「ただいま」
「ただいまー」
領主代行を父親に頼む事になったので、その事を皆に話し、約束したマジックアイテム開発用の家の構築に取り掛かる事にした。
だが、大きな屋敷があまりに立派すぎるので、俺の具現化魔法で作る岩の家だと流石に見劣りが酷い。
そのため、領主という体面もあるあので、正面の門から見て屋敷の裏へ隠すような場所に、父さん用の家を作る。
ここなら、来客があってもあまり見えないだろうし、何かあってもすぐに駆け付けられるから問題ないだろう。
一先ず、家の形にしたのと、作業台と椅子も作ったので、とりあえずこれで良しとしよう。
作業を終えた俺は一旦屋敷に戻り、
「マーガレット、マーガレットー! ちょっと来てくれ」
マーガレットを呼び出す。
どうやら寝ていたらしく、顔によだれが付いているが……まぁそこは良しとしよう。
「ん? お兄さん、どうしたの?」
「ちょっと相談なんだけど、三階のフロアに俺たちしか入れない……というか、ある特定の人物だけが通れないようにする、結界みたいな魔法って知らないか?」
「んー……悪魔や魔物だけが通れず、人間は通れるっていう結界なら知っているけど、特定の人だけを……っていうのは知らないかな」
残念。マーガレットなら、悪人だけを退ける魔法が使えるんじゃないかって期待したんだけど、そんなに都合の良い魔法が有るわけではないのか。
「うーん。ちょっと具体的に聞くけど、特定の人物って誰を通せないようにしたいの?」
「領主代行」
「それって、お兄さんのお父さんなんだよね? 通さなくて良いの?」
「あぁ。アイツは、夜に何をしでかすか分からないからな」
「……えっと、もう一度聞くけど、お父さんなんだよね?」
困惑するマーガレットを横目に、どうすべきか考える。
変態が三階に通れないようにして、ユーリヤやノーマ、メリッサを魔の手から守らなければ。
『ヘンリーさん。侵入不可とする条件は、正しく設定しないとダメですよ』
(どういう意味だ?)
『今、お考えになられたような、変態を侵入不可とする結界を張ってしまったら、ヘンリーさんまで入れなくなりますからね』
(俺は変態じゃないっての。けど、この屋敷には部外者を立ち入り禁止に、三階には父さんを立ち入り禁止にする……が理想だな)
『そういうのは、魔法というよりマジックアイテムの方が向いているかもしれませんね。エルフの村も魔族に感知されないようにするマジックアイテムがあると言っていましたし』
(なるほど。けど、そのマジックアイテムに詳しいのが、その通したくない父親なんだよな)
どうしたものかと考えていると、少し離れた所で様子を窺っていたクレアが話し掛けてきた。
「あの、ヘンリー様。もしかして、防御魔法を御所望ですか?」
「防御魔法か。まぁ防御とも言えなくは無いかな」
「私、フローレンス様の警護にあたっていた事もあって、専門ではないですけど、防御関連のマジックアイテムなども、それなりに知識はあります。神聖魔法のスペシャリストだというマーガレットさんに協力いただければ、何かしら手が打てると思いますが」
「なるほど。じゃあ、頼んでも良いか? マーガレットも協力して欲しいんだ。明日になればターゲットが来る。仕組みが完成するまでは、何かしら別の手を考えるからさ」
別の手……睡眠魔法で眠らせるとか、交代で見張りに就くとか、具現化魔法で生み出した岩で扉を防ぐとか。
これらを毎晩するのは骨が折れるし、あくまで防御手段が完成するまでの暫定対応として。
「とりあえず、協力するのは全然構わないよー。とりあえず、明日ヘンリーのお父さんがどういう人か見てみて、対策を考えるよ」
「すまないが、二人とも頼む」
一先ず、三階の居住フロアの防御は任せるとして、次は領主の屋敷周辺だな。
俺が不在の時でも安全に……って、今まではノーマたち三人しか居なかったのに、警護とかはどうしていたのだろう。
田舎だから凄く平和だったとか?
三人の誰かに聞いてみようと思い、庭に居るであろうワンダを探そうと屋敷から出ると、
「あー、ヘンリー! 約束のご褒美ちょーだーい!」
イロナが駆け寄ってくる。
「俺が与えられる物なら構わないぞ。何が良い?」
「時空魔法教えてー!」
「却下」
「ぶー。ご褒美くれるって言ったのにー」
「それは無理だって言ったろ? 時空魔法とか無詠唱魔法とか以外で」
イロナといい、ルミといい、エルフは魔法が好きだよな。
けど、教えられないものは教えられないからな。
「じゃあー、ワンダちゃんが欲しい」
「……えっ!? イロナ、そっちの趣味だったのか!?」
「そっちのって?」
「え? だから、女の子だけど女の子が好きっていう……」
「違うよ? 普通に男の人が好きだしー、男の人に興味があるけどー、それよりもエルフとしての好奇心っていうのかなー。研究意欲に燃えるっていうかー」
エルフとしてワンダを研究する?
ワンダは、ちょっと背が高いだけであって、普通の女性だと思うんだけど。
「イロナちゃん。百年以上生きてるけどー、人間の家に仕えるドライアドなんて初めて見たしー、気になるよねー」
「ん? ドライアド? ドライアドって?」
「え? 気付いてなかったの? ワンダちゃんはドライアドって呼ばれる、樹の妖精だよー」
「……マジで?」
「うん。イロナちゃん、エルフだからねー。見てすぐに分かったよー」
イロナ……そういう事は、最初に教えて欲しかったよ。
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