しまった!
今もだけど、ユーリヤをおんぶしているのが普通になっているからか、小脇に抱えられるくらい軽いラウラの事を、すっかり忘れていたっ!
「て、テレポートって何の話かな? ラウラが寝ぼけてたんじゃない? 俺はここまで走ってきたんだけど」
「……ん、寝ぼけてない。自分の家に戻れなくなったら困るから、どこを通っているか見てた。けど、突然場所が変わった。そして詠唱も無しに何かの魔法を使って、周囲が暑くなった」
「え、詠唱が無かったように見えたのは、魔法をマジックアイテムの中に封じていて、それを解放して使ったんだ」
「……そんなマジックアイテムあるの? 何て名前? 仕組みを知りたいから見せて」
「あー、使ったら壊れるタイプのマジックアイテムなんだ」
「……残骸でも良い。魔法を封じるのなら、それなりの媒体なんかを使っているだろうし、安定させるための魔法薬だってあるはず」
くっ……ラウラは面倒臭そうにしておきながらも、しっかり起きているし、ドワーフだけあってマジックアイテムについても俺より詳しい。
マジックアイテムに詳しいクレアなら上手く誤魔化してくれるかもしれないが、俺には無理だ。
「……」
小脇に抱えたままのラウラが、ジト目で無言のまま、俺を見てくる。
どうする? どうすれば誤魔化せる!?
「……ねぇ、黙っていて欲しい?」
「……頼む」
「……ん、いいよ」
お! 短い言葉に込めた俺の誠意が通じたのか、ラウラが瞬間移動や無詠唱魔法の事を黙っていてくれるようだ。
良かった。これで戦争が起こらずに済むと胸を撫で下ろしかけた所で、
「……黙っていてあげるから、養って」
「……は? 何だって?」
「……だから、養ってって。正直言って、働きたくないんだもん」
変な言葉が聞こえてきた。
養って……って言ったのか?
つまり、養子? いや、居候か?
「それは口止め料――金をくれって意味か?」
「……違う。そのままの意味。ドワーフって暗くて暑い土の中でくらすでしょ? もう嫌なの。外の――人間の世界で養ってくれないと、つい口が滑っちゃうかも」
「な、何だと!? それはつまり、俺たちについて来るって事なのか!?」
「……ん、その通り。よろしく」
いやいやいや、ちょっと待て。
俺には既に可愛いユーリヤが居るんだ。
胸の大きな恋人ならともかく、男なんて要らん!
せめて真面目に働くなら、第三王女直属特別隊専属の鍛冶師というのも検討しなくはないが、そもそも働きたくないって言っちゃっているからな。
しかも子供だし。あ、いや。見た目は子供でも、十六歳だったか。
あからさまに嫌そうな目を向けると、ラウラがジト目のまま口を開く。
「……養ってくれると、お兄さんの魔法を黙っておく事以外にもメリットがある」
「……なんだよ、メリットって」
「……ん、お兄さんは、かなりの女好きだよね?」
「な、何を言う。俺は、超が付くくらい硬派だぞ」
「……お兄さんのパーティが、まるでハーレムみたいに女性ばかりなのに?」
ハーレムだなんて……す、少し前までは男も居たんだぞ? 何故かどこかへ行ってしまったが。
『ヘンリーさん、凄いです。見事なまでに、ぐうの音も出ない状態ですね』
(うぐ……だが、ヴィクトリーヌは俺が呼んだ訳じゃないぞ)
『ですが、ドロシーさんとプリシラさんはヘンリーさんが選びましたよね? 胸が大きいっていう選考基準で』
アオイが煽ってくるが、本当に何も言い返せる要素が無かった。
これが、ぐうの音も出ないという事か。
「まぁ女性が多いパーティなのは認めよう。だが、それがどうしたんだ?」
「……ん、養ってくれるなら、少しくらいラウラちゃんを触っても良い」
「いや、俺に男を触る趣味はないんだが」
「……ラウラちゃん、女の子」
「……マジで?」
「……マジ。あと、お兄さんはラウラちゃんを抱えているけど、ずーっと胸を触ってる」
胸を触っているって言われても、ラウラに胸なんて無いだろうがっ!
確かに小柄で軽いとは思っていたけれど、髪の毛も短いし、服だって……あ、良く見たら短パンだと思っていたけど、スカートだったのか。
一先ず、胸を触っているつもりなんて全く無いのに、胸を触っていると言われるのは納得いかないので、ラウラを地面に降ろす……って、そのまま寝転びやがった!
「ん? って、ちょっと待った! その服、スカートどころか、ただのブカブカのシャツだけかっ!」
「……ん、この服が一番楽。これ一枚で全て隠れる。それよりラウラちゃんも、おんぶか抱っこが良い。立つの面倒。胸を触っても良いから、運んで」
「お、お前な……」
「……ん? ずっと幼い女の子をおんぶしているし、お兄さん――ううん、兄たんはロリコンじゃないの? ラウラちゃんを触れて嬉しいでしょ?」
「ロ……おい、誰がだ。というか、兄たんって呼ぶな。ラウラは俺より年上なんだろ!?」
ゴロゴロしながら、早く抱きかかえてよ……と言わんばかりの表情を向けて来るラウラを前に、どうしてやろうかと考えていると、
「にーに。ロリコンってなーに?」
「……お嬢ちゃん。それはね、この兄たんみたいに、幼い……」
「分かった! とりあえず、暫くラウラを一緒に連れて行くから、ユーリヤに変な事を吹きこむなっ!」
いつもと変わらぬ様子で問いかけてくるユーリヤに、ラウラが変な事を言おうとしていたので、慌てて止める。
「……ん、じゃあ決まりー。よろしくー。あと、運んで。歩きたくない」
相変わらず面倒臭そうなラウラを抱え、テレポートを使って一先ず皆の所へ戻る事にした。
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