午後。
またもやエリーと訓練室へ来たのだが、監視役のつもりなのか、基礎魔法コースの代表委員――ロレッタちゃんという女の子がイザベル先生の指示で一緒に居る。
ロレッタちゃんは如何にも代表委員ですと言った感じで、制服を一切着崩さず、長い金髪を三つ網にした眼鏡の少女で、秀才とか真面目とかって言葉がピッタリな少女だ。
おそらく、自分の魔法の勉強に集中したいのだろうが、環境が違うからか落ち着きがない。
訓練室へ来てから、俺もエリーも何もしていないというのに、魔導書に視線を落としては、時折俺たちに視線を送ったり、キョロキョロしたりと、ずっとソワソワしている。
「えーっと、ロレッタちゃん?」
「は、はいっ! な、何ですか?」
「いや、ごめんな。俺のせいで、こんな所へ来るハメになって」
「そ、それは……『こんな所へ来るハメになって、可哀そうになぁ。もう逃げられねーから、観念するんだな!』という事ですか?」
「え? あ、まぁ……うん」
イザベル先生の指示で来ている訳だし、ロレッタちゃんは逃げられないから、概ね意味は合っているんだが、変な補足を付けられてしまった。
まぁそういう癖がある子なのだろう。
それよりも、監視役のロレッタちゃんは、俺とエリーが何をしていたかイザベル先生に聞かれるだろうし、とりあえず魔法の練習っぽい事をしておこうか。
「あ、そうだ。丁度良い物がある。エリー、錬金魔法で作ってもらいたい物があるんだけど」
「なぁにー? ハー君とエリーの子供を作るのー?」
「こ、子供っ!? や、やっぱりお二人は毎日訓練室で……せ、先生に言われているし、ちゃんと観察しないといけないよね。うん。私、代表委員だしっ!」
何だろう。ロレッタちゃんが盛大な勘違いをしている気がする。
エリーの言う子供っていうのは、ホムンクルスの事であって、決して変な意味では無いのだが。
何度か教室で訂正もしたし、同じコースの女の子たちには誤解が解けていると思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
「あのね、ロレッタちゃん。俺たちが子供を作る……」
「えぇっ!? わ、私にも参加しろと仰るんですか!? は、初めてですが、よろしくお願いします!」
「違うっ! とりあえず、脱ごうとしなくて良いから! ……ユーリヤも真似をしないの! ……って、エリーは何で既に脱いでんだよっ!」
ローブとブラウスを脱ぎ、上半身が薄い肌着だけになっているエリーを止め、半裸で走り回るユーリヤを追いかける。
何これ。何なの、このカオス。
「あ、あのっ! 服は脱いでも、眼鏡と靴下はそのままが良いんですよね?」
「ロレッタちゃんは何の話をしているのっ!? だから、脱がなくて良いんだってば!」
「えー? ハー君、子供を作る時はローブを脱いでおかないと、汚れちゃうよ?」
いや、だからエリーが言っているのは子供じゃ無くてホムンクルス……って、さっきと同じ事をやってないか?
「エリー。確かにエリーの言う通り、ホムンクルスを作る時は服が汚れる事もある。実際に汚してしまった事もあった。けどな、今日はホムンクルス作りじゃないんだ」
「なーんだ。そうだったんだー。もー、それを早く言ってよぉー」
「言う前に脱いだだろ? それより服を着ようよ。ユーリヤが真似してるからさ」
ユーリヤが居なければ脱いでも全く問題ないどころか、むしろウエルカムなんだけど、変な事を覚えさせて外でユーリヤが脱ぎ出したりしたら、間違いなく通報されるからね。俺が。
全く困ったものだ……って、ユーリヤは未だ走り回ってたよ。
仕方が無いので、ちょっとだけ本気でダッシュし、
「ユーリヤ、捕まえたー」
「あはははっ! つかまっちゃったー!」
「はい。じゃあ、沢山逃げられたから、ユーリヤにはご褒美のジュースだよ。零さないように、ここで静かに飲んでね」
「はーい!」
何とかユーリヤを止める事に成功した。
「凄い。ヘンリー君のお父さんスキルが高過ぎて、同級生とは思えないよ」
「ロレッタちゃん!? お父さんスキルって何!?」
「見た目も悪くないし、既に王宮へ仕官済みだし、子供の相手も出来る……エリーちゃん。優良物件をゲットして良かったね」
ロレッタちゃんから謎の評価を受けつつも、時間が勿体無いのでサラっと流して本題へ。
「エリー、これとこれを錬金魔法で合成してくれないか?」
「いいよー。けど、何これー?」
「こっちがピンクスライムの欠片で、こっちはクリムゾンオーキッドっていうお花だよ」
「ふーん。良く分からないけど、この二つを混ぜ合わせれば良いんだよねー?」
通称エロスライムの欠片と、幻覚作用のあるヤバい花――この二つを錬金魔法で混ぜ合わせると、エッチな気分になる効果付きの惚れ薬が出来るらしい。
エリーの邪魔をしないように、ユーリヤの相手をしながら待って居ると、
「ハー君。出来たよー」
エリーの手にピンク色の錠剤みたいな物が三錠乗っていた。
これを相手に飲ませれば良いのだろうか。
早速一粒エリーに飲んでもらおうかと思ったのだが、じーっとロレッタちゃんがピンクの錠剤を見つめている。
これをエリーに飲ませた途端に変な行動を取ったりしたら、俺が変な物を作らせたと即バレてしまう。
一先ず、出来あがった惚れ薬を回収して、別の時に試すか。
「エリー、ありがとうな。助かったよ」
「ううん、大した事がないよー。どういたしましてー。……ところで、ハー君。さっきのって何だったのー?」
「いや、別に……あ、そうそう。ロレッタちゃん。何か魔法で困っている事は無い? ほぼ宮廷魔術師の俺が、魔法を教えてあげるよ」
エリーの話を逸らす為に、ロレッタちゃんに魔法を教えてあげ――実際に教えてくれたのはアオイだが、
「凄いよー! 今までエッチな事が一番得意な人だと思っていたんだけど、ヘンリー君の教え方は、すっごく分かり易かったよ! ねぇ、また教えて貰っても良いかな?」
「は、ははは……ど、どうぞ」
良いのか悪いのか分からない、微妙な褒め方をされてしまった。
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