スライムと戦った後、一本道を暫く歩いていると、
『ヘンリーさん。そこに罠があります。止まってください』
突然アオイが罠があると言いだした。
「全員ストップ。どうやら、この先に罠がありそうだ」
「凄い! お兄ちゃん、ご先祖様の罠が見えるの!? ルミには全く分からないんだけど」
「え? あ、うん。ま、まぁね」
(おーい、アオイ。どこに罠があるんだ?)
『すぐそこですよ。足元に、魔力が流れているじゃないですか。おそらく、その魔力の線を踏んだ瞬間、何かしらの罠が発動しますよ』
(……マジで? 俺には全く見えないんだが)
『とにかく、足元の魔力に気を付けてください』
……って言われてもなぁ。見えない以上、気をつけようが無いんだが。
とりあえず、言われた通りに伝えておくか。
「えっと、俺の足のすぐ近くに魔力が流れているだろ? おそらく、これを踏んだら罠が発動するはずだ。全員踏まないように」
「……お兄ちゃん。よく分からないけど、大きくジャンプすれば大丈夫かな?」
「あぁ、そうだな」
三人が大きくジャンプし、罠を発動させる事なく、通過する事が出来た。
ちなみにルミは普段通りの格好だが、マーガレットとアタランテの二人は、先程のスライムにスカートをボロボロにされてしまったため、マーガレットが着替え用にと買っていた洞窟探索に全く相応しく無い、可愛らしさ重視のミニスカートを履いている。
スカートが短すぎて、ジャンプしただけで簡単にパンチラが拝めたのだが、同じパンツなのに、丸見えにしている状態よりも、こういうチラリズムの方が目を奪われてしまうのが、人間の不思議な性だ。
『それはヘンリーさん限定じゃないんですか?』
(いやいや、違うって。男は皆、隠されている物を見てしまう習性があるんだって)
『本当ですか? ただのヘンリーさんの性癖な気がしますけど』
性癖とかじゃなくて、男の本能だってば。
人聞きの悪い事を言うアオイに反論した後、少し考える。
「あー、これからここを度々通る事になるので、何か分かり易い目印を作っておこうか」
「そうだねー。今回だって、一先ず二階層の探索を終えたら一旦戻るんだよね?」
「その通りだ。さっきスライムにボロボロにされたスカートを捨てなければ、ここに目印として置いておいても良かったんだけどな」
「いや、あれはどうかと思うよ? というか、あのスカートだって、お兄さんが私のパンツを見たいが故に、ボロボロにさせられたんだからね?」
マーガレットの言う通り過ぎて何も反論出来ないが、一先ず目立つ何かは必要だろう。
幸い、土系統の魔法は使用出来るので、
「マテリアライズ」
具現化魔法でクレイモアもどきを作り、地面に突きさしておく。
これなら目立つし、次に通る時にも気付くだろう。
俺も三人に倣って足元の床を飛び越え、改めて先へ進もうとした所で、壁際に箱が置いてあるのに気付いた。
いわゆる宝箱と呼ぶ形をした箱だが、罠が仕掛けられているという洞窟で、しかも通路にそのまま置かれているなんて、どう考えても怪しい。
というか罠以外に考えられないし、そもそもこんなレベルの罠に引っ掛かる奴なんて居ないだろうと思っていると、
「あ、お兄さん。宝箱があるよ。何か良い物が入っているかな?」
「お、おい、マーガレット! 不用意に開けるな!」
「えっ?」
「えっ?」
きょとんとした表情のマーガレットと目が合う。
そのままの格好でマーガレットが固まっているけれど、既に宝箱を開けてんじゃねーか!
その直後、ザバッと地面の下から何かが現れた。
何だっ!? と思った時には、柔らかくてムニムニしたものに俺の身体が押し潰される。
「な、何だ!? こ、これは……網!?」
「お兄さん。これって、罠……だよね?」
「あぁ、思いっきり罠だな」
マーガレットが宝箱を開けた瞬間、どうやら地中から網が現れ、そのまま宙吊りにさせられているようだ。
剣で切れば脱出出来そうだが、おそらく一つの網に皆が入ってしまって、揉みくちゃになっているから、この状態で剣を出すのは危険だ。
というかそれ以前に、俺の右手が柔らかい何かに挟まれている。
これは……この柔らかさとスベスベした肌触りは、おっぱいか!?
しかし、こっちが触るだけでは無く、誰かの何かが俺の腰にぶつかっている。これは何だ!?
「あ、あの……お兄さん。い、言い難いんだけど、私の顔にお兄さんのが……その……」
「何だ? マーガレット、現状報告はハッキリ言ってくれ。さぁ、大きな声で」
「ちょ、お兄さん! これ、わざとやってるの!? それとも、罠を発動させてしまった私へのご褒美――じゃなくて、罰なの!?」
……なるほど。暗闇なのと、俺の顔の上に何かが乗っているから、視認では位置関係が全く分からないが、俺の腰付近に居るのはマーガレットか。
じゃあ、俺の右手が挟まれているのは、アタランテのおっぱいという事か。流石に、ルミの胸は俺の腕を挟める程の大きさでは無いしな。
唯一自由なのは俺の左腕くらいだが、さてどうしたものか。
左腕に小型のナイフでも具現化させて、網を切ってしまえば脱出出来るだろうが、この宙吊りがどれくらいの高さなのかが分からないのが困った。
もしも、かなりの高さまで持ち上げられていたとしたら、落下のダメージで怪我……最悪、頭を打ったりしたら、死亡する高さだったとしたら不味い。
カンテラは……誰かの身体の上に乗っているのか、全く関係の無い壁を向いていて、床までの高さが分からない。
先ずは、何とかしてあのカンテラを下へ向けなければ。
「ちょ、ちょっとお兄さん。動かないでよっ! 私のほっぺたにスリスリさせないでっ!」
「何をだよっ! って、マーガレット。そのカンテラを下へ向ける事は出来ないか?」
「カンテラ……って、無理だよー! 正直、それどころじゃなくて……あふっ!」
マーガレットは無理か。だったら、アタランテはどうだろうか。
さっきから俺の腕を柔らかい胸で心地良く挟んでくれているのは嬉しいのだが、そろそろ真面目に脱出しなければ。
「アタランテ。アタランテってば」
「……」
俺のすぐ右手側に居るはずなのに、何故か返事が無い。
あの罠で気を失うとは思えないが、念のため、力任せに右腕を激しく動かしてみる。
「――ッ!」
「おい、アタランテ。何で、さっきから無言なんだ?」
「……貴方。私がどうかしたのかい?」
……あれ? 予想外の方向――真下からアタランテの声が聞こえてきた。どうなっているんだ?
「アタランテ? 今、どこに居るんだ?」
「どこにって、貴方たちの真下だよ。真下から何か来ると思ったから避けたんだけど、そうしたら開けた宝箱が動き出してね。いわゆる、ミミックって奴かな。ちょっと手こずったけど、今倒した所だよ」
なるほど。アタランテは一人罠を回避して、下で戦ってくれていたのか。
猫というか、獅子の力を持つアタランテだし、夜目も効くのだろう。
「って、待てよ。じゃあ、ずっと俺の右腕を挟んで居る柔らかい物は何だ?」
「う……うぅ、お兄ちゃん。ずっとグイグイ腕を動かすから、ルミの太ももがくすぐったかったよぉ」
な、なんだと!?
あの柔らかい感触は、アタランテのおっぱいじゃなくて、ルミの太ももだって!?
『……おまわりさんこっちです!』
違う、違うんだ! 俺は、アタランテのおっぱいを触っているつもりだったんだー!
アタランテの胸なら触っても良いという訳ではないけれど、暫く心の叫びが続く事となってしまった。
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