いつもの小部屋にジェーンとユーリヤを連れて移動し、空間収納魔法で聖銀を取り出した上で待って居ると、少ししてフローレンス様が現れた。
「すみません。お待たせいたしま……」
あれ? フローレンス様が扉のすぐ傍で固まったぞ?
「フ、フローレンス様?」
「ヘンリー。私という者がありながら、待って居る短時間で子供を作って、しかも産ませるなんて……」
「フローレンス様、落ち着いてください。僅か数分で子供は産めませんよ!」
「じゃあ、最初からジェーンのお腹に居たの!? 酷い! 私を騙したのね!?」
「いえ、騙すも何も……第一ユーリヤは赤ちゃんじゃないですし」
「……コホン。さて、ヘンリー。冗談はこのくらいにして、この子と貴方の関係を説明してくれるわね?」
随分と長い沈黙の後、フローレンス様が椅子に腰かけたけど、この一連の会話はボケだったのだろうか。それともマジだったのだろうか。
流石にボケだと思いたいのだが。
『……仮にボケだったとしても王族相手に突っ込む訳にもいきませんし、ここは聞かなかった事にしておきましょう』
アオイのアドバイスに従い、一旦ユーリヤの事は置いておく事にする。
「フローレンス様。第三王女直属特別隊として活動していた聖銀探索ですが、見事持ち帰る事に成功いたしました」
「凄いわ。流石、ヘンリーね。で、その子は?」
あ、あれ? フローレンス様のリアクションが随分と薄いんだけど。
もしかして、さっきの会話はボケじゃなくて、マジだったの?
「それで、聖銀が採れる洞窟の最終階層にドラゴンが居たのですが、その……対話? している過程で随分と仲良くなりまして……この姿に変身してついて来ると」
「……えっと、ちょっと待ってね。聖銀を守るドラゴンが女の子に変身して、ヘンリーについて来たって事?」
「その通りです」
「……ホントに?」
「本当です」
「……隠し子とかじゃなくて?」
「あの、俺は未だ十五歳なんですけど」
よりにもよって隠し子って。
そもそも俺は、子供を作るような事すらした事がないんだよっ!
「ユーリヤ。フローレンス様にご挨拶して」
「わたしユーリヤ」
「えっと、人語も理解しているんですが、この通り断片的にしか話せないので、ご容赦ください」
ジェーンの時は割と普通だったのに、ユーリヤがフローレンス様から逃げるように俺の後ろへ隠れてしまった。
……あ、もしかして、周囲に土が無いと落ち着かないのかな? 元はアースドラゴンだし。
「ふぅーん。ドラゴンが人間の女の子にねー……それで、その子はこれからどうするのかしら? 王宮で保護した方が良い?」
「そうですね。俺も学校がありますし……ユーリヤ。フローレンス様の居るこのお城で暮らすかい?」
ユーリヤの小さな頭に手を置き、柔らかい髪の毛を撫でながら聞いてみると、
「にーにもいっしょ?」
「いや。俺は違う所に居るんだけど、いつでも会いに来れ……」
「やだっ! ユーリヤ、にーにといっしょ!」
ある程度予想はしていたけれど、全力で拒否され、俺の脚に抱きついてくる。
「あらあら、ヘンリーってばモテモテなのね」
「あははは……懐かれました」
「仕方ないわね。学校を卒業して正規に仕官したら、ヘンリーも学校寮を出る訳だし、それまで待っておくわ」
……フローレンス様は何を待つと言っているのだろうか。
若干聞いてみたい気もするけれど、何となく怖いのでやめておこう。
「フローレンス様。このユーリヤなんですが、実は色々あって親と逸れてしまったんですけど、アースドラゴンの目撃記録とかってありませんか?」
「私は知らないけど、宮廷魔術士に聞いてみたらどうかしら? 後で断っておくから、後日宮廷内の資料庫へ行ってみると良いわ」
「おぉ、凄い。宮廷の資料庫を閲覧出来るんですか!? ありがとうございます」
宮廷の資料庫は、禁書とされる魔導書なんかもあったりして、簡単に入れるものでは無いはずだ。
ユーリヤの親の情報はもちろん調べるが、他にもいろいろ漁ってみたい。まぁ今日言って、すぐに入れる訳では無さそうだけど。
「あと、最初に申し上げた聖銀の事なんですが……」
「……あ、うん。そう、聖銀よね、聖銀。ヘンリーは流石よね。魔族を倒す為――国民を守る為に尽力してくれて本当にありがとう」
「あ、いえ。お褒めの言葉をいただき、ありがとうございます」
……うん。これ、最初に聖銀の事を報告した時、フローレンス様は全く聞いて無かったな。
「えーっと、この聖銀なんですが、魔族を倒す武器を作る為に利用していただければと考えています。そこで、腕の良い鍛冶師を紹介いただければと思いまして」
「なるほどね。では、私の名の下に、鍛冶師ギルドへ最高の鍛冶師を紹介するように伝えておきましょう」
「そうですね。貴重な材料ですので、超一流の鍛冶師に鍛えていただければと思います」
「ヘンリー。一先ず、第三王女直属特別隊の報告としては以上かしら?」
「はい。そうですが」
「そ、そう。じゃ、じゃあ、少しだけ……少しだけヘンリーと二人切りにさせて欲しいのだけど」
こ、これは、もう一つの任務――お姫様抱っこや頭なでなでをやらされるパターンか!?
だが、久しぶりと言えば久しぶりなので、仕方がないか。
「ジェーン。悪いんだけど、ユーリヤを連れて、少しだけ席を外してくれないか?」
「畏まりました。ユーリヤちゃん、少しこっちへ来……」
ジェーンがユーリヤへ話しかけると、
「やだー! にーにといっしょ!」
ユーリヤが子供の様に駄々をこねる。
……いや、ユーリヤは見た目通り子供なんだけどさ。
「あー、さっきの王宮で暮らす話が不味かったのかも。……ユーリヤ、俺はお姫様とお話するだけだから。少しだけお姉ちゃんと待っていてくれないかな?」
「やだー! にーにといっしょー!」
困った。ユーリヤが俺の脚にくっついて離れようとしてくれない。
「フローレンス様。いかがいたしましょうか?」
「むぅ……分かった。その幼女は残る事を許しましょう」
え? そう来るのか。
てっきり、もう一つの任務を諦めると思ったのに。
「ジェーン。すまない、少しだけ外で待っていてくれるか?」
「畏まりました。では、私は部屋の外に居りますので」
ジェーンが部屋を出た途端、
「ヘンリー! もうっ、寂しかったんだからー!」
フローレンス様が俺に抱きつき、強制的にお姫様抱っこをさせられる。
「にーに、だっこ! だっこー!」
それを見たユーリヤにまで抱っこを強請られ、フローレンス様とユーリヤを抱っこしたり頭を撫でたりと、いつもの二倍頑張らなければならなくなってしまった。
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