「あれ? 隊長さんだー! おーい、隊長さーん! こんな所でどうしたんですかー?」
「待ってニーナさん。お兄さんの隣に、ユーリヤちゃんとは別の女の子と手を繋いでいます。もしかしたら、彼女とデートなのかもしれませんよ」
「えぇっ!? あ、本当だっ! しかもメチャクチャ可愛い。お人形さんみたいな女の子だっ!」
いや、二人とも声がでかいよっ!
それに俺がソフィアとデートだって? そんな訳が無い。第一、ユーリヤを抱っこしながらデートって、どういう状況だよ。
チラっとソフィアの様子を窺うと、残念ながら二人の声が聞こえてしまったらしく、顔を真っ赤に染めて怒っている。
どうすんだよ。これからソフィアに精霊魔法を使って貰って、ドワーフの国を探すつもりなのに。
しかし今更どうしようもないので、一先ずニーナとマーガレットの前まで移動する。
「あー、こほん。二人とも、ちょっといいか? 紹介しておきたいんだが……」
「ちょ、ちょっとアンタ! な、何を言い出す気なのっ!? ウチとアンタはまだ、その……今日が初めてのデートなのに……」
「ん? ソフィア、何か言ったか? って、周囲のざわめきで聞こえないな。場所を変えるから、二人ともついて来てくれ」
ユーリヤも居る事だし、こういう場合は食事処が良いという事を昨日学んだ俺は、適当なカフェへ入る。
好きに注文して良いと言うと、情報収集で疲れていたからか、ニーナとマーガレット……と、ついでにユーリヤもケーキを頼み、俺とソフィアが紅茶を頼む。
ユーリヤは今日何もしていないけど、何か食べている方が大人しいから、まぁ良いか。
それぞれ注文した品が届いた所で、早速話を切りだす。
「ソフィア、紹介するよ。左側に座っている女性がニーナって言って、こう見えて正規の騎士なんだ」
「た、隊長さん? こう見えて……って何ですかー? ボクは立派に騎士をしてますよー?」
「俺の事を隊長って呼んだけど、実は王宮で俺の部隊に入ってくれているんだ」
ニーナの抗議をスルーしつつ、次はマーガレットへ。
「で、右側に座っている女性がマーガレットって言って……まぁいろいろしてくれている」
「お兄さん!? いろいろって何ですか!? 私、結構活躍しているんですけどっ!」
「マーガレットは、前に魔法大会でソフィアが戦った女騎士ジェーンと同じく、俺が召喚魔法で呼び出した聖女なんだ」
向かい合わせに座る二人をソフィアへ紹介すると、困惑しながらも、
「ウチはソフィア=ロックフェラーです。魔法学校の二年生で、今は精霊魔法の勉強をしています」
一先ず挨拶してくれた。
その直後、
「で、ソフィアちゃんはお兄さんとどこまで進んだの!?」
「ボクも気になりますっ! やっぱり隊長さんから声を掛けてきたんですか?」
運ばれて来たケーキそっちのけで、二人がずぃっとソフィアに顔を近づける。
あぁぁぁ……ニーナは胸が大き過ぎるから、胸の部分にケーキが付いてるよっ!
「二人とも、ソフィアが困ってるだろ。あとニーナは、服にクリームがついてるぞ……これで、一応取れたかな?」
「ちょ、隊長さんっ!? 今、普通にボクの胸を触ったよね?」
「いや、服が汚れるから、少しでも早く拭いた方が良いと思ったんだが?」
「確かに拭いてくれたけど、そこはもうちょっと、その……気を遣いましょうね?」
ニーナが急に怯え出したので、何事かと思って視線の先を見てみると、
「おぉぉっ!? ソ、ソフィア? どうしたんだ?」
「別に」
顔を赤くして怒っていたはずのソフィアが、一周回って物凄く冷たい表情になっている。
何故だ? もしかしてニーナの胸と自分の胸を比べて、悲しい気分になってしまったのか?
だけど、ソフィアの胸は今更どうにもならないだろうし、今後ニーナの胸に追いつく事は不可能なんだ。
ニーナは今のソフィアよりも幼い十歳の頃から胸が膨らんでいたと言うし、十三歳にして剣の邪魔になる程胸が大きかったらしいし。
一先ずソフィアを励まそうとして、「胸は残念だけど、ソフィアにはパンツがあるじゃないか」と言おうとした所で、
『絶対にダメです! というか、話を進めた方が良いんじゃないですか?』
と、アオイから強く止められてしまった。
あまりにも強く言ってくるので、その勧めに従って話を進める。
「えっと、それじゃあ本題なんだけど、ソフィアも知っていると思うんだが、俺は既に王宮で部隊を任され、活動している。その王宮の部隊として、正式にソフィアの力をこの二人に貸して欲しい思って、ここへ連れて来たんだ」
「え? お兄さん。このソフィアちゃんとデートしたいから、ユーリヤちゃんを預かって欲しいって話じゃないの?」
「いや、そんな事言ってないだろ? それにユーリヤを預かれるの?」
「うーん。一時間くらいなら何とかなる……かも? でもお兄さんなら、一時間もあれば出来るよね?」
「何をだ!? 何をなんだよっ!」
一時間でソフィアを満足させるデートが出来るって事か?
いや、そもそもどうして俺とソフィアがデートって話になっているんだ。
ソフィアの顔をそっと覗いてみると、物凄いジト目で俺を見つめ、
「……つまり、王宮の何かしらの任務の為に、精霊魔法を使ってこの二人に協力して欲しいって事なの?」
「そういう事だ。この国を守る為なんだよ。ソフィア……頼む」
「ふぅ……国を守るだなんて言われたら断れないじゃないのよ!」
「すまない」
大きな溜息を吐かれてしまった。
「……勝手に期待してたウチがバカみたい……。いいわ、手伝えば良いんでしょ?」
「えっと、よく聞こえなかったんだが、とりあえず手伝ってくれるんだな? ありがとう!」
「ちょ、ちょっと! 近いっ! 顔が近いわよっ!」
顔が近いって言われても、元々二人掛けの椅子で、右側にソフィア、左側にユーリヤが居て、その真ん中に俺が居るのだから仕方がないのだけど。
「へぇー。そういう事かー。お兄さんも隅に置けないねー」
またもや顔を真っ赤にして怒るソフィアの前で、何故かマーガレットがニヤニヤしていた。
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