「おはよーなのです! 凄いのです! 夜の見張りもしていないし、野営とは思えなかったのです!」
朝、プリシラが物凄く上機嫌で部屋から出てきた。
まぁ昨日は、夜に何かの魔物がやってきて小屋に体当たりしたんだけど、魔法で小屋の周りに深めの穴を掘ったら、静かになったしね。
出発する前に、落とした魔物の様子でも見てみようかな。
ちなみに、昨日の俺はお風呂を覗いたりはしていない。
野宿を覚悟していた所へ小屋を出した事で、プリシラが俺に尊敬の念? を見せていたので、それを崩さない方が良いだろうと自重したんだ。
ドロシーの胸を触り過ぎて、俺を見る目がどんどん冷たくなっていたからね。
ようやく今日にもヴァロン王国に入るという所なので、このまま良い感じで行きたい。
そんな事を考えながら、いつもの様に馬を走らせていると、今まで通って来た街よりも、遥かに大きな街が見えてきた。
「お、何か街が見えてきたな」
「師匠。あれが国境の街フォークスで、奥に行けば国境となる大きな橋がありゅ……し、師匠ぉ~」
「説明中でも気を抜いちゃダメだ」
「うぅ……せめて街に入ったら中断して欲しいッス」
ドロシーとプリシラの説明によると、隣のヴァロン王国とは大きな河で隔てられており、この街に唯一陸路で渡れる巨大な橋が架かって居るらしい。
国境の街と呼ばれるだけあって、かなり栄えているらしく、街の門に沢山の人や馬車が居る。
「……って、あの列は何だ? どうして、皆街の中へ入らないんだ?」
「ここは国境の街ッス。犯罪者が他国へ逃げたり、また悪人が街で暴れて国の評判を下げたりしないように、街の出入りが厳重に管理されているッス」
「なるほど。エァル王国側は簡易な関所みたいなのしか無かったのに、大きく違うんだな」
「ヴァロン王国は大国ッスからね。大陸諸国の中でも、飛び抜けて大きいし、中心にあるッス。正直、攻められたら負けてしまうと思われるッス」
なるほどね。
厳重な管理と言っているから、ここを飛び越えて行ったりすると、後で面倒な事が待っているかもしれない。
かなり待たされる事になりそうだけど、ちゃんと並ぶか。
「あれ? ドロシー、どこへ行くんだ? あの列に並ばないといけないんだろ?」
「それは商人や冒険者と言った市井の人々ッス。自分たちは別の出入り口があるッス」
「そうなんだ。じゃあ、そっちへ行こう」
……こういうのって、騎士だと常識なのだろうか。
なんて言うか、騎士見習い? みたいな事とか、新米騎士の訓練? みたいなのを受けていないから、さっぱり分からないんだけど。
学生にして第三王女直属特別隊の隊長に大抜擢されたのは良いけれど、もっと知らないといけない事が沢山ありそうだ。
「第三王女直属特別隊隊長ヘンリー=フォーサイス、同じく第三王女直属特別隊ニーナ=レッドフィールド、第三王女直属特別隊クレア=リルバーンに、第二騎士隊ドロシー=ラザフォードと、魔法騎士隊プリシラ=カトラル……えっと、そっちの幼女は?」
「俺の妹のユーリヤ=フォーサイスだ。家庭の事情で、今回の任務に同行させているが、フローレンス王女様の許可は貰っている」
「……あ、本当だ。し、失礼しました。では、以上の六名を確認いたしました。どうぞ」
通常の入口とは違う、王宮専用出入口で身元の確認が行われ、ユーリヤを見た兵士が固まっていたけれど、何とか通過する。
フローレンス様がちゃんと手続きしてくれていたので助かったけど、ちょっと焦ってしまった。
ここでユーリヤだけが仲間外れ――置いてけぼりをくらうと、どうなって居た事か。
何とか事無きを得て、そのまま国境へ繋がる大きな橋を目指す。
「しかし……本当に大きな橋だな。河だって、何とか霞んで対岸が見える程度だし」
「歩いて渡れない程、長いのです。お昼には少し早いですが、先に昼食を済ませておいた方が良いのです」
「え!? この橋、そんなに長いの!?」
「はい。それに、向こう岸では国境を越える為の手続きがあるのです。そこも、一般の人たちよりは早いですが、それでも入念に調べられるので、時間が掛かるのです」
プリシラのアドバイスに従い、軽めの食事――ユーリヤは軽めとは思えないが――を済ませて、橋へ。
橋に足を踏み入れる――出国する時も身元の確認があって……いやもう、面倒くさいな!
これを考えると、エァル公国との国境はゆるゆるだな。大丈夫か?
「……はい、確認が済みました。では、どうぞ」
ようやく手続きが終わって橋に足を踏み入れたのだが、とにかく大きい。
馬車が数代横並び出来そうな程の幅がある。
それが遥か向こうの岸まで……凄いな。
橋を造った昔の人たちに敬意を評しながら、馬で一気に駆け抜けると、
「止まれ! 田舎の国の騎士たちよ。身分証を見せてもらおうか」
ヴァロン国側の岸で、随分と高圧的な態度の兵士に止められた。
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