当に? エリーのホムちゃんの中に、ハー君の英霊を入れちゃうんでしょ? そしたら、ホムちゃんはどうなるの?」
「英雄として動く……と思う。だが、安心してくれ。これはあくまでも、魔法大会に出場するためだ」
「うー、ハー君がそうまで言うなら。じゃあ、エリーの中にハー君のを入れていいよ」
「ありがとう。助かる」
そう言って、ホムンクルスを取り出すのを待って居るのだが、エリーが全く動こうとしない。
「エリー? どうしたんだ?」
「え? あはは……その、ハー君にいきなり抱きつかれちゃったから、びっくりし過ぎて身体が固まっちゃったんだー。ハー君、助けてー」
どんな状態だよ……いや、悪いのはいきなり抱きついた俺なんだけどさ。
とりあえず、緊張をほぐせば良いのだろうと、エリーの肩や腰を揉んでみると、
「ひゃぅっ」
変な声を上げながらも、エリーが動き出す。
「え、えっと、これがホムちゃんだけど……でも、製造したばかりだし、あと数週間は培養しないとホムンクルスとは言えないんだけどー。これでも良いのー?」
「あー、そういえば、そんな事を言っていたな。ちょっと、待ってて」
フラスコの中に入った小さな何かを横目に、どうしたものかと考える。
(アオイ。確か、特定の箇所だけ時間を戻す事が出来たよな)
『えぇ。それが何か?』
(逆にさ、特定の箇所だけ時間を進める事って出来ないか?)
『出来なくは無いですけど、ヘンリーさんが目的はホムンクルスを今すぐ仕上げる事ですよね? では、こちらを』
エリーに借りたフラスコを手に、アオイから教えてもらった魔法を使う。
「グロウ・ホムンクルス」
「ハー君、今の魔法は何? そんな魔法、魔導書に載って無いよ!?」
「今のはホムンクルスの核を育てる魔法なんだ。通常数日間かけて周囲の魔力を取り込ませる代わりに、術者の魔力を注いでホムンクルスを成長させるんだ」
「それって、エリーのホムちゃんにハー君の魔力を注いだって事なのかな?」
「まぁ、そういう事になるな」
俺の魔法でフラスコの中のホムンクルスが淡い光を放ち、製造が完了した事を示す。
ホムンクルスとしてはもう完成していて、後はエリーが名前を与えるだけなのだが、何かを考えている様子で動かない。
それから少し間が開き、ようやくエリーが口を開く。
「という事は、このホムちゃんはエリーとハー君の魔力が混ざって生まれる……つまり二人の間に出来た子供みたいなものだよねっ!」
「ブッ――いや、子供は流石に飛躍し過ぎ……って、聞いてねぇっ!」
「エリーとハー君の子……名前はどうしようかなー。ねぇパパ。この子の名前はどうするー?」
「ちょっと待て! そのパパってのは俺の事か!? いや、満面の笑みで頷くなよ! あと、名前はもう決まっているんだ。ジェーンっていう名前で頼む」
「うふふ、ジェーンちゃん。パパがとっても可愛らしい名前を付けてくれまちたよー。良かったでちゅねー」
「おい、おかしいぞ。いろんな所が間違いまくってる……いや、もうこの際どうでも良いよ。とにかく命名して、ホムンクルスを呼び出してくれ」
英霊をホムンクルスの中に入れるという案を思いついたものの、これで上手く行かなかったら、どうしよう。
エリーの事だから、学校の内外関係無しにホムンクルスを俺とエリーの子供だと言いかねない。
これで上手くいけば、召喚魔法の事だと俺が自己弁護出来るけど、ダメだったら……いや、その時はその時だ。先ずはやってみなくては。
完全に母親気分になっているエリーを再び促し、ようやく仕上げの魔法の詠唱を始めた。
「コール・ホムンクルス! 貴方の名は『ジェーン』」
「よし、今だ! ジェーン!」
エリーの魔法により、ホムンクルスの核がフラスコから飛び出し、小さな人型に変わりゆく中で、ゴーストである聖女ジェーンに声をかける。
すると、思惑通り成形中のホムンクルスの中にゴーストが混ざり込み……あ、あれ?
「えっ!? ホムちゃん――じゃなくてジェーンちゃん!? どうしたの!? 魔導書に載っているのと、随分違うよっ!?」
「そ、そうだな。ホムンクルスって、普通は子供みたいな容姿だって、魔導書に載っていたよな」
エリーが参考にしていた中級錬金魔法Ⅲの魔導書には、ホムンクルス製造後の絵まで載っていたのだが、今の姿は全く似ていない。
背はエリーよりも少し高く、サラサラの長い金髪に大きな蒼い瞳。所謂、美少女と言って全く差し支えの無い整った顔と、大きな胸なのにスリムな身体や脚……端的に言えば、全裸の金髪碧眼美少女が現れた。
「主様、奥方様。私の生前の身体をご用意いただき、ありがとうございます。改めて、このジェーン=ダークを以後お見知りおき願います」
『……魂が持つ力が彼女の魔力を上回ったからですかね。形成されるホムンクルスの形が、ジェーンの想い描く自分の姿に上書きされてしまったみたいですね』
「なるほど。と、とりあえず……服だ。服を着ようか。俺が出血死してしまう。あと、奥方……って呼び方は止めよう。いろんな誤解が生じる」
エリーのほぼ全裸姿を見たことはあったが、最後の砦――パンツをちゃんと履いていた。
だがエリーよりも大きな胸で、しかも完全な全裸の上に、身体を一切隠そうとしない……あ、訓練室の床にまた赤い液体が。
「ハ、ハー君!? どうしたの!? 鼻から血が出てるよっ!?」
「主様っ! 大丈夫ですかっ!?」
「エリー! 俺は良いから、ジェーンに服を! あと、ジェーンは今の状態で無防備に近寄らないでくれーっ!」
魔法による効果だろうか。
どういう仕組みなのかは分からないが、何の考えも無しに近寄って来て、俺の身体に触れたジェーンの大きな胸は、とてつもなく柔らかかった。
……あ、更に鼻血が出てきた。
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