ニーナにそれなりの広さがある場所へと案内してもらい、その腕前を見る。
「えいっ!」
――ぼよんぼよん
「やぁっ!」
――ぼよよん
「とぉっ!」
――ばぃーん
「隊長。ボク、どうでしょうか」
鎧を身に着けず、長剣だけを手にして振るい、シャツが汗で薄らと胸に張り付いたニーナが、オズオズと俺に問いかけてくる。
だが、正直剣を振るう度に揺れる胸に目が行ってしまい、剣の腕前がどうこうという話以前の問題だった。
ただ、集中して見れてはいないものの、正直剣の腕はイマイチだ。
士官学校の戦闘科でさえ、ニーナよりも手練れの生徒が何人か居るだろう。素人とは言わないまでも、動きがぎこちなく、澱みがある。
はっきり言って、どうしてこの腕で正規の騎士になれたのか……ま、まさか、その暴力的と言える破壊力抜群の身体を使って採用担当者を虜にしたのか!?
「……ニーナはどこかで剣を学んだのか?」
「はい。十歳の頃からハワード流剣術を学んでいました」
「なるほど。王国三大流派の一つか」
「ですが……十三歳頃までは、師範代からも神童と褒められたのですが、その辺りから思うように剣が振るえなくなって、今では昔のように剣を振るおうとしても、上手く行かなくて」
「十三歳頃から……って、今ニーナは何歳だ?」
「え、十六歳ですが?」
「……気になる事がある。軽くで良いから、もう一度剣を見せてくれ」
不思議そうな表情を浮かべるニーナだが、俺の指示に従い、再び剣を振るう。
身体を動かすたびに大きな胸が上下左右に、ばぃんばぃんと激しく揺れて、目を奪われる。
「……ヘンリー。ちょっとニーナの胸を見過ぎではないかしら」
「いえ、その胸が重要でして」
「……ふぅん。ヘンリーは大きな胸が好きなんだ。けど、私だって脱いだら凄いのよ?」
「フローレンス様!? 何か勘違いされていませんか!?」
何故かフローレンス様がジト目で俺を見つめてくるが、一回目はともかく、今のはニーナの揺れる胸を楽しむ為に見て居た訳ではない。
というのも、ニーナはまだ十六歳にしてこの爆乳だ。
という事は、十三歳の頃でも十二分に胸が大きかったのではないかと思う。
だから……っと、丁度ニーナが戻って来た。
「あ、あの……隊長。いかがでしょうか?」
最初と合わせて、少し長い時間剣を振るっていたからか、はぁはぁと息を荒げ、顔を赤く染めたニーナが上目遣いで俺を見つめてくる。
しかも、シャツの胸元からは、玉の様な汗が浮かぶ大きな肌色の膨らみと谷間が見えていて……いや、ここは隊長として真面目に行こう。
「ニーナ。これは俺の予想だが、ニーナは小さい頃から胸が大きかったんじゃない?」
「えっ!? う……は、はい。十歳頃から胸が膨らみ始めてしまって、男の子からはからかわれたり、触られたりしました……」
「何ぃっ!? じゃあ俺も……コホン。それで十三歳の頃には、かなり大きくなっていたと思うんだけど」
「そ、そうですね。街を歩いていても、ジロジロと胸を見られるようになってしまって……」
「なるほどな。今のニーナが、幼い頃よりも剣の腕が鈍くなった理由も分かった」
「ど、どうしてですか?」
「それは、ニーナの胸が大き過ぎるからだ。剣を振るう時に、その大き過ぎる胸が邪魔になって、幼い頃――まだ胸が邪魔になるほど大きくない頃に積み重ねたイメージ通りでは、もう剣が振るえないんだ」
「え、えぇぇぇっ!」
ニーナがめちゃくちゃショックを受けているのだが、気付いてなかったのかよ!
というか、初対面の俺が少し見て気付いたくらいなんだから、誰か言ってやれよ……って、なかなか言えないか。
女性の騎士って少ないし、男からニーナは胸がでか過ぎるから剣が上手く使えないんだとは言い辛い。下手をすれば、言動に対して懲罰がありそうだしな。
「ニーナ。今はただの素振りだが、実戦では鎧を着るだろ? それなら胸が邪魔にならないんじゃないのか?」
「……ダメなんです。ボク、胸が大き過ぎて、騎士の鎧が着れないんです」
素晴らしい! じゃなくて、それは大変だ。
「うーん。特注で作ってもらうにしても、規格外の形だと時間が掛かりそうだし、レザーメイルくらいじゃ、その胸を抑える事が出来無さそうだしな」
「うぅ……ごめんなさい」
「いやいや、謝る事なんかじゃないだろ。むしろ、誇っても良いくらいなんだから」
「え?」
「え? あ、なんでもない……って、待てよ。そう言えば、ジェーンもかなり胸が大きいのに、剣の腕は素晴らしかったな」
そうだ。ジェーンにニーナへ巨乳剣術を伝授してもらえば良いんだ。
巨乳剣術……我ながら、物凄く良いネーミングだな。言ったらドン引きされそうだけど。
『えぇ、その通りです。引きまくってますよ、ヘンリーさん』
いつもの様にアオイのツッコミを聞き流していると、
「ヘンリー。その胸が大きいジェーンって、誰の事なのかしら?」
何故かフローレンス様がニコニコしながら問いかけてきた。
……ただし、目は笑っていないが。
「ほ、ほら、例の魔法大会で俺が召喚した女性騎士ですよ。覚えていらっしゃらないですか? 一緒に魔族と戦った……」
「あ! なるほど。あの女性ね! 確かに、素人の私が見ても素晴らしい動きでしたものね」
「魔族と!? 隊長、お願いします! どうか、ボクをそのジェーンさんという方に会わせてください!」
ジェーンの事を覚えていたらしく、フローレンス様がいつもの優しい目に戻り、興奮したニーナが俺に迫って来る。
気付いているのかいないのか、胸が少し俺に当たっているのだが、良いのだろうか。
「フローレンス様。ジェーンを王宮に呼んで、ニーナの指導に当たってもらっても構いませんか?」
「もちろん。あの女性も魔族と戦ってくれた私の恩人であり、何よりヘンリーが召喚した人なのでしょう? 全く問題無いわ」
「ありがとうございます」
フローレンス様の許可をいただいたと言う事で、改めてニーナに向き直る。
「という訳で、ニーナ。これから、ジェーンの剣を学ぶ事。第三王女直属特別隊としての最初の任務だ」
「はいっ! 頑張りますっ!」
ふふふ……巨乳ジェーンと爆乳ニーナのおっぱい剣術道場か。最高だな。
アオイから『サイテーの発想』と言われながらも、内心喜びまくっていると、フローレンス様が何かを思い出したかのように手を叩く。
「そうだわ。今の学ぶという言葉で思い出したんだけど、魔法学校が再開されるみたいね。一先ず、ヘンリーは魔法学校への出席を最優先としてね」
「……え? えぇ? ど、どういう事ですか?」
「だって、ヘンリーはまだ学校を卒業していないのでしょう? 私の権限で第三王女直属特別隊隊長として内定はしているけれど、学校を卒業していなければ私でもどうにも出来ないもの。だから、先ずはちゃんと学校を卒業してきてね」
な、なんだってー!
既に記憶の彼方へ完全に追いやられて居た魔法学校の授業が再び首をもたげ、俺はその場で呆然としてしまったのだった。
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