ロリっ子エルフのルミと魔法対決をする事になり、
「先にルミの実力を見てショックを受けたら可哀そうだから、先にチャレンジして良いよー」
気を遣ってもらって、こちらが先手を取る事になった。
そして俺の代わりを買って出たアタランテが家から出て、丘に向かって弓を構える。
「ねぇ、お嬢ちゃん。三回もするのは面倒だから、一回で終わらせても良いかな?」
「別に構わないよ? けど、それじゃあルミの勝利が確定するよー?」
「大丈夫。三本くらいなら余裕だから」
どういう意味かと思いながらアタランテの様子を見ていると、矢筒から三本の矢を取り出し、大弓に三本の矢を全て番え、
「――ッ」
一度に三本とも撃ってしまった。
矢はやや低めの弧を描くように飛び、三本とも丘の上の樹に吸い込まれていく。
そして……それぞれが矢尻に赤い物を付けて落下する。おそらく、全ての矢がリンゴを射抜いたのだろう。
「す、凄ぇ」
「ほんと? ねぇ、もっと褒めて良いんだよ? 褒めて、褒めて」
「あぁ、アタランテは弓の名手だよ。こんな事が出来たんだな」
「うふふ。でも、この村へ来る途中の魔物と戦っている間も、普通に二本撃ちや三本撃ちは使っていたんだよ?」
「そうなのか。悪い。俺は俺で戦っていたから、全く気付いていなかったよ」
「ううん、いいのよ。さて、それより次はお嬢ちゃんの番だよ」
アタランテが家の中に居るルミに向かって微笑みかけると、
「ちょ、ちょっと待って! やっぱり召喚魔法は反則だよ! 宮廷魔術士なら、ちゃんと自分で発動させた魔法で勝負しなきゃ!」
「……さっきは召喚士なんだから当然って言ったのに?」
「ダメだったら、ダメなのー! そ、そうだ。射撃対決はやめて、精霊魔法で勝負しましょう」
「精霊魔法で勝負? 俺は召喚士なんだが」
「ダメーッ! 精霊魔法でルミと勝負するのーっ!」
突然射撃対決を無かった事にして、しかも勝負内容を変更してきた。
いやいや、百二十歳にもなって子供かよ! ……いや、見た目は完全に子供なんだけどさ。
でも精霊魔法ならアオイの力で何とでもなるだろうし、まぁ良いか。
「じゃあ精霊魔法で勝負でも良いんだけど、どういう勝負をするんだ?」
「えっと、えっと……そ、そうだ。土の精霊魔法にしよう! その辺に植物の種を撒いて、土の精霊ノームの力を借りて成長させるの。で、沢山芽が出た方が勝ちね。それなら、どっちが凄い精霊魔法が使えるか分かるでしょ」
「植物を成長させる魔法?」
「えー、まさか知らないのー? しょうがないなー。じゃあ、今度はルミが先にお手本を見せてあげるよ」
「いや、だから俺は精霊使いじゃなくて召喚士……」
俺の言葉を完全に無視したルミが家から出てきて、周囲の地面に何かの種の様な物をパラパラと撒き、ジョウロのような物で水を与える。
「ふふん。ルミの精霊魔法を良く見ておくのよ。来て、ノーム」
それから、茶色い小さな光を呼び出すと、かなり長い詠唱を始めた。
そして、
「よーく見ててよー。グロウ・プラント!」
知らない魔法の名前を叫ぶと、ルミが地面に手を触れる。
その直後、ポコポコポコ……と、先程ルミが種を撒いた場所から小さな芽が生えてきた。
「えっと、いち、にぃ……どぉ!? 凄いでしょ! 一度の魔法で二十個も芽が出て来たよ!」
「おぉー、凄い。こんな魔法があったんだ」
「ふっふっふー。さぁ次はお兄さんの番よ。ルミの撒いた場所の隣に……おっけー。種は撒いたよ。サービスで水も与えといてあげる。さぁどうぞ」
「さぁどうぞ……って言われてもなぁ」
ルミがニコニコと満面の笑みで俺を見つめてくる。
これが見た目通り十歳くらいの少女なら、そのまま俺の負けって事にしても良いのだが、
『ダメですよっ! あのバカエルフの子孫なんですからね? きっちり鼻をへし折っておかないと。それに見た目は幼くても、彼女は私たちより遥かに年上なんです。そして目の前で魔法を見せてもらったので、内容は理解しました。後はヘンリーさんが魔法を発動させるだけです!』
再びキャラを崩壊させたアオイが、異様なやる気をだしていた。
仕方が無い。やるか。
……とはいえ、無詠唱で魔法を発動させるのはマズそうなので、適当にブツブツ言いながら詠唱しているふりをする。
「……おっぱい、おっぱい、おっぱい、パンツ、おっぱい、おっぱい……」
『ヘンリーさん。詠唱するふりをするにしても、その内容は酷過ぎませんか?』
アオイのツッコミを聞き流しつつ、そろそろ良い頃かと思った所で、ルミの真似をしてみる。
「グロウ・プラント!」
魔法を発動させ、地面に手を添えると、
――ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン!
凄い勢いで芽が出て……大きく育っていく!?
「え? ちょ、ちょっと! な、何なのこれっ!? こんなの見た事ないよっ!?」
あっという間に小さな芽が青々と大きく育ち、俺の分だけでなく、ルミの分まで黄金色の小麦に変わってしまった。
「ね、ねぇ、お兄さん。土の精霊にどれくらい干渉出来るの? やっぱり精霊に名前とかつけて、日頃から関係を深めているの?」
「え? 干渉? 名前? な、何の事だ?」
「もー、ちょっとくらい教えてくれても良いでしょー? ルミの完敗なんだからー……って、あれ? そういえば、お兄さん。精霊を呼んで……ない?」
「あー、そういえば精霊魔法を使う時って、みんな先ず光の玉を出すよな。どうしてあんな事をわざわざするんだ?」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って。それってつまり、精霊を呼ばずに自分の力で直接元素を構築しているって事!? それ、精霊魔法じゃなくて遠い昔に失われた元素魔法じゃない!」
「げ、元素魔法?」
「それに良く考えたら詠唱も短かったような……ねぇねぇ、お兄ちゃーん。ルミもー、ロスト・マジック――元素魔法と詠唱短縮が出来るようになりたいなー。ねぇお兄ちゃん、ルミに教えてー。教えてよー」
突然ルミが聞き慣れない言葉を発したかと思うと、俺の呼び方を変え、見た目相応の可愛らしい上目遣いで甘えてくる。
だけど、元素魔法って何の事だ? これって精霊魔法じゃないのか?
『言われてみれば、昔リンネア=リーカネンにも精霊を介さないなんて邪道だって言われた気がします。確か、そこから嫉妬が始まったような……』
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんってばー。お願いっ! ルミを弟子にしてよー」
「えぇっ!? 弟子!?」
「お兄ちゃん? それとも師匠? 呼び方はどっちが良い?」
「あ、そうだ。急ぎの用事を思い出したんだ! アタランテ、来て!」
ルミが俺の身体に抱きついて平らな胸を押し付けてくるが、ロリコンではない俺はハッキリ言って何も嬉しく無い。
なので、アタランテを呼び寄せてお姫様抱っこをすると、
「テレポート」
「な、何それっ!? お兄ちゃん。まさか伝説の時空魔法まで使え……」
俺はエルフの村から逃げ出すように帰還した。
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